2025 年 37 巻 1 号 p. 67-72
生物の成り立ちや細胞機能を知る上で、からだの形態や組織の構造を観察することは非常に重要である。しかし通常、生物の体は不透明なため、体内を生きたまま観察するのは困難である。二光子励起顕微鏡は共焦点顕微鏡などに比べて組織への侵襲性が低く、深部到達性が高いため、生体深部を観察するのに適した顕微鏡である。筆者はこの二光子顕微鏡を用いて植物組織の深部イメージングに適した蛍光タンパク質と励起波長を明らかにしてきた。また、生きたままシロイヌナズナのめしべ内部を覗き見る新しい観察法を確立することで、花粉管誘引や受精の様子を生体内で捉えることに成功した。これにより、雌雄両配偶体と母体の各細胞による花粉管挙動の時空間的な制御と、多段階の多精拒否のメカニズムが明らかとなった。本稿ではこれら最新の成果に加え、植物組織の生体深部観察のコツや観察法を確立した経緯についても併せて紹介する。
Imaging and analysis of precise morphology and tissue structure are important for understanding the development of organisms and tissue structure. However, it is generally difficult to visualize the deep tissues of living organisms because the body of organisms is opaque. Two-photon excitation microscopy achieves deeper penetration and reduces photodamage compared to single-photon excitation, such as confocal microscopy. Therefore, it is widely used for in vivo live imaging. We have demonstrated the importance of selecting both appropriate fluorescent proteins and excitation wavelengths for clear two-photon imaging in deep plant tissues. We also developed a two-photon live imaging method, named single-locule method, to directly observe the process of pollen tube guidance and fertilization in the pistil of Arabidopsis thaliana. Spatiotemporal regulation of pollen tube growth by each cell of the female and male gametophyte and maternal tissues results in multistep polyspermy blockings that achieve successful fertilization. In addition to these recent studies, this review also provides tips on how to observe deep plant tissues in vivo and how the single-locule method was established.
被子植物の花の内部では花粉から花粉管が発芽し、めしべ内を胚珠に向かって伸長する(図1)。花粉管が胚珠へと導かれるしくみは花粉管誘引と呼ばれる化学屈性の一種 (Mizuta and Higashiyama 2018) であり、近年、その分子機構が明らかになりつつある (Hafidh and Honys 2021)。一方で、花粉管誘引だけでは説明がつかない多精拒否(多花粉管拒否)と呼ばれる興味深い現象も知られている。シロイヌナズナのめしべには約50個の胚珠と約70本の花粉管が含まれるが、各々の胚珠は花粉管を1本ずつ誘引し、一つの胚珠に複数の花粉管が群がることはほとんどない。我々はこのしくみを胚珠と花粉管の「一対一誘引」と呼んでいる(図1)。花粉管が胚珠へと一対一で誘引されれば、1つの花から50個の種子ができる。