PLANT MORPHOLOGY
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表紙
特集 生命原理を “見る”
  • 吉田 大和
    2026 年38 巻1 号 p. 1-2
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/08/31
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    植物形態学は、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテによる植物器官の変態論にその思想的源流をもち、植物の形を変化と統一体としての関係性の中で理解しようとする学問として展開してきた。その発展は、常に顕微鏡技術の進歩とともにあった。とりわけ、蛍光顕微鏡や共焦点顕微鏡の導入は、生きた植物細胞における分子やオルガネラの動態を可視化し、形態を時間軸の中で捉えることを可能にした。近年では、超解像顕微鏡法やクライオ電子顕微鏡法によって、植物細胞の構造はこれまで以上に高い解像度で観察できるようになり、形態学は「何が見えるか」を超えて、「その形がどのような原理で成り立つのか」を問う段階へと進みつつある。

    植物形態学の歴史は、見える世界の拡張の歴史である。そして、顕微鏡は植物のかたちを精密に記述するための道具であるだけでなく、その形成原理を問うための思考の装置とも言えるだろう。本特集では、こうした歴史的流れを踏まえながら、生命原理を“見る”ことの現代的意義を考える。

  • 吉田 大和
    2026 年38 巻1 号 p. 3-10
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/08/31
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    細胞内共生を起源とするミトコンドリアは、細胞内で de novo に形成されることはなく、既存のミトコンドリアが分裂することによってのみ、その数を増やす。一方で、ミトコンドリアに含まれる多様なタンパク質の大部分は、ミトコンドリア DNA ではなく、細胞核 DNA にコードされた数百種以上の遺伝子に由来している。このため、細胞質で翻訳された新生ミトコンドリアタンパク質は、アミノ末端に付加されたペプチド配列に基づいて選択され、ミトコンドリア膜上に存在する巨大なタンパク質輸送ゲートを介してミトコンドリア内部へと運ばれる。しかしながら、ミトコンドリアタンパク質前駆体が有するペプチド配列の「情報」は暗号化されており、どのような原理に基づいて選択・識別されているのかについては、いまだ十分に明らかにされていない。我々は、単一ミトコンドリアを有する真核生物である単細胞紅藻Cyanidioschyzon merolaeを用いて、ミトコンドリア標的配列に必須な最小構成要素の同定を目指した。解析の結果、予想を超えて単純なルールに基づくミトコンドリアタンパク質の認識機構が明らかとなるとともに、わずかな配列変化によって新たなミトコンドリアタンパク質が創出され得るという、進化的可能性も示唆された。

  • 相澤 雄太, 横山 武司
    2026 年38 巻1 号 p. 11-16
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/08/31
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    クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)は、試料を急速凍結し、透過型電子顕微鏡により、低温で直接観察することで、生体試料を生理的条件に近い環境で可視化できる手法である。細胞内で機能する生体高分子複合体は、その構造をダイナミックに変化させながら、合理的に機能を発揮している。我々は、セントラルドグマの中心を担う、タンパク質合成装置であるリボソームに着目し、クライオ電子顕微鏡を駆使し、多階層での分子の振る舞いの理解を目指している。Cryo-EMの歴史を紐解くと、これまでに二つの手法の技術開発の積み重ねにより発展して来た。単粒子解析では、精製した生体試料をガラス状氷中に包埋し、多数の二次元投影像から三次元構造を画像解析により再構成する手法である。クライオ電子線トモグラフィー(cryo-ET)は、凍結試料をさまざまな角度から撮影することで、細胞や組織など、単粒子解析で着目する分子より広い領域を対象とした三次元構造解析に適している。一方で、試料厚による、電子線透過に制限がある。2000年代に、凍結状態を維持したまま、試料の標的位置を微細加工できるクライオ集束イオンビーム走査型電子顕微鏡(クライオFIB-SEM)を用いた手法が確立され、その後の技術的発展により、cryo-ETの適用範囲は大きく拡張された。現在、我々は単粒子解析によるタンパク質合成装置であるリボソームの構造解析に加え、クライオFIB-SEMを用いた多様な生物由来のリボソームの細胞内可視化に取り組んでいる。本稿では、これまで得られたデータを例に、試料作製からデータ取得に至るまでの一連の流れを概説する。

