PLANT MORPHOLOGY
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特集 植物/微生物/オルガネラの相互作用をイメージングで解き明かす
電子顕微鏡でとらえる雄性配偶体のオルガネラ相互作用
永田 典子
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2025 年 37 巻 1 号 p. 3-8

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Abstract

植物の雄性配偶体においては、時期特異的かつ動的で特徴的なオルガネラ相互作用がみられる。アサガオの小胞子および雄性配偶体では、ミトコンドリアが核を隙間なく覆い尽くす時期が存在する。シロイヌナズナの雄性配偶体では、リピッドボディが雄原細胞を取り囲み、成熟が進むと液胞が精細胞を取り囲むという動的変化が生じる。また、液胞がリピッドボディに接触し、膜融合を経て取り込み、分解する過程(マイクロリポファジー)も観察された。近年、オルガネラ同士が近接して物質交換を行う膜接触部位(MCS)の存在が明らかになりつつある。本稿では、植物の雄性配偶体にて見られるオルガネラ相互作用をMCSの観点から再考し、オルガネラ間の複雑で多様な相互作用について論じる。

Translated Abstract

In the male gametophyte of plants, organelle interactions that are temporally specific, dynamic, and unique have been observed. In the microspores and male gametophytes of Pharbitis nil, mitochondria completely surround the nucleus at a certain stage. In the male gametophyte of Arabidopsis thaliana, lipid bodies encircle the generative cell, and as maturation progresses, vacuoles surround the sperm cells, exhibiting dynamic changes. Additionally, a process known as microlipophagy, in which vacuoles contact lipid bodies, undergo membrane fusion, internalize, and degrade them, has been observed. In recent years, the existence of membrane contact sites (MCS), where organelles come into close proximity and exchange materials, has been increasingly recognized. This paper reinterprets organelle interactions observed in the male gametophyte of plants from the perspective of MCS and discusses the complexity and diversity of inter-organelle interactions.

electron microscopy, male gametophyte, membrane contact site (MCS), organelle

はじめに

多くの教科書には、真核細胞内の模式図として、動かないオルガネラの間を輸送小胞が行き交う絵が描かれている。固有のタンパク質(酵素)を濃縮したオルガネラという細胞内区画が存在し、その区画の間を小胞が繋いでいるという概念は、町や国の生産・流通システムを想像させて理解しやすい。工場などの建物は動かないものであり、トラックが荷物を運んでいくのは当たり前と考えてしまうかもしれない。しかし近年、オルガネラは小胞を介してだけでなく、直接的な接触(近接)を介して物質交換を行うなど、様々なオルガネラ相互作用が存在することが知られてきた(多賀谷 2015)。本当のオルガネラは、細胞内でダイナミックに動き、位置を変え、他のオルガネラに近づいては離れうる、動的な区画である。先ほどの町に例えると、工場自身が空中を飛び交うわけであるから、昔の常識からは脱却する必要がある。

植物を対象とした研究では、光合成に特色があるためであろうが、「葉」を用いたものが非常に多い。しかし、葉という器官は、ある意味特殊な細胞集団である。巨大な液胞が細胞の大部分を占め、原色素体が分化して巨大化した葉緑体もまた多くの体積を占めている。例えば、電子顕微鏡を用いてオルガネラ相互作用を捉えようとしても、これら液胞と葉緑体に阻まれて、他のオルガネラを顕微鏡下で見ることさえ困難なことがある。また、膨圧の高い液胞に押しつけられて、オルガネラがたまたま接近して存在しているだけかもしれない、との疑念も湧き上がってくる。植物を対象としたオルガネラ相互作用の研究は、動物や酵母に比べ立ち後れているようだが、その理由は、研究者人口の違いに加えて、この材料としての植物の扱いにくさにあるのかもしれない。

筆者は長年、植物の雄性配偶体(花粉)を対象とした研究に携わってきており、その過程でユニークなオルガネラの局在や振る舞いを目にする機会があった。雄性配偶体とその周辺細胞では、液胞や葉緑体に邪魔されることなく細胞質内にオルガネラがみっちり存在しているため、個々のオルガネラの挙動が追いやすい。また、生殖に向けて刻々と細胞内が変わっていく時期であるため、オルガネラの局在性の変化も激しく、ユニークさが際立つのかもしれない。改めて過去のデータを見直し、近年のオルガネラ相互作用の知見を当てはめてみると、幾つかの気づきが得られた。そこで本稿では、雄性配偶体における特異なオルガネラ相互作用について、新しい考察も加えながら解説する。

