PLANT MORPHOLOGY
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最新号
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表紙
特集
  • 楢本 悟史, 北沢 美帆
    2024 年36 巻1 号 p. 1-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/04/30
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    多細胞生物の体は,様々な種類の細胞が三次元的に適切な配置をとることで形成される.生物における極性とは,特定の軸に沿った構造の配置,物質の偏りや成長の方向性など,ある方向に沿って何らかの差異を持つことであり,多細胞生物の体作りや維持・再構成において不可欠な要素である. 本特集では,個体レベルの体軸から細胞レベルの分子局在まで様々なスケールで表れる極性について,多様な系統群から検討を行い,系統の垣根を超えた一般性や植物ならではの特徴を見出すことを目指した.これにより,極性形成の規則性・不規則性と進化の関係,固着生物特有の形質の進化など,植物をはじめとする多細胞生物の発生・進化について新たな視点をもたらすことができると期待している.

  • Kanta Suemitsu, Satoshi Naramoto
    2024 年36 巻1 号 p. 5-19
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/04/30
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    Directional transport of the phytohormone auxin causes differential auxin distribution within tissues. This gradient is essential for various aspects of plant morphogenesis, such as embryogenesis, tissue patterning, and tropism. The auxin efflux carrier PIN FORMED (PIN) is responsible for such transport by being localized to a specific side of the plasma membrane. PIN exists in organisms throughout the Streptophyta, and polar auxin transport is detected in the Charophyceae algae Chara braunii. This suggests that the importance of auxin transport is conserved among land plants and charophytes. However, the morphology of land plants and charophytes is highly diversified, from complex angiosperms to simple algae without any differentiated cells. Therefore, the role of PIN and auxin transport may be different between these plants. Here, we review the current findings on the function of PIN and auxin transport reported in Charophyte, Bryophyte, and Fern. Based on these reports, we introduce three different types of auxin transport, “cell-to-environment auxin transport”, “non-canalized intercellular auxin transport”, and “canalized auxin transport”. Each of these is assumed to contribute to plant development differently. Finally, we discuss how such types of auxin transport are involved in plant morphogenesis and their relation to plant evolution.

  • Kensuke Kawade
    2024 年36 巻1 号 p. 21-26
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/04/30
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    Gametophore shoot formation from protonemal tissues in Physcomitrium patens is used as a model to investigate the evolution of shoot architecture. The establishment of cellular polarity facilitates this morphological innovation by regulating oriented cell division. Despite the discovery of molecular mechanisms relevant to the cellular polarization, it remains largely unclear how the cellular physiological conditions are adjusted to accommodate the developmental and growth regimes. Arginine metabolism has been identified as a metabolic signature that is altered during gametophore shoot formation. The functional characterization of arginine metabolism should be investigated to determine whether and how arginine metabolism contributes to gametophore shoot formation. Here, I summarize the current knowledge on the molecular mechanism regulating gametophore shoot formation in P. patens. I describe also how arginine metabolism is modified during gametophore shoot formation. Based on this information, I finally discuss the future directions to explore the role of arginine metabolism in gametophore shoot formation by delineating the dynamics of the metabolic network using an isotope labeling experiment.

  • 西村 岳志
    2024 年36 巻1 号 p. 27-30
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/04/30
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    植物は,光・水・温度・栄養素など,自身を取り巻く環境要因の状態や変化を把握しながら成長する向きや速度などを調節している.それら環境要因のなかでも重力は,根を地中に潜らせ,茎や枝葉を地上に展開するための情報であることがよく知られている.植物を横に倒すなどして重力の方向を変化させると,植物はその変化を感じとり再び根は下方向に,地上部は上方向に速やかに成長を修正する.これは重力屈性と呼ばれ ,重力感受が制御する植物の生理現象として広く知られている.植物は,動物に見られる “ 目や耳 ” の様な感覚器官や神経系を持たないが,それでは植物はどの様にして重力の方向を認識しているのであろうか?今年,シロイヌナズナの LAZY1-Like (LZY) は,アミロプラストの沈降を認識し,重力方向の情報を伝達するプロセスにおいて決定的な役割を果たすことが示された.本稿では,まず重力感受の歴史的背景を説明し,次にシロイヌナズナ LZY が示す重力方向認識の仕組みについて解説する.