一方で、1つの胚珠に複数の花粉管、たとえば全ての花粉管が誘引されてしまうと、種子は1個しかできず残りの49個の胚珠が無駄となってしまう。すなわち、一対一誘引とは花粉管と胚珠を無駄にせずより多くの種子を残すのに重要なしくみであり、種子増産や稔性向上など、農作物として植物を利用する我々人類にも重要なしくみといえる。しかしその重要性にも関わらず、生体内における一対一誘引の実態や分子機構には未だ不明な点が多い。その原因として、花粉管の伸長や受精は花の組織の最深部で起こるが、植物体は不透明なため、深部観察や解析が困難であった点が挙げられる。そのため、これまでは主に解剖して取り出した胚珠と花粉管を培地上で観察する方法 (Palanivelu and Preuss 2006) や、化学固定によって生命活動を停止させためしべを試薬によって透明化し、観察する方法 (Hériché et al. 2022) が用いられてきた。しかしこれらの方法では組織や細胞の位置関係や時間情報が失われてしまうため、一対一誘引の詳細な解析は困難であった。
そこで上記のような問題を解決する方法として、動物分野において生体深部観察に優れた成果が得られていた二光子顕微鏡を用いて、植物でも生きた組織の奥深く、すなわち生体深部イメージングが試みられた。二光子励起顕微鏡は多光子励起過程を利用した蛍光顕微鏡であり、通常の一光子励起に比べて焦点面以外の光毒性が少なく低浸襲なため、生体イメージングに適した顕微鏡である。また、励起光に近赤外光を用いるため、試料内部での光の散乱の影響を受けにくく、より深部を観察できるという特徴がある (Mizuta 2021)。しかし実際にシロイヌナズナのめしべを観察してみると、子房内部の花粉管の観察は数秒程度ライブイメージングすることさえ困難であり (Cheung et al. 2010)、一対一誘引を観察できるほど長時間観察することは困難であった。それは後述する生体深部イメージングを妨げる植物特有の問題点があったためである。

図1 シロイヌナズナの花のめしべ内部の模式図。
植物、特に被子植物に代表されるような陸上植物では、葉や茎などの組織は乾燥や食害から身を守るため硬い細胞壁で覆われている。この細胞壁には、リグニンなどの緑色から黄色の強い自家蛍光を発する物質が多く含まれている。また、光合成に必要な葉緑体に含まれるクロロフィルも強い赤色の自家蛍光を発する。そのため、組織深部で蛍光タンパク質の微弱なシグナルを観察したい場合、これらの自家蛍光は大きな妨げとなる (Müller et al. 2013)。このような自家蛍光を避けつつ生体深部イメージングを行うにはどうしたらよいだろうか?それには組織ごとに最適な励起波長と蛍光タンパク質を選択することが重要である。図2Aは胚珠の各細胞を標識したFGR8.0 (Völz et al. 2013) のシロイヌナズナのめしべを丸ごと共焦点顕微鏡(励起波長:488 nm, 561 nm)で観察したものである。一光子励起ではめしべ表皮に緑色の強い自家蛍光が観察されるのがわかる(図2矢印)。すなわちGFPなどの緑色蛍光タンパク質のシグナルは、表皮の自家蛍光にマスクされて詳細な観察が難しいことを意味する。一方で、二光子励起では緑色の自家蛍光が抑えられ、めしべ内部の胚珠の各細胞をはっきり観察することができる(図2矢じり)。図2Bはシロイヌナズナの花粉に色々な蛍光タンパク質を発現させ、二光子顕微鏡でスペクトルイメージングしたものである。980 nmで励起した場合は山型のシングルピークが検出されるが、800 nmで励起した場合は450〜540 nmの範囲に細胞壁による自家蛍光が含まれるため、いわゆる「ゲタ」を履いた状態になっていることがわかる。つまり二光子励起においても、青〜黄色の蛍光タンパク質を観察したい場合は980 nm以上の長波長励起を用いるか、蛍光タンパク質を橙〜赤色に変更することが望ましい (Mizuta et al. 2015)。我々の研究からは、橙色の蛍光タンパク質を980-1,000 nmの長波長で励起することで、自家蛍光の影響を最小限にとどめてシロイヌナズナのめしべ深部を観察できることが分かっている。一方で、タバコやジャガイモなどのナス科のめしべや花粉の細胞壁は青色の強い自家蛍光を発するため、シロイヌナズナとは異なり青色蛍光タンパク質の観察が難しい (Nagahara et al. 2021)。また、近年では様々な特徴を持った蛍光タンパク質が開発されており、mNeonGreen (Heppert et al. 2016) やmScarlet3 (Gadella et al. 2023) など従来よりも数倍明るいもの、StayGoldのように光安定性が高いもの (Hirano et al. 2022) 、長波長励起が可能なもの (Matlashov et al. 2020, Shang et al. 2024) などが続々と発表されている。このように、深部イメージングに適した励起波長や蛍光タンパク質は組織や植物種、目的によって異なるため、事前に野生型の目的の組織を観察してから蛍光タンパク質などのプローブを選択することが重要である。後々後悔しないためにも、形質転換体の作出に時間がかかる植物種ほど事前に調査することが大切である。

