霊長類研究 Supplement
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人類学関連学会5学会合同公開シンポジウム
  • 原稿種別: 人類学関連学会5学会合同公開シンポジウム
    p. 1-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    日時 2022年9月19日(月・祝) 14:00〜17:00

    会場 京都産業会館ホール北室(A会場)・同時オンライン配信

     これまでも多くの知識人がヒト(ホモ・サピエンス:賢いヒト)の特質に着目したヒトの呼称を提唱してきました。ホモ・ロクエンス(話すヒト)、ホモ・ファーベル(工夫するヒト)、ホモ・ルーデンス(遊ぶヒト)、ホモ・ソシアビリス(社交するヒト)、ホモ・モビリタス(移動するヒト)などなどです。新型コロナウイルス感染症の世界的流行は、われわれヒトの生活様式を一変させ、ヒトの根源的ともいえる特質を揺るがすにいたりました。唯一言語を操り、移動能力が著しく高く、自集団以外の他個体にも寛容で、一緒に集まることができるヒトという動物種が、移動すること、集まること、対話することの制限、禁止を余儀なくされたわけです。新型コロナの流行以前に、世界を席巻したと言えるのがイスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ著『サピエンス全史-文明の構造と人類の幸福』です。本著作に象徴されるように、人類学には総合的な視点と知識が必要とされます。令和4年度日本霊長類学会と日本人類学会は、両学会共通の課題である「人類の起源とその進化」について改めて議論を深めるべく21年ぶりに連合大会を開催します。さらに、人類学および関連学問分野の発展を図ることを目的として発足した人類学関連学会協議会が毎年行っている合同シンポジウムの世話人が日本霊長類学会に当たります。

     この千載一遇の機会を利用して、協議会参加団体である日本文化人類学会、日本民俗学会、日本生理人類学会にも協力を仰ぎ、コロナ禍で揺らいでいる特質を含めヒトの特質について総合的な視点から議論することを目的とした公開シンポジウムを開催することにしました。各学会の演者の先生方にはそれぞれの立場でヒトの代表的特質だと思われる呼称を演題として、講演していただきます。

    講演プログラム

    真野俊和(日本民俗学会:筑波大学大学院歴史人類学研究科)

    『“民俗”に生かされるヒト、“民俗”を生かすヒト:土着と前衛』

    金子守恵(日本文化人類学会:京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)

    『モノを作るヒト』

    中川尚史(日本霊長類学会:京都大学大学院理学研究科)

    『寛容なヒト』

    前田享史(日本生理人類学会:九州大学大学院芸術工学研究院)

    『適応するヒト』

    海部陽介(日本人類学会:東京大学総合研究博物館)

    『移動するヒト』

    実施団体 日本人類学会・日本霊長類学会連合大会実行委員会

    後援 京都大学大学院理学研究科、京都市教育委員会、京都府教育委員会

日本人類学会・日本霊長類学会連合大会公開コロキウム
  • 原稿種別: 日本人類学会・日本霊長類学会連合大会公開コロキウム
    p. 2-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    日時 2022年9月18日(日) 14:30〜16:30

    会場 京都経済センター会議室3F、3H

     人類学者(=ヒト屋)、霊長類学者(=サル屋)のうち高校生の皆さんとも年齢が比較的近く、それぞれの学問の次世代を担う若手研究者に、共通の話題で話をしていただきます。皆さんにはヒト屋の話、サル屋の話、それぞれについて議論する2グループに分かれてもらい、議論の結果を発表していただきます。その際、ヒト屋の議論にはサル屋が、サル屋の議論にはヒト屋がファシリテーターとして入り、ヒト屋とサル屋の話がかみ合うような議論を促します。さらに、その発表についてヒト屋とサル屋が回答をすることによって、高校生と学者、双方向の対話を通じて、自然とヒト屋とサル屋の対話が進むことを期待しています。

    プログラム

    コース1 「古代人のみえない食と、チンパンジーの赤ちゃんのみえづらい食」

    話題提供: 澤藤 りかい (総合研究大学院大学)

    松本 卓也 (信州大学)

    コース2 「混血がもたらしたサルとヒトの多様性」

    話題提供: 渡部 裕介 (東京大学)

    伊藤 毅 (京都大学)