  • 手捲 萌乃, 岡本 龍史, 木下 温子
    2024 年36 巻1 号 p. 31-37
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/04/30
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    受精卵の第一分裂は,多くの被子植物において最も初期にみられる非対称分裂であり,形態的,機能的に分化した頂端細胞および基部細胞を生じる重要な過程であると考えられている.これまでに,モデル双子葉植物であるシロイヌナズナを用いた解析から,受精卵の発生過程が詳細に解析され,細胞の非対称分裂と体軸形成の関わりが示されている.一方で,他の被子植物においては受精卵の極性やその実態については未だ限定的な知見しか得られておらず,体軸形成に関わる分子メカニズムについてもその大部分が未解明である.被子植物の受精および胚発生は胚嚢内で進行するため,これまで受精卵の発生過程を観察することが困難であった.本総説では,単子葉植物であるイネの胚軸形成および体軸形成機構について新旧の知見を紹介するとともに,近年我々が取り組んでいる3次元イメージングとイネin vitro受精系を用いた研究アプローチについて述べる.

  • 藤原 基洋, 秋山-小田 康子, 小田 広樹
    2024 年36 巻1 号 p. 39-44
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/04/30
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    動物における初期胚の体軸形成は,体の基本構造を形作る重要な発生過程である.その形成過程では,細胞間の相互作用により細胞の再配列が協調的に行われ,胚が体軸方向に伸長するなど細胞集団が再編成される.節足動物では,体軸の分節化に至る初期胚の形成過程が,種によって細胞レベルや分子レベルで多様であり,ショウジョウバエやオオヒメグモなど昆虫やクモのモデル生物を用いた発生研究により,その具体例が示されている.しかし,節足動物における初期胚の体軸形成過程の多様化の進化過程については,進化の実際の時間と回数による制約や生物種間の多様化の仕組みを予測する計算基盤の限定もあり ,理解が進んでいない.そこで私たちは,胚の形態形成過程を再現し,そこでの細胞性質を次世代の胚の形態形成へ引き継ぎ進化する胚状の多細胞体の数理モデルを開発することにした.数理モデルでは,細胞が持つ力学的性質として細胞骨格やアクチンに由来する細胞収縮やカドヘリンなど接着分子に由来する細胞間接着を実装し,細胞間接着の強さが各細胞の平面内極性の方向に依存して時空間変化することで,胚が体軸方向に伸長する過程を模倣できる形態形成モデルを構築した.この研究は,クモ胚をベースに初期胚の体軸形成過程の仕組みを数理モデルから予測して,クモを含む節足動物の体軸形成の多様化の進化過程を探る理論研究である.