図2 2光子励起顕微鏡の特徴。(A) 胚珠の各細胞を標識したFGR8.0のめしべ深部の観察像。矢じりは胚珠。胚珠の助細胞の核はGFP(緑)、卵細胞の核はdsRed(マゼンタ)で標識されている。1光子、2光子ともに赤色の自家蛍光が観察されるが、1光子励起ではさらに矢印に示すように緑色の強い自家蛍光も観察される。 (B) LAT52プロモーター下で各蛍光タンパク質を発現させた花粉の蛍光スペクトルの比較。 Bar = 100 µm. 図はMizuta et al. (2015) より引用・改変。
上記のように、我々はシロイヌナズナの生体深部イメージングに適した条件を明らかにしてきた。しかし、この条件を持ってしてもめしべの生体深部イメージングは困難であった。上述の問題点だけでなく、そもそもめしべの構造が非常に複雑なためである。シロイヌナズナのめしべの長さは約2 mm、幅は約400 μmで細長い形をしており、中心に隔壁と呼ばれる構造によって隔てられた2つの子房室(locule)にそれぞれ胚が縦に並んだ構造をしている(図 1)。この子房室には液体や細胞が詰まっているわけではなく、空洞となっている。めしべの先端にある柱頭に花粉が受粉すると、花粉から花粉管が発芽し、隔壁の中にある伝達組織と呼ばれる構造の中を伸長していく。その後、花粉管は伝達組織から隔壁上に這い出し、珠柄と呼ばれる枝状の組織の上を胚珠に向かって伸びていくことで胚珠の入り口へと到達し、胚珠内部に侵入して受精へと至る(図1)。この一連の過程を観察するにはめしべを側面から観察することになるが、図3Aに示すように厚い子房壁→空気→胚珠→空気→隔壁、と屈折率の異なる構造を経てようやく伝達組織内の花粉管に到達できるため、このような複雑な構造が光の散乱の原因となっていると考えられた。そこで、筆者らは花粉管や胚珠にできるだけ影響を与えずに余分な構造を取り除き、深部イメージングできる観察法を検討し、Rotmanら (2003) の方法に着想を得て新しい観察方法を編み出した。それがSingle-locule法、通称「かまぼこ法」である (Mizuta et al. 2024)。この方法では、隔壁に傷をつけずに1つの子房室だけを取り除き、乾燥を防ぐために切り口を培地で塞いで隔壁側をガラスボトムディッシュの底面に置床する(図3B)。その後、シリコンフィルムの枠で囲い、乾燥しないように蓋をすることで、小さなチャンバーを作る。この時、めしべの横断面が「かまぼこ」の形になることからこのように呼んでいる(図3B右)。これにより、屈折率が変わることによる影響を最小限に抑えて花粉管の挙動を観察することが可能になった。これまで不可能であった伝達組織内と子房室内を伸びる花粉管を生きたまま見ることが可能となったのである。

図3 めしべの構造とSingle-locule(かまぼこ)法の概要。(A) 化学固定しClearSeeにより透明化した野生型めしべを0.1% (w/v) カルコフローで染色し、二光子励起顕微鏡により観察した光学切片像。子房壁から隔壁内部の花粉管を観察する場合、屈折率の異なる複雑なめしべの構造を経る必要があることがわかる。(B) かまぼこ法の概要。Bar = 50 µm.
ここまでシロイヌナズナのめしべ内を生きたまま観察する方法について紹介してきた。一方で、生体組織を観察する場合、固定組織とはまた違った点に注意する必要がある。当たり前であるが、細胞や組織は「生きている」という点である。我々の二光子顕微鏡は倒立型のため試料は下からの観察となるが、より生体深部を観察するため25倍の水浸対物レンズを使用している。ある時、観察するそばから花粉管先端がめしべ内でどんどん破裂して死んでしまうという事態が発生した。このような破裂は起きる日と起きない日があり、顕微鏡ステージに設置した時しか観察されなかったことから、初めはレーザーの不調を疑った。しかし半年経っても状況は改善せず、考えあぐねていたところ、あるとき外気温が高い日に失敗しやすいことに気づいた。我々の環境では植物栽培室や顕微鏡室の温度は通年一定に保たれているが、栽培室から顕微鏡室までは建物や廊下間を移動する必要があった。