PLANT MORPHOLOGY
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数のばらつきからみる花と花序の相似性
北沢 美帆
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2026 年 38 巻 1 号 p. 53-59

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Abstract

植物の形態は、自己相似的な構造を示すことがある。例えばシュートの成長では、茎頂分裂組織の周囲に葉が形成され、葉腋に形成される腋芽が新たな茎頂分裂組織として働くことで、自己相似的な構造を作り出す。このとき、もとの茎頂分裂組織と二次的な茎頂分裂組織が同等とみなせるケースもあれば、遺伝子発現などが異なるケースもある。後者の場合でも、パターンを作り出す大きな枠組みが共通しており、発生のしくみとしては自己相似的と言えることがある。本稿では、キンポウゲ科の花器官数とキク科の小花数のばらつきに注目し、遺伝子など実際に働く物質の違いを超えて、共通の枠組みからの議論を試みる。キンポウゲ科の花器官数とキク科の小花数のばらつきは、複数の個体群について標準偏差・歪度・尖度といった統計量で比較したときに共通の特徴を示す。観察された特徴のうち、フィボナッチ数の周辺で鋭い分布を持ち、それ以外ではゆるやかな分布を持つ点については、発生運命のゆらぎと器官原基の配置から説明が可能である。花芽における花器官と花序における小花という二つの対象について共通のふるまいとしくみを議論することで、階層を超えて植物形態を統一的に理解できる可能性を議論する。

Translated Abstract

Plant morphology, such as vegetative shoots, compound leaves, and inflorescence structures, exhibits self-similar structures. In shoot branching, for instance, leaves formed by the primary apical meristem bear axillary buds that themselves become new apical meristems and produce leaves in the secondary shoots, resulting in a self-similar structure. Although the secondary structures are not always identical to the primary structure in, for example, gene expression, they can share common developmental framework regardless of the chemical or genetic players. In this paper, I discuss the common developmental framework that can be applied on multiple scales in plant morphology, focusing on floral organ numbers in Ranunculaceae flowers and floret numbers in Asteraceae capitula. Although the flowers and inflorescences are differ in scales, number variations in these two structures can be explained by a common developmental framework: whorled-like arrangements of primordia and fluctuations on expression boundaries of fate determinants.

はじめに

植物形態は自己相似的な特徴を持つ。ここで自己相似的とは、部分を拡大すると全体と同じ形になることを指し、シダ植物の複葉や、シュートの枝分かれなどがその例として挙げられる。茎頂分裂組織から生じる葉の葉腋にできる腋芽が、新たな茎頂分裂組織として葉を生み出すような例では、発生ルールそのものが自己相似的であると言える。働いている遺伝子や細胞種の違いがあったとしても、しくみやふるまいという点から見れば共通の理解が可能なケースもある。例えば、鋸歯や小葉など1枚の葉の中の構造については、平面的か立体的かという違いはあるものの、葉序(葉の付き方)のモデル(Jönsson et al. 2006) の発展形で説明できることが示されている (Tameshige et al. 2025)。本稿では、自己相似的な階層性を持つ構造のうち花における花器官と頭花における小 花に注目し、複数のスケールにわたって同じ発生的枠組みにより形態を理解できる可能性を議論する。

花器官と小花の数のばらつき

花器官の数は、基本的には種ごとに決まっている。例えばサクラの花びらは常に5 枚で、アヤメのように3 枚になることはほとんどない。しかし、種によっては、完全に決まっているのではなく、ばらつきを示すことがある。

