抄録
これまで多くの霊長類種で雄の順位と繁殖成功の関係が調べられてきた。正の相関が認められない種はおおむねニホンザルのような季節繁殖種に限られ、これは同時発情雌が多いために高順位雄が排卵周辺期の雌との交尾の優先権が保証されないためであると考えられてきた。他方、雌による雄の選択の影響も知られており、特に雄の在籍年数が長い孤立餌付け群では高順位雄が交尾こそすれ、排卵周辺期の交尾を避けられる結果ほとんど子供を残せていないことも起こっている。金華山の野生群は餌付け群や屋久島野生群と異なり、受胎後の発情が起こらず受胎しなかった場合でさえ再び発情を開始することは少なく、発情周期の回数が少ないことが報告されている。そのため同時発情雌の数が少なくなり、高順位雄の繁殖成功が高い可能性がある。この予測を確かめるべく、発情雌の多い2007年と少ない2008年それぞれの交尾季に、金華山A群のニホンザルの性行動の調査を行うとともに、糞等の非侵襲的DNA試料を採取し父性解析を行った。その結果予測に反し、いずれの年においても上位3頭の雄はまったく子供を残せていなかった。2008年春に生まれた10頭の赤ん坊のうち、DNA試料を採取分析できた7頭中1頭は第4位、2頭は第5位の雄の子供であり、残る4頭は群れ外雄の子供と考えられた。2009年春に生まれた6頭のうち、同じく3頭中1頭は第4位雄の子供で、残る2頭は群れ外雄の子供と考えられた。性行動データと照らし合わせることによりこの結果を考察したところ、以下のことが示唆された。7年在籍している第1位雄は雌からしばしば交尾を拒否されていた。高い交尾成功をおさめている第2位、第3位の雄は、排卵周辺の受胎可能な時期をはずして交尾している場合とはずしてはいないが受精させるには至らなかった場合があった。なお、2回目の発情周期での受胎、ならびに受胎後の発情が観察された。