  • Safiye E Sarper, 北沢 美帆
    2024 年36 巻1 号 p. 45-52
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/04/30
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    多細胞生物の対称性は,その生物が持つ器官の種類・数・配置などに基づき,単一の対象軸を持つ左右相称性と複数の対象軸を持つ放射相称性の二つに大別される.動物・植物それぞれの系統で,左右相称性と放射相称性の切り替わりをはじめとする対称性の変化が起きたことが知られている.現在みられる対称性の多様性は,どのように生まれたのだろうか.本稿では,この問いに対し,動物については刺胞動物,植物については被子植物の花を例として,種内多型から議論する.刺胞動物と花には,左右相称性と放射相称性の両方がみられ, 放射相称性についても三放射・四放射など複数のタイプがみられるという共通点がある.放射相称性から左右相称性への切り替わりには,新しい軸を確立する要素が必要である.被子植物において,放射相称花から左右相称花への進化は多数の系統で独立に起きたことが知られており,その多くで CYCLOIDEA (CYC) 相同遺伝子の関与が指摘されている.例えばキンギョソウの CYC 遺伝子は , 発生初期に向背軸に関して非対称に発現することで,左右相称性を決定づけると考えられている.刺胞動物においても,イソギンチャクの種内多型の解析から,管溝 siphonoglyph が同様の位置情報源として働くと考えられる.放射相称性の複数のタイプについては,ヒドロ虫類の種内多型から,体のサイズと対象軸の数の間に正の相関が見出された.しかし,刺胞動物全体・被子植物全体といった広い系統に目を向けると,刺胞動物では四放射相称が多く,被子植物では三・五放射相称が多いといった,大きなトレンドがある.放射相称性の対象軸の数は ,単にサイズ依存で決まるのではなく,特定の数のロバストネスを確立するような機構の存在が示唆される .この機構の解明が,多細胞生物の対称性の進化の理解につながるだろう.

学会賞受賞者ミニレビュー
  • 永田 典子
    2024 年36 巻1 号 p. 53-60
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/04/30
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    電子顕微鏡は光学顕微鏡に比べて著しく視野が狭い.これを克服する術として,自動でタイリング撮影し画像を結合する方法が開発され,高解像度を保ったままの広域イメージング像を得ることができるようになった.樹脂切片に対する広域イメージングは,透過電子顕微鏡 (TEM) と走査電子顕微鏡 (SEM) のどちらでも可能であるが,高倍率を極めたいなら広域 TEM が,簡便さと立体構築を求めるなら広域 SEM がよいだろう.今や広域かつ三次元の画像を自動取得することも可能であり,画像ビッグデータが容易に手に入る時代となった.本稿では,筆者が取得した実際の広域画像を示しつつ電子顕微鏡の広域イメージングがもたらす恩恵やその活用法について論じる.

  • 後藤 友美, 佐藤 繭子, 豊岡 公徳
    2024 年36 巻1 号 p. 61-68
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/04/30
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    シロイヌナズナ側部根冠領域には小さな ER ボディが恒常的に多数存在する.我々は高圧凍結技法と光 – 電子相関顕微鏡法 (CLEM) を組み合わせた高圧凍結 CLEM 法により,その形態と機能を解析した.ER ボディの主要酵素 β- グルコシダーゼ PYK10 を赤色蛍光タンパク質で標識した形質転換体の根端を解析した結果,PYK10 は側部根冠にある小さい ER ボディに存在し,側部根冠の 2 層目から最外層の細胞にかけては ER ボディと液胞が高頻度で接触し,液胞内に PYK10 が流入,局在していることがわかった.PYK10 はゴルジ体には局在しないことから,側部根冠の ER ボディによって小胞体からゴルジ体を経由せずに,直接液胞へ輸送されていることが示唆された.この過程を明らかにするにあたって,超微形態と蛍光を同時に保持でき,さらに広領域で撮像可能な高圧凍結 CLEM法の開発が要となった.本稿では,高圧凍結 CLEM 法 の詳細と広域撮像,連続切片,免疫金染色と組み合わせた技法,そこから得られた新たな知見を紹介する.