    実施団体 日本人類学会・日本霊長類学会連合大会実行委員会

自由集会
  • 原稿種別: 自由集会
    p. 3-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    日時 2022年9月16日(金) 10:00〜12:00

    会場 京都産業会館ホール北室(A会場)・オンラインとのハイブリッド

     霊長類研究所改編に関連して、日本霊長類学会では臨時理事会および臨時代議委員会が開催された。開催された会議の中で、新たな霊長類学を考える時期にきているのではないかとの意見があった。また、ほかの会員の方々からも同じ意見が複数寄せられた。そこで、会員のニーズを把握するためアンケート調査を実施し、アンケートの分析結果を共有しながら、将来の霊長類学と今後の学会の在り方について参加者と共に考えたい。

    発表者

    山梨 裕美(京都市動物園)

    清野 未恵子(神戸大学)

    蔦谷 匠、武 真祈子、豊田 有、北山 遼、木下 勇貴、松平 一成(PSJアンケート調査ワーキンググループ)

    主催 一般社団法人日本霊長類学会・PSJアンケート調査ワーキンググループ

    責任者 森光 由樹(兵庫県立大学)

  • 原稿種別: 自由集会
    p. 4-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    日時 2022年9月16日(金) 10:00〜12:00

    会場 京都産業会館ホール南室(B会場)・オンラインとのハイブリッド

    学術変革領域研究「中国文明起源解明の新・考古学イニシアティブ」では古人骨を用いた骨考古学的な研究から、文明や国家が誕生した背景とプロセスを記述する試みを実践している。本集会では進行中の研究手法を紹介し、新規アプローチの可能性を議論する。

    プログラム

    趣旨説明:骨考古学から中国文明起源をいかに解明するか

    米田 穣(東京大)

    新石器時代長江デルタ地域における稲作農耕民の健康状態

    岡崎 健治(鳥取大)・高椋 浩史(土井ヶ浜人類学ミュージアム)

    骨形態からみる都市化とヒトの行動

    萩原 康雄(新潟医療福祉大)

    文明形成期の良渚に出現した人骨の加工品

    澤田 純明(新潟医療福祉大)

    土器の同位体分析からみた土器とヒトの移動

    石丸 恵利子(東京大)・申基(地球研)

    人骨・糞石・土壌 ? 古代ゲノム学の挑戦

    太田 博樹(東京大)

    携帯型次世代シーケンサーを用いたオンサイトパレオゲノミクス研究とその応用

    覚張 隆史(金沢大)、石谷 孔司(産総研)

    責任者 米田 穣(東京大学)

  • 原稿種別: 自由集会
    p. 5-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    日時 2022年9月16日(金) 10:00〜12:00

    会場 京都産業会館ホール中室(ポスター会場)

     複数個体が埋葬された廃屋墓例は、かつては縄文時代の「家族」を議論する土台となった。その後、埋葬状況や埋葬過程、個体間の関係性など様々な視点から、考古学コンテキストに基づいた議論が重ねられてきた。近年は、私たちが想起する現代の「家族」とは様相がことなるものの、何らかの近しい人々が意図的に埋葬されたものと想定されている。

     一方で、出土人骨そのものに直接アプローチする検討はほとんど行われてこなかった。我々は廃屋墓から出土した人骨を骨考古学、年代測定、食性分析、ancient DNA分析、タフォノミー分析など、さまざまな人類学的手法を用いて検討し、新たな情報を得ようとしている。これまでの知見と総合することで、より客観的データに基づいて廃屋墓での埋葬プロセスや個体間の血縁関係を解明できると考えている。本集会でその成果について発表し、一つの場所に埋葬された人々がどのような関係にあり、それは何を意味するのか、について議論したい。

    プログラム

    埋葬環境の判別を基にした“廃屋墓”の分類

    青野 友哉(東北芸工大)

    廃屋墓事例の再考:神奈川県三ツ澤貝塚A地点

    水嶋 崇一郎(聖マリアンナ医大・解剖)、佐宗 亜衣子(新潟医福大・人類研)

    廃屋墓事例における出土人骨の年齢構成

    佐々木 智彦(京大・博)、中村 凱(東京大・院理)

    姥山B9住居址ならびに加曽利北II-29住居址から出土した人骨のDNA分析

    水野 文月(東邦大・医)、植田 信太郎(東京大・院理)