キンポウゲ科の花器官の数は、同種内であってもばらつくことが多い。例えば、ウマノアシガタ Ranunculus japonicusの花を100個ほど観察すると、大多数は5枚だが、たいていの個体群では6 枚や7 枚の花弁を持つ花がいくつか見つかる。このとき、花弁の数が大きい方と小さい方に均等にばらつくことは少なく、大きい方にばらつく ことが多い(図1A)。よって、分布の非対称性を表す歪度を計算すると、正の値となる。歪度に加えて、標準偏差(ばらつきの程度)、尖度(分布の尖り具合)といった指標を複数の個体群について計算してみると、花器官数のばらつきの特徴がよりはっきりと見えてくる。もしばらつきが正規分布に従うならば標準偏差は平均と独立 で、歪度と尖度は0 になるはずであるが、花弁数の場合は平均に対して一定の関係を持つ(図1B)(Kitazawa & Fujimoto, 2016)。標準偏差は平均が5 から離れるほど大きくなり、いくつかの関数を当てはめてみると、平均と 5 の差の平方根におおよそ比例して増加することがわかる。歪度と尖度はいずれも、平均が5 の近くにあるとき に大きな正の値をとり、5 から離れるにつれて0 に向かう。すなわち、鋭い分布がみられるのは5 が最頻値である個体群に限られ、6 が最頻値である個体群はゆるやかな分布を示す。ここから、5 がウマノアシガタにとって特殊な数であることが示唆される。同様の解析をキンポウゲ科の中でもウマノアシガタに比較的近縁なキンポウゲ連Ranunculeae に拡張して行ってみると、平均と各統計量の間の関係は、より広範囲でも成り立つことがわかる(図1C)。すなわち、平均が3, 5, 8 といった特定の数に近いときは標準偏差が0 に近く、それらの数との差の平方根に比例して標準偏差が大きくなる。歪度は平均が 3 の直後で大きな正の値をとり、平均の増加とともに減少し0 を超えて負の値をとり、平均が5 を超えると再び大きな正の値をとる。尖度は特定の数に近いときに大きな正の値を、それらの数から離れると0 に漸近する。これは、平均の増加に伴い、鋭いピークを持ち大きい方にばらつく分布、大きい方と小さい方に均等にばらつく緩やかな分布、小さい方にばらつく鋭い分布と切り替わっていくことを表している(図1D)。

図1 花弁数と舌状花数のばらつき。(A, B) ウマノアシガタの花弁数。

(A) 一つの個体群内でのばらつきの例。2010 年、大阪。(B) 複数の個体群について、平均と標準偏差・歪度・尖度をそれぞれ計算してプロットすると、一定の関係が見える。(C)キンポウゲ連の花器官数分布の統計量。(D)歪度・尖度と分布の形の関係。(E)キク科の頭花の構造。(F)キク科の舌状花数の統計量。全データの重ね合わせ(左)と歪度と尖度の一部の拡大(右)。平均が8, 13, 21 付近で尖度がピークとなるとともに、その前後で歪度の符号が負から正へ変わる。尖度には複数の定義があるが、ここでは正規分布を0 として補正する定義を採用しており、正規分布に比べてゆるやかな分布では尖度が負の値となる。データの出典および種名はKitazawa and Fujimoto (2014, 2016) 参照のこと。

同様の傾向は、キンポウゲ科の他のグループに加え、キク科の小花の数でもみられる。キク科の花は頭状花序であり、ヒマワリなどでは外側に大きな花弁をもつ舌状花、内側に小さな星形の筒(管)状花が配置され、一つの大きな花のように見える(図1E)。この「大きな花」の「花びら」にあたるのが舌状花であるが、舌状花は花器官ではなく花そのものなので、花弁よりも一つ上の階層にあることになる。舌状花の数を数えてみると、コスモスなど数がほとんどばらつかない種もあるが、多くの種ではばらつきがみられる。舌状花数の分布についても、ウマノアシガタの花弁数のばらつきと同様に、標準偏差、歪度、尖度といった統計量で整理することができる(図1E)。一見すると、平均とともに標準偏差が緩やかに大きくなり、歪度・尖度が小さくなること以外、目立った傾向はないように見える。しかし、拡大して見ると、負の歪度は8, 13, 21 といった特定の値の少し前でしか見られないこと、それらの特定の値のあたりで尖度が大きな値をとることがわかる(図1E 右)。キンポウゲ連同様に、舌状花数においても特別な数の存在が示唆される。

キンポウゲ連で登場した3, 5, 8、舌状花数の8, 13, 21はいずれもフィボナッチ数である。フィボナッチ数とは a0=0, a1=1 として、an+1=an+an−1 で表される数列(フィボナッチ数列)に含まれる数を指す。花弁数や舌状花数とフィボナッチ数の関係は古来議論されてきたが、「舌状花の数はフィボナッチ数である」という説の証明は数のばらつきによって阻まれてきた。ばらつき方は種や個体群によって異なっており、フィボナッチ数がピークとなるような分布、それ以外の数を最頻値に持つ分布のいずれも、探そうと思えばさほど苦労せず見つけることができる。個々の分布からフィボナッチ数が特別な数であると主張することはおろか、それぞれの種の典型を示すことすら難しい。それに対し、以上で紹介したように、ばらつきの大きさ、非対称性や鋭さといった分布の特徴を複数の個体群で比較すると、鋭い分布は特定の数の近辺に限られていることがわかる。ばらつきを持つ形質における典型を議論するうえで、有効な方法を提示できたと 言えるだろう。