  • 守屋 健太, 嶋田 知生
    2024 年36 巻1 号 p. 69-76
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/04/30
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    塩基性ヘリックス・ループ・ヘリックス(bHLH)型転写因子は真核生物に広く保存された転写因子であり,動植物の発生や代謝等の生命現象において中心的な役割を果たす.bHLH型転写因子は陸上植物で多様化しており,bHLH型転写因子による遺伝子発現調節が陸上植物の複雑な組織形成や環境適応に貢献している.モデル植物を用いた分子遺伝学的な研究および進化発生学的な研究から,陸上植物の組織形成を制御するbHLH型転写因子の機能と進化が明らかになりつつある.陸上植物の表皮に存在するガス交換のための組織である気孔の形成は,サブファミリーIaに属するbHLH型転写因子(SPEECHLESS,MUTE,FAMA等)およびサブファミリーIIIbに属するbHLH型転写因子(ICE1/SCREAM等)のヘテロ二量体(Ia-IIIb bHLH転写因子モジュール)によって制御されており,このメカニズムは陸上植物に保存されている.筆者らは,気孔を失ったタイ類ゼニゴケがIa bHLHおよびIIIb bHLHを失っておらず,これらのヘテロ二量体が蒴柄(さくへい)とよばれるコケ植物特有の二倍体組織の形成を制御することを発見した.本稿では,Ia-IIIb bHLH転写因子モジュールを例に挙げながら,陸上植物の組織形成におけるbHLH型転写因子の機能分化や転用,そしてホモ二量体・ヘテロ二量体による遺伝子発現制御の進化について議論する.

  • Mariko Asaoka
    2024 年36 巻1 号 p. 77-82
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/04/30
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    The stem of vascular plants serves as foundational support for aboveground growth. Tissue response to mechanical forces is crucial for directing plant morphogenesis and, thus, stem growth and shape. This process plays a pivotal role in expanding the size of aboveground organs while also dictating the spatial arrangement of leaves and flowers. However, external forces can sometimes result in tissue or organ breakage. Hence, the stem must integrate forces beyond a certain threshold to control its development. In this minireview, I will focus on recent findings on Arabidopsis thaliana lines displaying deep cracks in their inflorescence stems and their research backbones are summarized. These recent studies reveal a more complex picture than previously considered regarding the relative contributions of vascular and epidermal tissues to stem mechanics and growth.

  • 澁田 未央
    2024 年36 巻1 号 p. 83-88
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/04/30
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    時空間的な転写制御は様々な生命現象を支える上で重要である.生体における転写活性ダイナミクスを捉えるために,RNAポリメラーゼII (RNAPII) に着目したイメージング法の確立に取り組んだ.RNAPIIの最大サブユニットのC末端領域は7アミノ酸のリピート構造からなり,リピート2番目セリン残基のリン酸化 (Ser2P) は転写活性状態の指標となる.生体内でのSer2Pの可視化にはmodification-specific intracellular antibody (Ser2P-mintbody) を活用した.Ser2P-mintbodyはSer2Pを持つRNAPIIを抗原とする抗体の可変部領域と蛍光タンパク質を融合させた生体内抗体であり,シロイヌナズナを形質転換することでSer2Pのライブイメージングが可能になる.Ser2Pレベルの定量化のために,核マーカーを用いてSer2P-mintbodyの核内蛍光輝度を算出する Two componentシステムを考案し,分裂期における転写レベル変動を示した.またSer2P-mintbodyは細胞特異的な転写活性状態の探索にも有用である.花粉におけるSer2P-mintbodyの観察から,精核特異的な転写活性状態の発見に至った.本研究で確立されたイメージング法は,転写活性ダイナミクスの観察を通して様々な生命現象への理解を深めるために重要なツールとなる.

  • 元村 一基
    2024 年36 巻1 号 p. 89-95
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/04/30
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    花粉管は被子植物の生殖プロセスに必須であることから,重要な研究対象である.特に花粉管の発芽や伸長,方向制御を担う分子の同定が進んでおり,これまでに重要な分子群が次々に明らかになってきている.近年,筆者らはこのような分子をコードする遺伝子群がいつ発現を開始して,花粉管機能がどのように獲得,維持されるかについて新たな仮説を提案した.そこで本総説では,この分野の近年の研究成果をレビューし,特にシロイヌナズナを用いた研究を中心に,時間的な遺伝子発現のタイミングに焦点を当てて考察する.さらにそれに基づき,植物の花粉管の遺伝子発現研究における今後の展望についても述べる.

日本植物形態学会第35回大会(札幌)ポスター発表要旨
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