フィナンシャル・レビュー
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新興諸国の通貨制度と経済の安定性
:インフレ目標の効果に焦点を当てて
福田 慎一
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2023 年 153 巻 p. 241-259

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抄録

 新興国経済がもつ潜在的な成長力は,先進国経済のそれを大きく上回る。その一方,多くの新興国は,依然としてその経済基盤が脆弱で,これまでもしばしば深刻な危機に見舞われてきた。このため,多くの新興国では,自国通貨に対する信認を高め,持続的な成長を実現することが大きなテーマであった。本稿では,2000年代後半以降の新興国を対象として,通貨制度のあり方が「経済成長率」,「為替レートの減価率」,「インフレ率」という3つのマクロ経済パフォーマンスにいかなる影響を与えていたかを,変動相場制や固定相場制といった伝統的な通貨制度だけでなく,インフレ目標や為替アンカーの効果を比較検討することによって分析した。分析の結果,固定相場制や為替アンカーは,為替レートの減価やインフレ率の上昇を抑える効果があった一方で経済成長を低下させる傾向があったことが明らかになった。一方,インフレ目標は,変動相場制と同様に,経済成長を低下させなかっただけでなく,変動相場制とは異なり,為替レートの減価やインフレ率の上昇を抑える効果があった。この結果は,近年新興国で増えつつあるインフレ目標採用国は,変動相場制採用国と同様に金融政策に自由度を持たせることで高い経済成長を実現すると同時に,インフレ目標にコミットすることによって変動相場制採用国よりも安定したインフレ率を実現してきた可能性があることを示している。ただし,インフレ目標を導入した直後の効果に限定した場合,インフレ目標には成長促進効果はあったものの,インフレ抑制効果はそれほど大きくないことが示唆された。また,インフレ目標による短期的な変動(ボラティリティ)の抑制効果も,成長率に関してはある程度見られたものの,為替レートやインフレ率に関してはさほど有意には観察されなかった。

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© 2023 本論文著者
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