運命決定と数のばらつきの発生源

花器官数や小花数に「特別な数」があり、それがフィボナッチ数と関連することは、いったい何を表すのだろうか。特定の数に決まることは安定な形態の維持に役立つが、それがフィボナッチ数であることに何らかの適応的意義があるとは考えにくい。フィボナッチ数そのものに意味があるのではなく、器官数決定の背後にある発生機構の物理的帰結としてフィボナッチ数になっている可能性もある。本稿では、発生過程に注目して、ここまでに紹介したばらつきの特徴がどのような発生過程から生じるかを論じる。

花器官の数について、特定の数の周りで鋭い分布がみられることは、器官原基の位置と原基の発生運命決定のゆらぎによって説明できる。萼片や花弁といった花器官は、すべて相同な花器官原基から発生することが知られている。花の初期発生において、花芽の中心には未分化な細胞群の占める領域(花芽分裂組織)があり、その周りに花器官原基が発生する。花器官の発生運命は、花芽に同心円状に発現する遺伝子によって決定される(ABCモデル、図 2A)(Coen and Meyerowitz 1991)。シロイヌナズナなどでは複数の原基がほぼ同心円上に並ぶ輪生配置(図2B 左) であるため、同数の器官が安定的にそれぞれの発生運命を獲得し、運命決定因子の発現境界が多少ゆらいだところで数が変化することはほとんどない。逆に言うと、器官原基の配置が同心円状でなければ、遺伝子発現の境界の少々のゆらぎによって数のばらつきが生じうる。この可能性について最初に指摘されたのは、アンボレラやシキミなど、被子植物の進化においてより“ 基部”、すなわち単子葉植物と真正双子葉植物の分岐より前に分岐した系統である(Soltis et al. 2007)。これらの基部系統にもシロイヌナズナと相同なABC クラス遺伝子が存在しており、同様の運命決定が行われていると考えられる。一方、形態を観察すると、外花被片から内花被片へ、花被片から雄蕊への変化が段階的であり、中間的な花器官がみられる。また、花の発生過程では、器官原基が輪生的ではなくらせん的配置(図2B 右)をとる。これらの事実から、基部系統の花の構造の不安定さは、花器官原基の運命決定因子の発現境界がぼやけることと、らせん的な原基配置による、というfading border 仮説が提唱された。キンポウゲ科は真正双子葉植物に含まれるが、基部系統同様に、花弁状の雄蕊など中間的な形態を持つ花器官がよくみられ、原基発生がらせん的であることも確認されている。さらにクロタネソウにおけるB クラス遺伝子などの研究から、らせん的な器官原基の配置と運命決定因子の発現境界のゆらぎにより、ばらつきが生じることが提案されている(Wang et al. 2015)。

図2 発生運命のゆらぎにもとづく器官数分布の再現。

(A) ABCモデル。同心円状に発現する運命決定因子により花器官原基が萼片Se、花弁Pe、雄蕊St、雌蕊Ca のいずれになるかが決まる。(B)輪生配置(左)とらせん配置(右)。(C) 運命決定因子の境界が正規分布に従ってゆらぐと仮定する。(D) 原基配置がらせんのとき、平均の位置によって外側器官数の分布形状が大きく変化することはない。輪生に極めて近いとき、外側器官数はほとんどばらつかないか、輪生一周分の原基数の倍数に鋭いピークをもつ多峰性の分布になる。(E) 原基配置が輪生とらせんの間であるとき、特定の数の周りでの鋭い非対称な分布を説明できる。