オルガネラの膜接触部位(MCS)

オルガネラ間の相互作用を論じる上で、近年明らかになりつつある膜接触部位(membrane contact site: MCS)の概念は欠かせない。細胞内のオルガネラは、MCSを介して大規模なネットワークを構築しており、その役割は細胞内シグナル伝達、物質輸送、オートファジー、オルガネラ分裂、細胞死やストレス応答など、多様な生命現象に関与していると言われている(Hanaoka et al. 2023, Prinz et al. 2020, 多賀谷 2015)。MCSの研究は主として小胞体を中心に進んでおり、特に小胞体とミトコンドリアの相互作用については、ヒトの疾患にも関係するという報告があり注目度が高い(Kakimoto-Takeda et al. 2022, Liu et al. 2019)。植物においても、葉緑体は他のほとんどのオルガネラとMCSを持つと言われており、葉緑体特有の膜の糖脂質輸送や、環境ストレスとの関連などの報告が増えている(Liu and Li 2019, Pérez-Sancho et al. 2016, 下嶋ら 2015)。MCSの存在自体は電子顕微鏡観察によって非常に古くから知られていたが(Bernhard and Rouiller 1956)、近年になって注目度が高まった理由は、MCSにおける繋留タンパク質の知見が蓄積されたことによるだろう(Huang et al. 2020)。

そもそもMCSとはどのように定義されるものであろうか。「10〜30 nm 程度の至近距離に位置する異なるオルガネラの膜と、それに挟まれる微小空間からなる細胞内亜領域」というのが概ね共通した見解のようである(花田 2015)。Scorranoら(2019)は、専門家による統一された語彙と定義が必要であるという意見書を出しており、MCSは膜オルガネラ間にテザー(tether)を持つものであるとした。そのオルガネラ間の距離は10~80 nmの範囲で、多くの報告は30 nmに着目しているが、中には300 nmを超える例もあるため(Ping et al. 2016)、距離を唯一の尺度としてはならないとも述べている。

顕微鏡下でテザー(おそらく繋留タンパク質)の存在を確認するのは容易なことではない。近年では、蛍光タンパク質を利用することでMCSのみを検出する技術なども発展してきたが、気軽に使える手法とは言えない(Kakimoto et al. 2018, Tashiro et al. 2020)。Machadoら(2018)は、透過電子顕微鏡(TEM)を用いて植物細胞内の様々なオルガネラ相互作用を捉えており、中には繋留タンパク質らしき電子密度の高いブリッジ構造が見られるものがあるが、全てで見られるわけではない。このように顕微鏡下で繋留タンパク質を追うのには限界があるが、一方でMCSという場において、膜と膜の間に一定の距離があるというのもまた事実ではないだろうか。英語のmembrane contact siteを日本語では「膜接触領域」と呼んでいるが、ぴったりと「接触」しているわけではないことに注意を向けるべきである。少なくとも10 nmほどの距離は空いており、言うなれば「近接」である。電子顕微鏡でMCSを観察するメリットの1つは、膜間の距離をかなり正確に割り出すことができる点である(Giacomello and Pellegrini 2016)。この距離にも着目しつつ、雄性配偶体にみられるオルガネラ相互作用を紹介していきたい。

ミトコンドリアが核表面を覆う

図1はアサガオ(Pharbitis nil)の小胞子の画像である(Nagata et al. 2000)。植物では、減数分裂で生じた単相(n)の小胞子から、多細胞体である雄性配偶体が作られる。小胞子は花粉第一分裂を経て栄養細胞(n)と雄原細胞(n)に分かれ、花粉第二分裂により雄原細胞から2個の精細胞(n)ができる。小胞子の時代を「1細胞期」、雄原細胞が作られた雄性配偶体を「2細胞期」、精細胞が作られたら「3細胞期」と表現する。アサガオの葯を固定後、親水性のテクノビット樹脂に包埋し、光学顕微鏡用としては薄めの0.6 µm 厚切片を作成して、DiOC6(3,3'-Dihexyloxacarbocyanine iodide)染色を行った(図1a)。DiOC6は、生細胞のミトコンドリアを染める色素と言われているが、固定サンプルに対しても高濃度で使用することでミトコンドリア等の内部膜を染色できる。これにより、小胞子(1細胞期)の段階で、ミトコンドリアが核の表面を隙間なく覆うことが明らかとなった(図1a)。同じ時期の雄性配偶体をTEM観察したところ、核表面を覆っているのは、やはりミトコンドリアであることが確認できた(図1b)。ミトコンドリア外膜と核膜との間は一定の距離が保たれており、それはおよそ20 nm であることもわかった(図1c)。ミトコンドリアと核の間に、繋留タンパク質と思われる構造は観察されなかったが、一定の距離を保っている様子からは、両膜の間になんらかの繋ぎ止めがある(つまりMCSが存在する)ことが想定できる。核膜孔がその部位に並んでいるようにも見え、ここで何らかの物質交換が行われているのではないかとの想像が膨らむ(図1c矢尻)。