    タフォノミー観察と年代測定からみる廃屋墓人骨の埋葬状況

    佐宗 亜衣子(新潟医福大・人類研)、青野 友哉(東北芸工大)、米田 穣(東京大・総研博)

    責任者 佐宗 亜衣子(新潟医療福祉大学)

シンポジウム
  • 中村 美知夫
    原稿種別: シンポジウム
    p. 7-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    野生チンパンジーの文化行動の獲得過程について話題提供をおこなう。野生動物の研究では、地域間で行動パターンに違いがあり、かつその違いが遺伝的な違いや環境による違いでは簡単に説明しにくい場合に、文化的な違いであると考えられてきた。しかし 厳密には、地域間で違いがあることは、文化の必要条件ではないし、十分条件でもない。このため、当該の行動が一体どのような過程で、幼少個体に獲得されるのかを検討する必要がある。チンパンジーの文化行動の獲得に関しての知見は、道具使用に関するものが多い。これは、道具使用が「知的」行動であり、また飼育下での再現実験がしやすいといった点と関連しているかもしれない。行動を「する/しない」が、技術を「知っている/知らない」ということと比較的繋げやすく、世代間での情報の伝達という図式と合致しやすい。そうしたチンパンジー道具使用の獲得においては、モデルとなる個体(多くの場合母親)が積極的に「教示」することはなく、むしろ学習者(子)がモデルのしていることに興味を持ち、積極的に「見て学ぶ」。ただし、モデルの行動を厳密に「コピー」するわけではない。学習者がまとわりつくことも多いため、モデル個体の道具使用の効率は落ちると思われるが、モデル個体はそうした「邪魔」に対して非常に寛容である。一方で、道具使用ではない文化行動である「対角毛づくろい」に関しては、こういった図式が成立しない。対角毛づくろいが最初に行われる際に、幼少個体が積極的であることはあまりない。たとえば、オトナ同士のやっている対角毛づくろいを見て、コドモ同士で不完全な対角毛づくろいをやってみるといったことはまず生じない。最初の対角毛づくろいは、ほぼ常に母子間で確認され、それも母親の側がより積極的に「形作り」をしている可能性がある。

  • 林 美里
    原稿種別: 口頭発表
    p. 8-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    霊長類は多様な物理的・社会的な環境に適応するため、反射などの生得的な能力だけでなく、生後の学習によって生存に必要な能力を獲得する必要がある。個体内学習では、認知発達にともない、経験や強化、アフォーダンス、試行錯誤などにより、徐々に学習が進む。社会的学習では、他個体をモデルとして参照することで学習が促進され、刺激強調などの比較的低次元の効果から、新奇な動作でも細部まで再現できる真の模倣まで、いくつかのレベルが存在する。また、霊長類は両手で物を把握し、多様な対象操作をおこなうという共通特徴があり、対象操作を認知発達の指標とすることで、種間比較や、発達・学習にともなう変化の定量化ができる。一部の霊長類では、物同士を関連付ける定位操作と、それを基盤とした道具使用が出現する。本発表では、おもに飼育下の霊長類を対象とした認知発達研究の中で、特に対象操作や道具使用を指標とした研究に着目して、レビューをおこなった。チンパンジーは、積木の物理的な特性に応じて形の異なる積木をつむ課題では、個体内学習によって適切な対象操作を獲得した。一方で、社会的学習が必要となる、他者モデルの色の順番を模倣して積木をつむ課題では、ヒトの子どもの優位性が示された。チンパンジーがナッツ割りなどの複雑な道具使用を学習する場面では、子どもへの社会的寛容性を基盤として、エミュレーションと個体内学習を組み合わせたような形で、学習が進むことが想定される。学習のターゲットとなる行動の複雑性が増加すると、必要な社会的学習のレベルも異なる可能性がある。さらにヒトでは、真の模倣によって細部を再現し、言語を介した積極的な教示がおこなわれることで、より複雑な行動でも効率的に世代間伝播していることが示唆される。