調べたところ、移動の際にディッシュが温まって温度変化が生じること、また、水浸対物レンズの場合、レンズ上の水がガラスボトムディッシュの底面に触れた瞬間から試料に熱が伝わり始めるため、温度変化が急激であることが破裂の原因であることがわかった。なお、これまでの報告 (Boavida and McCormick 2007) と同様に、室温や水浸レンズの水を最初から加温しておいた場合には破裂は起こらなかった。調査の結果、高温ではなく温度変化、すなわち2℃以上の急激な温度変化が花粉管先端の破裂を引き起こすことが明らかとなった (Mizuta et al. 2024)。これ以降、我々は生きている組織を観察する場合に、組織を採取した個体はどのような状況が最も元気で、組織を健康な状態に保つにはどうしたら良いかを常に考えるようになった。生きもののナマの姿を見るには、その細胞の気持ちになって考えねばならないと改めて感じた出来事である。
もう一つ、生きものを観察する上で無視できないのは「成長」や「変化」である。我々のかまぼこ法では、最大24時間の連続ライブイメージングが可能である。シロイヌナズナでは受粉から24時間経過すると鞘の中のほぼ全ての胚珠が受精するため、ステージ上でもめしべが元気に生きており、花粉管が伸長して受精にも成功すれば、めしべは鞘となってぐんぐん成長していく。胚珠の発生が進んで種子となり、その容れ物であるめしべ(鞘)も肥大し伸長するため、縦方向にも横方向にも成長していく。すなわち、組織が元気であればあるほど視野内で位置が刻一刻と変わっていく。そのため我々は、細胞の肥大や分裂の影響を受けにくい隔壁表皮の3点のxyzの位置情報を平均化して指標とし、花粉管の先端をトラッキングして伸長速度を算出した。また、我々のかまぼこ法ではめしべの子房室を一つ取り除いているため、成長が進むと鞘が肥大して湾曲し、ガラスボトムディッシュの底面から離れて焦点面から外れてしまうことも大きな問題となった。初めは鞘の上にカバーガラスを乗せて重しにすることで鞘の湾曲を防ごうと試みたが、ガラスが硬すぎるため肥大するにつれて鞘が潰れてしまい、正常に発生が進まなかった。そこで、より柔らかい0.2 mm厚のシリコンを重しに用いることでこの問題を解決し、鞘の成長を継続させつつ花粉管誘引を評価することが可能となった(図3B) (Mizuta et al. 2024)。このように、生体イメージングでは生命活動をできる限り妨げないこと、そして長時間のライブイメージングの場合は生体そのものの成長や移動、変化を含む計測値を4次元的にどのように補正するかが重要となってくる。
上記のような詳細な条件検討と試行錯誤を三年近く繰り返し、ようやくめしべ深部の花粉管誘引を生きたまま観察することが可能となった。たくさんの花粉管が元気よくめしべ内を伸びる様を初めて観察できたのは、暮れも押し迫った12月下旬であったが、顕微鏡室の暗闇の中で一人感動したのを今でも覚えている。これらのたくさんの花粉管について1本1本画像解析を進め、花粉管誘引と多精拒否の時空間的情報を得ることにした。
まず初めに花粉管の伸長速度を測定すると、平均して約1.3 μm/minであり、めしべの基部まで24時間以内に到達できることが明らかとなった。たくさん伸びている花粉管のうち、胚珠へと誘引される花粉管にはいくつか特徴があり、成熟した胚珠に近い場所を伸長する花粉管は他の花粉管に比べて優先的に誘引されること、伝達組織から隔壁上に這い出す前に徐々に伸長速度が減速することが明らかとなった(図4)。このことは、胚珠から何らかのシグナルが伝達組織内の花粉管に長距離的に作用することで、伸長速度と伝達組織からの這い出しに影響を与えていることを示唆している。このシグナルについて胚珠の各組織の変異体を解析したところ、胚珠内部の雌性配偶体の発生に異常を示すdeterminant infertile 1 (dif1) 変異体 (Bhatt et al. 1999) では花粉管の這い出しに異常が見られなかったのに対し、外珠皮と呼ばれる将来種皮になる組織を欠損するinner no outer変異体 (ino) (Villanueva et al. 1999)では伸長速度の減速が見られず這い出した花粉管の数も大幅に減少したことから、外珠皮が関与している可能性が示唆された。また、興味深いことに受粉する花粉の数を変えると、誘引される胚珠の順番が変わることがわかった。花粉を1個だけ受粉するとめしべの真ん中より少し下の胚珠が受精するのに対し、花粉を数百個受粉するとめしべの上から順に受精することが明らかとなった。これは伝達組織内が花粉管でぎゅうぎゅうになってしまうと伝達組織から外に出る花粉管が確率的に増加するため、上から順に受精が起こると考えられた。すなわち、めしべ(母体)内での花粉管(オス)の伸長速度や場所取りと、胚珠(メス)の成熟によって花粉管誘引のタイミングや順番が制御されていることが明らかとなったのである(図4)。