運命決定因子の発現境界の位置がゆらぐ、つまり個体 によって境界の位置が微妙に異なるとき、花器官の数としてはどのような分布が得られるだろうか?ここでは議論を簡単にするため、境界位置が平均µ、標準偏差σ の正規分布に従ってゆらぐとする (Kitazawa and Fujimoto 2014)(図2C)。この境界より外にある原基は外側器官の運命を獲得すると考えて、様々な原基配置について外 側器官の個数分布を計算してみる。まず、完全ならせん配置のときを考えると、µ の位置やσ の大きさによらず、どの数も特別扱いにはならない(図2D 左)。輪生であれば、σ が小さければほぼすべての個体の外側器官数は輪生一周分の数となり、σ が大きければ輪生一周分の数を足したところに新たなピークが立つ(図2D 右)。特定の数をピークに持つときの鋭い分布と、他の数でのゆるやかな分布を一度に説明できるのは、輪生とらせんの間の原基配置、すなわち特定の数ごとにギャップがあるが、一周の中でも原基位置に差があるような場合である(図2E、以降、準輪生配置と呼ぶ)。このときギャップとµ の位置関係により、特定の数の周りでのばらつきの最小化や分布の非対称性を説明できる。

キク科の舌状花に対しても同様のスキームが適用可能だろうか。舌状花と筒状花の違いを決める遺伝子の一つとして、CYCLOIDEA (CYC) がある。CYC は元々、 キンギョソウの花の対称性が左右相称から放射相称に変わる整正花化(peloria) の原因遺伝子として見つかった、左右相称性の決定因子である(Luo et al. 1999)。被子植物の進化において、花の左右相称性は様々な系統で独立に獲得されたが、そのほとんどの系統でCYC が関わることが知られている(Hileman 2014)。おそらく向軸側において元々持っていた機能が、向背軸の非対称性の形成に転用されたものと考えられる。キク科の舌状花は、頭花の外側、すなわち花序の頂部から遠い方に花弁が偏った左右相称花であり、一方筒状花は放射相称花である。キク科のCYC は頭状花序の周縁部から頂端部に向かう発現勾配を示し、周縁部の舌状花の発生に働くことが示されている(Broholm et al. 2008)。CYC がABC 遺伝子と同様に、花序の形成過程で同心円状に発現すると考えれば、スケールや役者は異なるが、花芽とのアナロジーが成り立つ。また、キク科の小花の配置はらせんパターンに従うことがよく知られている。CYC そのもの、あるいはCYC を誘導する遺伝子の発現が、花芽における ABC 遺伝子と同様にゆらぐと考えれば、キク科の舌状花数のばらつきについても花芽と同様の説明が可能である。

準輪生的な配置の形成とフィボナッチ数

つづいて、準輪生的な器官原基配置の形成過程を検討する。輪生を作る一番簡単な方法は、おそらく、まず原基の領域をドーナツ形に決めて、それを複数の原基に分けるものである。この場合、花弁数を決めるのは、ドーナツの円周に対する分割サイズの比である。一方、キンポウゲ科にみられるらせん的な初期発生では原基が1 個ずつ発生するため、どこで一周を区切るかを決めるしくみが別途必要になる。ここでまず、らせん的な発生を再現するモデルを見ておこう。植物の器官配置において最も多いらせんパターンは、連続する2 器官のなす角度が 137.5°(黄金角)付近となる黄金角らせんであるとされる。黄金角付近のらせんパターンは、シュートの成長と、既存の原基による新原基形成の抑制を仮定すれば、安定的に出現することが知られている。等間隔のスポットパターンを作るようなルール(チューリングパターン、オーキシンの極性輸送に基づくモデルなど)や、物理的なサイズに基づくモデルなど様々なモデルが提案されているが、サイズ比などのパラメータに対する大まかなふるまいは、抑制が化学的か物理的かといった側面にはあまり影響されない。ここでは数値計算を行う上で扱いやすい抑制場モデル(Douady and Couder 1996) を用いる。

Douady とCouder の抑制場モデルの主要なプロセスは、新規原基の形成と成長の二つである。このモデルにおいて、新規原基は、半径R0 の茎頂分裂組織の円周上で、既存の原基からの抑制が小さいところに出現する(「最も小さい」とするか「十分に小さい」とするかで二つの異なるモデルがあるが、ここでは詳細には立ち入らない)。既存原基からの抑制は、原基の形成を阻む「エネルギー」として表現され、既存原基の真上で高く、既存原基から遠ざかるに従って0 に近づくような関数で表される。複数の原基が存在するときは、各既存原基からの抑制エネルギーを、すべての既存原基について足し合わせる。新しい原基は、抑制エネルギーの総和が最も低い 位置、あるいは十分に低い位置に形成される。新規原基の位置の決定後、すべての原基は決まった速度で遠心方向に移動する。これはシュートの成長により、原基が相対的に茎頂から離れることを表している。このモデルにおける主要パラメータは茎頂分裂組織の大きさR0 と次の原基ができるまでの成長距離の比であり、パラメータの広い範囲で黄金角らせんが現れる。