  • 今井 啓雄
    原稿種別: シンポジウム
    p. 9-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー
  • 中村 紳一朗
    原稿種別: シンポジウム
    p. 10-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    医科学を中心とした試験研究を目的とした、非ヒト霊長類を用いる動物実験の研究倫理の現状と問題点についてお話ししたい。ご存じの通り、動物種を問わず動物実験を行うには、国内法令、文書に従って機関内で承認された動物実験計画書に基づき実施する必要がある。さらに国際的な学会、論文に実験データを公表する際には、ARRIVE guidelinesなどへの準拠を要求される場合がある。多くのジャーナルがARRIVE guidelinesを採用するようになって以降、非ヒト霊長類を用いた研究の論文レビューの際、実験実施時の動物福祉への対応について問われる例が増えたので、自身のいくつかの経験を紹介する。この指摘は、機関の動物実験委員会による計画書の審査の際、国内の法令等に準じた審査にとどまり、(当時の)国際的な視点を欠いたことによって生じたと推定される。さらにこういった事例は、2020年に神経科学学会「神経科学分野における霊長類を対象とする実験ガイドライン」が発出されたこととも深い関係がある。このガイドラインでは、日本の試験研究用非ヒト霊長類の飼養状況が、国際的な状況から遅れを取っていることを前提に、年限を設けて1)ペア・グループ飼育を導入すること、2)獣医師による獣医学的管理を行うことを提言している。これら提言の意味は重要であり、猶予期間内は上述のような不備のある論文も、レビュー時の交渉次第で受理される可能性があるが、以降は受理の可能性が非常に少なくなることを示唆している。非ヒト霊長類を用いる動物実験を行う機関は早急に、人的、物的ならびに運用面について、国際的なレベルを目指した整備が必要とされる。

  • 竹ノ下 祐二
    原稿種別: シンポジウム
    p. 11-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    日本霊長類学会は、2021年に「霊長類の野外研究に関する倫理指針」を策定した。本発表では、その起草者として、<境界>をキーワードに話題提供する。野生霊長類の野外研究は、さまざまな意味で境界が不鮮明であり、それが、包括的・統一的な規則の策定を困難にしている。野外研究における不鮮明な境界には、以下のようなものがある。

    1. 研究と保全の境界:基礎研究と保全の実践活動では異なる指針が適用されるべきだが、近年「保全のための研究」のウエイトが増しており、どこまでが研究でどこからが保全活動なのかあいまいである。

    2. 調査地・調査対象の境界:研究が調査地や調査対象に対して責任をもつ。しかし、どこまでが「調査地」なのだろうか。調査対照群の遊動域?調査している保護区の境界?個体群の分布域?

    3. 野外研究者の境界:近年は実験研究と野外研究の境界があいまいである。サンプルのエンドユーザーはどこまで調査地に責務を負う?

    4. 研究と生活の境界:アフリカの野生霊長類の野外研究者が滞在中に町でブッシュミート料理(合法)を食するのは許されるだろうか?その是非はさておき、こういうことは研究倫理に含まれるのだろうか?

    境界が不鮮明であるとは、「何が『野外研究』か」が不確定であることを意味する。そのため、上記倫理指針は具体的に定められた規則は少なく、調査地や調査プロジェクトが個別の事情に応じて具体的な規則を定めるべしという「メタ指針」的なものとならざるを得なかった。どのように境界を鮮明化すべきかが、今後の改訂にむけた議論の論点の一つとなろう。

  • 本郷 峻
    原稿種別: シンポジウム
    p. 12-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    多量で高頻度の肉食は、ヒトを他の霊長類と区別する重要な特徴のひとつである。人類は肉を喰らうことで大きな脳の獲得を可能にし、世界中へと分布を拡大し、集団狩猟と食物分配を伴う複雑な社会性を手にしたとされる。しかし一方で、この私たちをヒトたらしめた肉食が、森林伐採を助長し、地球を温め、霊長類など野生動物を絶滅の淵に立たせ、感染症の蔓延を引き起こし、私たちの健康とプロポーションを台無しにしている、などということが声高に叫ばれている。私たちの肉食が原因とされるこれらの課題を解決に導くうえで、私たち人類学者・霊長類学者が与えられる示唆は、なにかあるだろうか?本シンポジウムでは、まず本発表で人類進化における肉食の位置づけと肉食にまつわる現代的課題をレビューしたのち、味覚遺伝子・安定同位体・古代DNA・民族誌を武器に持つ4名の若手人類学者それぞれの見地から、人類の肉食に関する研究を紹介する。現代的課題への意識を背景としつつ、あくまで基礎科学者らしい地に足の着いた議論を楽しみたい。