図1 アサガオ(Pharbitis nil)の小胞子。1細胞期後期にミトコンドリアが核表面を覆う。(a) テクノビット樹脂を用いたDiOC6によるミトコンドリア染色像。(b, c) TEM画像。bでは、ミトコンドリアを黄、核を青に着色して示した。矢尻は核膜孔を示す。ミトコンドリアと核膜との距離は約20 nmである。bars = 10 µm (a); 1 µm (b); 200 nm (c) . 図はNagata et al. (2000) より引用・改変した。

雄性配偶体の形成過程を追うと、細胞内の状態が刻々と変化し、オルガネラの局在性や形態が著しく変化することに気がつく。アサガオで見られたミトコンドリアと核の相互作用は、花粉第一分裂の前後の数日でのみ見られる現象であった(Nagata et al. 2000)。1細胞期後期に核表面に集合したミトコンドリアは、花粉第一分裂時に一旦離散するものの、2細胞期に入ってすぐに栄養核の周りに再集合する。その一方で雄原核の周りには寄らない。栄養核表面をミトコンドリアが覆うのは2細胞期初期のみで、その後ミトコンドリアは離散してしまう。

アサガオ以外の植物で、ミトコンドリア−核の相互作用がみられるのかは気になるところである。筆者はこれまでに10種類以上の植物の雄性配偶体をほぼ同様の手法で観察したが(Nagata et al. 1999)、この現象はアサガオでしか見つかっていない。コスモス(Cosmos bipinnatus)の雄性配偶体にてミトコンドリア−核の相互作用の報告があるが、アサガオほど顕著ではない(Dickinson and Potter 1979)。シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)では、小胞子の時期に、ミトコンドリアではなく色素体が核周辺に集まるという報告がある(Yamamoto et al. 2003)。しかし、色素体と核膜との距離は離れており、繋留タンパク質で繋がれているとまでは確信が持てない。植物細胞以外の生物全般を見渡しても、ミトコンドリア−核のMCSの報告は特に少ない(Huang et al. 2020)。以上のように、アサガオ特異的にみられるミトコンドリア−核の相互作用は、現象としては興味深いが、その実体や役割については未だ不明なままである。

リピッドボディが雄原細胞を取り囲み液胞が精細胞を取り囲む

シロイヌナズナの雄性配偶体では、リピッドボディや液胞がユニークな局在性を示す(Akita et al. 2021)。2細胞期初期では、各オルガネラは特に目立った局在は示さないが(図2a)、2細胞期中期以降になると栄養細胞のリピッドボディが雄原細胞の周囲を取り囲む(図2b)。雄原細胞や精細胞は、栄養細胞内に浮くような形で存在する細胞であるため、周囲は栄養細胞に囲まれている。つまり栄養細胞内のリピッドボディが、雄原細胞と隣接する栄養細胞側の細胞膜と相互作用しているということになる。花粉第二分裂を経て精細胞が形成された後、すなわち3細胞期初期では、今度は液胞が精細胞の周囲を取り囲む(図2c)。しかしこの局在も一過的で、その後液胞は分散する(図2d)。切片を走査電子顕微鏡(SEM)で観察する方法(豊岡ら 2020, 永田 2024)を用いて雄性配偶体全体の分布を捉えたところ、それらリピッドボディと液胞の特異な局在性がより鮮明になった(図2e, f)。以上のように、時期特異的にリピッドボディ−細胞膜、さらには液胞−細胞膜の相互作用が見られた。またこのことは、細胞膜上のリピッドボディが、あまり時間をおかずに(おそらく1日以内に)、液胞に置き換わるということを示している。ただし、ここで見られた細胞膜上のオルガネラは、先に紹介したアサガオのミトコンドリアのように隙間無く並んでいるというわけではなく、膜同士の近接度合いも若干緩いように見える。

