フィナンシャル・レビュー
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2020年代の国際通貨システム
河合 正弘
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2023 年 153 巻 p. 9-75

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抄録

 第2次世界大戦後の国際通貨システムは,1971年のニクソン・ショックを境に大きく変貌した。それまでのIMF・ブレトンウッズ体制と呼ばれる米ドルを基軸通貨とする固定為替レート制から,1973年以降,主要先進諸国を中心に変動為替レート制に移行したからである。国際通貨システムは,1999年の西欧11か国による共通通貨ユーロの創出によって,複数基軸通貨制度へと展開し,第2の変貌を遂げることになった。2007-09年には,国際通貨システムの中心国である米国発の世界金融危機が起きたが,最も支配的な国際通貨としての米ドルの機能が損なわれる事態には至っていない。2010-15年の欧州金融危機により,ユーロのもつ制度的な脆弱性が明らかになり,ユーロが世界的な規模で米ドルに匹敵する役割を果たすようになることは容易でないことが示された。中国は世界金融危機以降,増大する経済力・金融力を背景に人民元の国際化を積極的に進め,米国の通貨・金融覇権に対する競争に乗り出している。ロシアも2022年のウクライナ侵攻後の金融制裁により,人民元への傾斜を深めている。しかし,人民元が本格的な国際通貨になるためには,国際資本移動の自由化や開放的で深み・厚みがあり流動性の高い人民元建て金融市場の存在が欠かせず,それには相当の期間を要すると考えられる。

 本稿では,まず国際通貨システムの諸類型を固定為替レート制度,変動為替レート制度,協調的通貨制度(欧州通貨制度〔EMS〕とユーロの経済通貨同盟〔EMU〕)の3つにまとめ,それぞれの特徴を整理する。次いで,国際通貨システムの主要な柱として,通貨の交換性,為替レート制度と金融政策の枠組み,国際通貨の選択,グローバル金融セーフティーネットを取り上げて説明する。さらに,国際通貨システムの焦点として,グローバル・インバランスと米国の経常収支赤字,ユーロの導入と欧州金融危機,発展途上国の金融危機・債務危機,中国人民元の国際化,中央銀行デジタル通貨を取り上げて分析する。最後に,国際通貨システムの将来として4つの将来シナリオ(「新たな米ドル本位制」,「グローバルな準備通貨制度」,「多極的な国際通貨システム」,「国際通貨システムの分断」)を挙げ,ユーロ経済通貨同盟の強靭化,アジアにおける準備通貨の創出と金融協力,国際通貨システムの分断のリスクについて論じる。

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© 2023 本論文著者
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