  • 早川 卓志
    原稿種別: シンポジウム
    p. 13-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    初期人類は狩猟や調理技術を発展させ、高品質な肉を得るようになった。しかしそもそも「肉が美味しい」と感じられなければ個体の肉食行動は誘起されない。類人猿は果実食を中心とした生活を送り、タンパク質が比較的豊富な若葉を食べる。初期霊長類となるとタンパク源の中心は昆虫であった。霊長類のゲノムに刻まれている味覚受容体遺伝子の分子進化と機能を調べてみた。すると、この昆虫食から葉食への転換の過程で、①苦味受容体がより広く多様な毒物を受容するようになり、②旨味受容体は単体での遊離ヌクレオチド受容能を失って遊離グルタミン酸受容に特化するようになったことがわかった。①は、毒性のある葉の摂取を避けるよう進化した結果と説明できる。②は、植物体には遊離ヌクレオチドがほとんど含まれていないためと説明できる。つまり人類は、昆虫食から葉食へ転換するときに獲得された味覚のまま、新たな肉食適応へと臨んでいる。肉に感じる「美味しさ」は、食肉目動物と違って肉食に適応進化した結果の味覚ではない可能性を検討すべきだ。

  • 今村 公紀
    原稿種別: シンポジウム
    p. 14-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    ヒトへと至る霊長類進化は生物学上の大きな命題であり、なかでも知性の獲得をもたらした大脳発生の進化は「ホモ・サピエンス(=賢いヒト)」を規定する顕著な要因である。こうした大脳発生進化の「ヒト特異性」を解明するためには、共通プログラムに基づく「普遍性」の研究から、種特異的な「特殊性」や「多様性」の研究に舵を切る必要がある。しかし、ヒトと非ヒト霊長類組織を用いた比較ゲノム/トランスクリプトーム解析によるアプローチでは、ヒト特異的な配列や発現を示す遺伝子の同定は可能であるものの、表現型すなわち機能的な「ヒト化」をもたらし得るのか、という因果関係を検証することはできない。加えて、表現型の種差は種共通のボディプランの進行と並行して経時的に拡大していくと考えられ、細胞・組織の発生動態(プロセス)を俯瞰したアプローチが必要であるが、ヒトと類人猿の発生過程で「いつ、何が違うのか」については全く分かっていない。一方、iPS細胞技術の確立を受けて、任意の動物種・細胞系譜の発生分化を培養下で再現することが可能となった。そこで、我々は非ヒト霊長類のiPS細胞を作製し、分化誘導系の比較解析によるヒト特異性の特定と遺伝子操作に基づく機能解析を試みる「幹細胞ヒト進化生物学」を標榜し、発生進化研究に取り組んできた。本大会では、その概要と進捗について報告する。

口頭発表
  • TRINH Thien Ngan , YAMADA Kazunori
    p. 15-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    Rough and tumble play (RTP) is one of the most common types of social play in mammals. Yet, the functions of this activity are unclear. Panksepp’s (1998) study in rats (Rattus norvegicus) suggests that RTP might serve to cultivate self-regulation in animals laying the foundation for social morality. By investigating how chimpanzees regulate their aggression during RTP, we can have some insights into the origin of our moral conduct, namely behaving fairly. 124 hours of behavioral observation of six chimpanzees was conducted at Kyoto City Zoo. Continuous sampling was used to record the duration of RTP, types of play solicitation, the role of players, mode of termination, play intensity, and the presence or absence of play retrieve. Play bouts were categorized into three types based on how chimpanzees regulated aggression: fair, normal domination, and transgression. The findings of this study support the hypothesis that when a socially dominant chimpanzee plays with a subordinate partner, fair play will account for at least 30% of their total bouts. This result may shed new light on the study of animals’ social play by hinting at the existence of morality in chimpanzees which is likely to emerge in RTP. Also, the presence of play retrieve and direct play solicitation significantly extended the duration of play while play intensity did not. On this basis, the connection between social play and morality should be considered when conducting comparative studies on rough and tumble play in non-human animals.