次に、これまでに多精拒否に異常を示すことがわかっている変異体についても、同様に観察と解析をおこなった。その結果、一対一誘引はこれまで分かっていた時期よりも早期に始まっており、1本目の花粉管が珠柄を登り始めた時点で、すでに2本目以降の花粉管を「拒否」するしくみが備わっていることが明らかとなった(図4)。この拒否には母体である隔壁表皮と胚珠、そして胚珠の助細胞の細胞膜に局在するレセプター様キナーゼのFERONIA (Ji et al. 2020) と、胚珠の雌性配偶体の細胞のうち助細胞でのみ発現するGPIアンカー型タンパク質のLORERI (Liu et al. 2016) が関わっていることが示された。さらに観察を続けると、1本目の花粉管が珠柄上を登り始めてから45分後にさらに強い「拒否」が備わることで、2本目以降の花粉管の誘引が強力に抑制されることが明らかとなった。この2段階の多精拒否のうち、野生型においても1本目と2本目がほぼ同時に珠柄を登り始めた場合は2本目を拒否できないことから、1段階目の拒否は不完全であることが明らかとなった。このように花粉管誘引と多精拒否を生体内でリアルタイムに解析することで、オスとメス、そして母体の様々な細胞が多段階で相互作用し、花粉管の一対一誘引と拒否を時空間的に制御していることが明らかとなったのである。

図4 二光子深部ライブイメージングにより明らかになった多段階の多精拒否による一対一誘引のしくみ。
本研究により複雑かつ精緻な一対一誘引と多精拒否のしくみの一端は明らかになったが、伝達組織から花粉管を這い出させるシグナルの分子実体は明らかになっていない。また、花粉管由来のRALF (rapid alkalinization factor) ペプチドを受容するANJEA (ANJ) や HERCULES RECEPTOR KINASE 1 (HERK1) といったレセプター様キナーゼも多精拒否として働くことも報告されている (Zhong et al. 2022) が、多精拒否の全体像は未だ不明であり、未知の相互作用やしくみがまだ隠されていると考えられる。我々が確立したかまぼこ法のように、新たな観察法やツールが確立されることで、今後しくみの全貌が明らかになってくることが期待される。本研究ではシロイヌナズナのめしべを用いたが、めしべに含まれる胚珠の数や受粉する花粉の数は植物種によって異なる。たとえば、イネでは一つのめしべに含まれる胚珠は1個だけであり、花粉管と胚珠はシロイヌナズナと同じく一対一で受精する。このように雌性配偶体が1つしかない場合も多精拒否は同じようなしくみで制御されるのだろうか?また、もっと花粉管が同時にたくさん伸びるような植物では、多精拒否が不完全なまま花粉管が複数誘引されてしまう胚珠が増えるのだろうか?花粉や胚珠の数、位置、そして時間的な制御は植物種ごとに異なるが、それぞれどのような意義や役割があるのだろうか?現在、地球上に生息している植物種は35万種以上と言われており、このうちの8割を占めているのが被子植物である (Khojayori et al. 2024)。花粉は被子植物に共通の器官であり、このような膨大な数の種の繁栄には効率的な花粉管誘引による確実な受精が重要な役割を担っている。本稿で紹介したような複雑かつ精緻な一対一誘引と多精拒否のしくみがどのように生まれ進化してきたのか、そして遠い未来の植物ではどのように生殖のしくみが進化しているのかについても、尽きない興味として今後の研究の発展を楽しみにしたい。
本稿は令和6年度平瀬賞の受賞に伴い、受賞対象となった論文 (Mizuta et al. 2024) を中心として研究の背景や今後の展望についてまとめたものである。平瀬賞選考委員の皆様には深く感謝申し上げる。当該論文の共著者である榊原大悟氏、永原史織博士、金城行真氏、長江拓也博士、栗原大輔博士、および東山哲也博士に深く感謝申し上げる。また、本研究を進めるにあたりご助言やご協力を頂いたFrédéric Berger博士、 Ueli Grossniklaus博士、Rita Groß-Hardt博士、 Ravi Palanivelu博士、 笠原竜四郎博士、 植田美那子博士、 丸山大輔博士、須崎大地博士、武内秀憲博士、浜村有希博士、那須智子氏、西井照美氏、品川智美氏、ならびに名古屋大学関係者の皆様に、この場を借りて厚く感謝申し上げる。