図2 シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の雄性配偶体の電子顕微鏡画像。(a-d) 雄原/精細胞とその周辺の栄養細胞内のTEM画像。(a) 2細胞期初期、(b) 2細胞期後期、(c) 3細胞期初期、(d) 3細胞期後期。矢尻(マゼンタ)はリピッドボディ、矢印(緑)は液胞を示す。gc: 雄原細胞、sc: 精細胞、vc: 栄養細胞。(e, f) 雄性配偶体全体を撮影した切片のSEM 画像。(e) 2細胞期後期(bと同時期)、(f) 3細胞期初期(cと同時期)。リピッドボディをマゼンタ、液胞を緑、雄原/精細胞を青に着色して示す。2細胞期後期にリピッドボディが雄原細胞の周囲を覆い、3細胞期初期に液胞が精細胞の周囲を覆う。図はAkita et al. (2021) より引用・改変した。

リピッドボディが雄原細胞の周りを取り囲む理由は、何であろうか。雄原細胞は、形成初期には丸みを帯び細胞膜は平坦であるが、その後成熟すると細胞膜が波打ちはじめ、複雑な形状へと変化する。細胞の表面積拡大に伴い、膜脂質の量を急速に増加させなくてはならず、そのエネルギー供給にリピッドボディが貢献しているというのは、安直ではあるがありそうな理由である。植物以外の種において、リピッドボディ−細胞膜、または液胞(リソソーム)−細胞膜のMCSの報告はあるので(Huang et al. 2020, Kakimoto et al. 2018)、今後は生物種間での繋留タンパク質の共通性などが明らかになり、理解が深まることが期待される。

液胞によるリピッドボディへのコンタクトと分解

雄原細胞の周りに局在していたリピッドボディは、どのようなしくみで液胞に置き換わるのだろうか。電子顕微鏡観察により示された、液胞によるリピッドボディへのコンタクトの様子を図3にまとめた(Akita et al. 2021)。雄性配偶体の細胞は、葉や根などの一般的な植物細胞と比べ、含まれる液胞の大きさがとても小さい。この小さい液胞が、リピッドボディに近づき(図3a, e)、液胞膜がリピッドボディの膜と融合し(図3b, f)、その後、液胞がリピッドボディを吸い込み(図3c, g)、分解する(図3d, h)。リピッドボディは疎水性の脂質を内包する構造体であるため、脂質一重層から成る。ここに脂質二重層である液胞膜が近づき接着したとしても、脂質層は無理なく自然に融合することができると考えられる(図3i)。このように、液胞がリピッドボディを吸い込み分解することで、両者の場所を入れ換え、結果として液胞が細胞膜の周りに局在したものと思われる。液胞がリピッドボディを吸い込んでいる様子は、連続切片SEM法(アレイトモグラティ法)を用いた三次元構築(永田 2020)によって、より明瞭に把握することができた(図3j, k)。

図3 シロイヌナズナの雄性配偶体でみられる液胞-リピッドボディの相互作用を示す画像。液胞がリピッドボディにコンタクトして分解する。(a-d) 液胞-リピッドボディ膜融合の経時的変化を示すTEM画像。順番を想定してaからdに並べた。(e-h) a-dの画像を線画にて表現したもの。(i) リン脂質層の膜融合の想定図。(j, k) 連続切片を用いた三次元構築像。リピッドボディはマゼンタ、液胞は緑で示す。kは jを半透明化したもので、液胞がリピッドボディに取り付き、吸い出している様子がわかる。lb: リピッドボディ、vac: 液胞。図はAkita et al. (2021) より引用・改変した。

液胞(リソソーム)がリピッドボディ(動物では脂肪滴と呼ばれることが多い)を分解するプロセスは、リポファジーとして広く知られている(Schulze et al. 2017)。リポファジーは、マクロとマイクロの両方のメカニズムで起こりうる。マクロリポファジーは、周囲の細胞質と共にリピッドボディを隔離膜が包み、オートファゴソームが形成され、その後液胞膜と融合することで分解するプロセスである。これに対し、マイクロリポファジーは、リピッドボディの膜と液胞膜が直接融合し、分解に至る。雄原細胞の周囲で起きていたのはマイクロリポファジーであり、より選択的にリピッドボディを分解できると考えられる。液胞によるリピッドボディの分解は速やかに起こり、リピッドボディ全体が液胞に取り込まれる前に分解が始まる(Akita et al. 2021)。雄性配偶体の中では至るところで盛んにオートファジーが起こることが知られており、花粉管伸長などの大イベントを控えてエネルギー代謝が盛んになっているのかもしれない(Yen et al. 2024)。