  • Alexandre Muhire, Sarah Wanjiru Gachie, Wataru Sakamoto
    2026 年38 巻1 号 p. 17-28
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/08/31
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    Cryo-focused ion beam scanning electron microscopy (cryo-FIB-SEM) combined with cryo-electron tomography (cryo-ET) enables visualization of chloroplast architecture close to its native state, but vitrifying isolated organelles remains challenging. We outline practical considerations for applying cryo-FIB-SEM and cryo-ET to plant chloroplasts and compare osmolyte conditions that support vitrification without distorting membranes. Using isolated chloroplasts from an AtVIPP1-GFP transplastomic Nicotiana tabacum line to aid fluorescence-guided targeting, we found that trehalose (0.33 M) and betaine (0.66 M) maintained lamella quality and preserved grana organization, whereas mannitol and sucrose frequently produced ice artifacts. Tomograms from trehalose-treated samples showed well-resolved grana stacks and intact thylakoid networks consistent with native architecture. These observations offer practical guidance for laboratories adopting chloroplast cryo-ET and highlight sample preparation choices that improve reproducible 3D imaging at nanometer resolution.

Original article
学会賞受賞者ミニレビュー
  • 東山 哲也, 福村 薫, 八廣 遥斗, 外山 侑穂, 中島 耕大, 水上 茜, 奥田 哲弘
    2026 年38 巻1 号 p. 33-45
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/08/31
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    重複受精は被子植物が獲得した革新的な有性生殖のしくみである。被子植物の生存戦略および繁栄に大きく貢献し、食糧生産を通じて人類の発展にも不可欠な貢献をしている。高校生物の教科書にも記載され、研究者に限らず広く一般に知られる、生物学の基本的仕組みの1つと言える。一方で、19世紀末の1898年に初めて報告され、すぐに多くの被子植物で確認された現象ではあるものの、分子的な仕組みの解明には長い時間を要している。とはいえ重複受精に関する細胞動態や分子基盤の研究は着実に進んでおり、本質的な仕組みの解明も近いのではと期待される。本総説では、重複受精についてよく尋ねられる疑問に答えながら、重複受精の仕組みがどこまで理解され、また研究の最前線で何の理解が求められているのか概説する。

  • 中島 耕大, 笠原 竜四郎
    2026 年38 巻1 号 p. 47-52
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/08/31
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    被子植物の種子形成において、受精と栄養供給を結びつける機構は長らく不明であった。本研究では、受精後の胚珠カラザ領域に新たな構造体「篩管末端の最終形態構造」を発見した。アニリンブルー染色により、受精に失敗した胚珠ではカロースが環状に蓄積し、栄養流入を遮断することを見出した。ライブイメージングによって、中央細胞の受精がカロース分解を誘導し、篩管からの栄養流入を開放する「門」の役割を担うことを明らかにした。さらに、受精依存的に発現するβ-1,3-グルカナーゼ遺伝子AtBG_ppapを同定し、変異体でカロース分解と栄養流入が阻害されることを示した。一方、AtBG_ppapの過剰発現により種子サイズは約16%肥大し、イネでも保存された機構が確認された。これらの成果は、カスパリー線以来160年ぶりの新植物組織の発見であり、受精シグナルによる栄養制御という新原理を提示した。本総説では、篩管末端の最終形態構造の発見の経緯と、その発見がもたらす波及効果について概説する。

  • 北沢 美帆
    2026 年38 巻1 号 p. 53-59
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/08/31
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    植物の形態は、自己相似的な構造を示すことがある。例えばシュートの成長では、茎頂分裂組織の周囲に葉が形成され、葉腋に形成される腋芽が新たな茎頂分裂組織として働くことで、自己相似的な構造を作り出す。このとき、もとの茎頂分裂組織と二次的な茎頂分裂組織が同等とみなせるケースもあれば、遺伝子発現などが異なるケースもある。後者の場合でも、パターンを作り出す大きな枠組みが共通しており、発生のしくみとしては自己相似的と言えることがある。本稿では、キンポウゲ科の花器官数とキク科の小花数のばらつきに注目し、遺伝子など実際に働く物質の違いを超えて、共通の枠組みからの議論を試みる。キンポウゲ科の花器官数とキク科の小花数のばらつきは、複数の個体群について標準偏差・歪度・尖度といった統計量で比較したときに共通の特徴を示す。観察された特徴のうち、フィボナッチ数の周辺で鋭い分布を持ち、それ以外ではゆるやかな分布を持つ点については、発生運命のゆらぎと器官原基の配置から説明が可能である。花芽における花器官と花序における小花という二つの対象について共通のふるまいとしくみを議論することで、階層を超えて植物形態を統一的に理解できる可能性を議論する。

追悼記事
日本植物形態学会第37回大会(福岡)ポスター発表要旨
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