我々は、原基形成プロセスに関しては抑制場モデルを踏襲し、成長プロセスを形成後の原基間の斥力相互作用で置き換えたモデルを提案した(Kitazawa and Fujimoto 2015)。これは、花の発生の走査型電子顕微鏡写真を見ると、狭い領域に複数の原基が押し込められて互いに接していることと、らせん的な原基形成の場合、発生初期には非対称性が高いが、発生が進むにつれて原基間の角度や花芽中心からの距離が調整され、正多角形に近づくことから着想を得たものである。成長プロセスを原基間の斥力相互作用に置き換えると、原基ごとに成長の方向や速度が変化し得るため、自分より前にできた原基よりも外に移動するといった追いつき・追い越しが起こり得る。このモデルについて一定のノイズのもとで数値計算を行うと、らせん的な原基発生から準輪生的な配置を得ることができる。

このモデルで準輪生的な配置ができるしくみは、外側の原基の隙間が狭いときは内側の原基は外周に入り込めないが、十分に広いときは内側の原基がその隙間に入り込む、というように理解できる(図3A)。外周の原基の間隔が十分に狭くなったとき、内外の差が生まれ、外周の原基数が決定される。この考えに基づくと、原基形成の角度が黄金角付近のとき、外周に含まれる原基数がフィボナッチ数列的に増加することを直感的に説明できる。まず、開度が137.5 度付近のとき、5 個の原基を並べてみると、4 番目の原基は1 番目と2 番目の間に、5 番目は2 番目と3 番目の間に入る(図3B)。このとき隣り合う器官の間の角度を計算してみると、広い隙間α が3か所、狭い隙間β が2 か所あることがわかる。つづく6~ 10個目の角度位置は、1 ~ 5個目と互い違いになる。α、 β がともに内側の原基が入り込めない大きさであれば外周の原基数は5 個になる。α のみが十分に広い隙間だったとすれば6 ~ 8 番目の原基も外側に入り込み、計8 個の原基が外周に入る。β も十分に大きければ、9, 10 個目の原基も外周に入ることできる。すると、外周の器官数が10 個となり、フィボナッチ数ではなくなるように思える。しかし、6 ~ 8 個の原基がそれぞれの両隣の原基となす角を計算してみると、大きい方の角度がβ と等しくなる(図3B, 右アスタリスク)。よって、もしβ が十分に広ければ、9, 10 番目に加えてさらに3 個の原基が外周に入り込むことになる。この繰り返しにより、フィボナッチ数列的な数の増加が説明できる。なお、この説明で重要となるのは、新たな原基が先行する原基のどの隙間に入るか、という角度的な順番である。例えば開度が89°ならば4 番目の原基は1 番目と2 番目ではなく、1 番目と 3 番目の間になるので議論が成り立たなくなり、原基数が多くなるほど許容される角度のずれは小さくなる。

原基間の斥力相互作用により外周が形成されて外周の原基数が決定することと、同心円状の運命決定因子の発現を併せて考えれば、花器官数や小花数のばらつきにみ られた特徴を説明することができる。キク科では、同じ種でもピークとなる舌状花数が異なったり、多峰性の分布になることがある(図3C)。これについても、花序形成プロセスにおける原基サイズの変化や成長速度、舌状花運命決定のタイミングなどの個体差により、外周に含まれる原基の数が変化するという考えで説明できると考えられる。