一般的に、雄性配偶体の成熟過程では、雄原/精細胞の内部のオルガネラの数が減少することが知られている(永田 2011)。そのオルガネラ数の減少に液胞が寄与している可能性がある。古くには、オルガネラの母性遺伝を説明する機構の1つとして、オルガネラが雄原/精細胞内から摘まみとられ栄養細胞側に排出されるという仮説が提唱された(Mogensen and Rusche 1985)。また、シュンラン(Cymbidium goeringii)の雄性配偶体では、雄原細胞と栄養細胞の間の空間に細胞質の塊(Enucleated cytoplasmic bodies; ECBs)が多数存在し、それが栄養細胞側に排出され、結果としてリピッドボディと融合するとの報告がある(Yu and Russell 1992)。そのリピッドボディが液胞によって分解されるということを鑑みれば(Akita et al. 2021)、雄原/精細胞内のオルガネラ等の細胞質成分を消化するために液胞が近寄ってくる、というのは魅力的なストーリーである。

オルガネラ間のMCSの存在と膜融合

ここで、MCSの存在と膜の融合について考えてみたい。上述したように、MCSは10 - 30 nm程度の距離を隔てた膜と、その間の微小空間からなる構造である。MCSの微小空間は、物質の移動が単純拡散で行われている場合においても、効率のよい輸送を可能にする。スタート地点とゴール地点が近ければ、それだけで他の空間に拡散せずにゴールに到達する可能性が高まるからである。実際のところ、オルガネラ同士の近接や接触を人為的に制御する技術が開発され、葉緑体同士を接着させることで代謝物の量が変わったという報告がある(Ichikawa et al. 2023)。雄性配偶体において液胞がリピッドボディに近づいた際には、両オルガネラの間は、確かに20 - 30 nm の一定の隙間が空いている(図3a, e)。テザー(おそらく繋留タンパク質)そのものは観察できないが、おそらくここにテザーが挟まっているために、それ以上膜が近づけないようになっている。しかし、その後何かの合図(シグナル)によってテザーが外れて、それにより融合が促されたのだろう(図3b, f)。ということは、MCSは膜の融合を阻止するための構造体であり、同時に膜融合をコントロールする術ともいえるかもしれない。「テザー」や「繋留タンパク質」という言葉は、オルガネラ同士を繋ぎ止めるというニュアンスだが、膜同士が勝手に融合しないようにするのも重要な役割であり、MCSのテザーは「スペーサー」でもあることを忘れてはならない。

以上のように、MCSの微小空間では可溶性成分の輸送が行われるわけだが、一方でMCSの繋留タンパク質そのものが、脂質やイオン物質の輸送経路となることや、シグナル伝達を介在する例なども知られている(Huang et al. 2020, 多賀谷 2015)。MCSは複雑で多様な機能性をもち、オルガネラ相互作用を成り立たせている。

おわりに

顕微鏡観察から得られる知見は、しばしば現象の記述にとどまりがちである。しかし、何事も「現象」を発見しないことにははじまらない。研究者達は、まず現象に興味をもち、分子機構や生理的意義の探求は後からついてきて、そして新しい知見の裏付けを得るために、さらにより緻密な顕微鏡観察に持ち込む、その繰り返しで生物学は発展してきたように思う。MCSの最初の発見は、驚くべきことに今から70年近くも前のことである(Bernhard and Rouiller 1956)。本稿で紹介した画像は、筆者の元論文では実はMCSについて一言も触れていない。世の中の新しい知見を盛り込んで解釈すると、こういうことかもしれないという多少の想像も含めながら論じてみた。古い論文に隠されている生命の様々な諸現象に思いを馳せることも、時には必要だと思う次第である。

Acknowledgments

本稿にて引用した画像の多くは、秋田佳恵博士(日本女子大学を経て現日本大学)の協力のもと作成されたものです。また、研究を支えてくださった小林啓子博士、髙木智子博士、小林恵氏をはじめとする日本女子大学細胞生物学研究室及び電子顕微鏡施設の皆様にも厚くお礼申し上げます。

References
 
© 日本植物形態学会
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