図3 準輪生的配置形成の直感的説明。

(A) らせん的な原基発生からの外周の形成。(B) 黄金角らせんで原基が発生するときの角度位置。(C) アラゲハンゴンソウの舌状花数分布。2009 年、長野。

ばらつきの法則の一般性と花器官配置の進化

フィボナッチ数を「特別な数」とするばらつきはどれほど一般的なのだろうか。キンポウゲ科以外の花でも、花器官数が変化することがある。ウマノアシガタのように黄金角らせんで説明できるケースもあれば、らせんから外れていると推測できる系統も存在する。10 枚以下の数で、フィボナッチ数そのものでもフィボナッチ数の倍数でもなく、黄金角らせんから完全に独立に議論できる数は7 のみである。花弁数の典型が7 である種は非常にめずらしいが、その数少ない例としてサクラソウ科に属するツマトリソウがある。サクラソウ科の園芸品種では七弁花がそれほど珍しくないことと併せて考えると、サクラソウ科では、本稿で議論したしくみとは異なる方法で数が決まっている可能性がある。プリムラ・ジュリアンと呼ばれる園芸品種群では、花弁数が増加するとき、萼片数や雄蕊の数も同様に増加することが多い(図 4A)。つまり、輪生の各周の器官数を維持したまま数の変化が起きている。先に「一番簡単な輪生の作り方」として述べた、ドーナツ状の領域の円周を均等に割るような方法で花器官の配置が決まっているのかもしれない。円周を等しく分割するような方法であれば、花芽分裂組織の拡大に応じて、「特別な数」を示すことなく単調に数が増えることを説明できる。

キンポウゲ科のうちイチリンソウ連 Anemoneaを見てみると、ニリンソウやシュウメイギクでは5枚の花被片をもつ花が多く、数の増加はらせん的である(図4B)。一方、ミスミソウは、6 枚の花被片が互い違いに並んだ構造が基本であり、内側と外側に3 個ずつの花被片を持つ2 周の花被とみなすこともできる(図4C)。花被片が 6 枚のときの互い違いの並びはシュウメイギクでも見られる(図4B 右)。一方、花被片が8 枚のとき、外側にあるものが古いと考えて重なり方を観察すると、シュウメイギクの場合は黄金角らせんと対応付けることができるが(図4B 中央)、ミスミソウでは2 周構造が維持され、内側に4 枚、外側に4 枚であることが多い(図4C 中央) (Kitazawa and Fujimoto, 2020)。12 枚の花被片を持つケースでも、6 枚の花被片が交互に並ぶ2 周構造である(図4C 右)。この時の形態は、配置に加えて花被片の大きさ・形などもイチリンソウ属の他の種(アズマイチゲ、図4D)とよく似ている。さらに花被片の数が多いユキワリイチゲでは、最初の12 枚は2 周構造であり、13 枚目以降から別のらせんに移り変わっているように見える (図4E)。イチリンソウ連には、シュウメイギクのように黄金角らせんで説明できるケースと、ミスミソウやアズマイチゲのように2 周の花被と解釈した方がよいケースが混在していると考えられる。多くの被子植物において、萼片と花弁(または外花被片と内花被片)が同数の 2 周の花被がみられることを考えると、2 周の花被の形成は花の構造の進化において興味深い問題である。シュウメイギクとミスミソウの違いが、2 周構造の安定化を理解する一つの鍵となるかもしれない。

図4 花器官の数と配置の多様性。

(A) プリムラ・ジュリアン。花弁の数は萼の裂片数・雄蕊数と正に相関する(七弁花のみ、雄蕊は7 個だが萼片は6 裂。他は萼片・花弁・雄蕊が同数)。(B)シュウメイギク。花被片の数はばらつくが、黄金角らせんと対応した並びになることが多い。(C) ミスミソウ。花被片の配置は2周構造を維持することが多い。(D)アズマイチゲ。典型的には12 枚の花被片が交互に並ぶ2 周構造をとる。(E) ユキワリイチゲ。12 枚以上の花被片を持つことが多く、花被片の重なり方は多様。

おわりに

本稿では、キンポウゲ科の花芽とキク科の花序という階層の異なる構造について、それぞれの構成要素数のばらつき方に共通性がみられること、「黄金角らせん」という共通の発生的枠組みで説明できることを議論した。働いている遺伝子の違いや階層の違いを超えて同じ枠組みから議論することは、自己相似的構造を基軸として多様化した植物形態の理解に役立つと期待される。その一方で、同じ花器官であっても、黄金角らせんから外れた発生的枠組みを持つとみられるケースもある。遺伝的な相同性だけでなく、しくみとしての相似性を議論することが、発生の一般性・特殊性の理解に貢献するだろう。

References
 
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