  • Xiaochan YAN, Yohey TERAI, Kanthi Arum WIDAYATI, Laurentia Henrieta ...
    p. 16-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    Sulawesi macaques, seven endemic species in Sulawesi Island, Indonesia are optimal for studying the mechanism of genes shaping species differentiation. They have rapidly speciated from the common ancestor in a relatively short period and morphologically diversified. Exceptionally, they exhibited distinct dark coat color but with difference in color pattern between species. To clarify the genetic basis shaping specificity of species in Sulawesi macaques, we sequenced the exome of five species and screen out the differentiated SNPs. In total, we collected 46 saliva samples of five species in Sulawesi Island. After determined the exome sequence using human exome library, we computed the sites Fst (fixation index) value between each two neighboring species and filter the fixed SNPs as high differentiated sites. We found that hundreds of genes contained fixed SNPs between each pairwise neighboring species. These genes might be responsible to the species differentiation and evolve in directional selection on the traits. Further we investigated the pigmentation-related genes and confirmed the functional divergence of the genes in vitro. We found pigmentation-related genes were significantly enriched with fixed SNPs. We studied the cAMP induced ability of the melanocortin-1 receptor (MC1R), which regulates the synthesis and density of melanin production. The MC1R exhibited fixed amino acid sequence in each species and showed specific functional features in each species. These results demonstrate the genetic basis of the specificity species in Sulawesi macaques and the possibility of coat color divergence mechanism.

  • Wanyi LEE, Takashi HAYAKAWA, Mieko KIYONO, Naoto YAMABATA, Hiroto ...
    p. 17-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    Mammals rely on the gut microbiome to process the indigestible plant materials. Through fermentation, the gut microbes transform fiber and the other indigestible materials into short-chain fatty acids and other nutrients, which are then absorbed by the host animals. For nonhuman primates and other animals that depend on plant material as the main component of their diet, the gut microbiome and its digestive function play a vital role in their feeding ecology. Although knowledge on the functions of the gut microbiome has increased greatly over the past few decades, our understanding of the mechanisms governing its ecology and evolution remains obscure. Comparing the gut microbiome of 19 populations of Japanese macaques Macaca fuscata across the Japanese archipelago, we assessed the relative roles of host genetic distance, geographic distance and dietary factors in influencing the macaque gut microbiome. Our results suggested that the macaques may maintain a core gut microbiome, while each population may have acquired some microbes from its specific habitat and diet. Diet-related factors such as season, forest and reliance on anthropogenic foods played a stronger role in shaping the macaque gut microbiome. Among closely related mammalian hosts, host genetics may have limited effects on the gut microbiome since the hosts generally have smaller physiological differences.

    Given the close link between host physiology and gut microbiome, an improved understanding of the macaque gut microbiome may advance our knowledge in the ecological flexibility of Japanese macaques and the role of the gut microbiome in mammalian feeding ecology.

  • 山口 飛翔
    原稿種別: 口頭発表
    p. 18-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    群れの空間的なまとまりは霊長類の社会システムを特徴づける重要な要素であり,その変動に影響を与える要因を明らかにすることは霊長類社会の理解に不可欠である。本研究では,宮城県金華山島のニホンザルB1群で観察された第一位オス(TY)の群れへの頻繁な出入りという特異な行動と,群れ内で確認されたメスの割合の変動の関連を調べることで,第一位オスの動きがニホンザルの群れのまとまりに与える影響を定量的に検討した。調査は2018年10月から2022年3月までの間に計418日間行った。2019年9月から2021年12月までの期間中,TYは平均して10日に0.99回の頻度で群れを出入りし,この期間中に彼が群れで確認された日数割合(143/260,55%)はそれ以外の期間(126/126,100%)に比べて著しく低くなった。TYの出入りがあった期間中は各観察日に確認できたメスの割合も顕著に低くなっており,中でも特にTYが群れで確認できなかった日にはその割合が低下した。この傾向は特に交尾期に顕著であった。以上の結果は,TYの群れへの出入りが群れのまとまりの変動に関連していたことを強く示唆する。そこで,そのメカニズムを検討するため,各メスが群れで確認できなくなる際にどのような要因が影響したかを調べたところ,交尾期にメスが群れで確認できなくなる確率はTYが群れを離れた日に有意に上昇していた。この結果は,一部のメスが群れを離れるTYに追随したことで,確認できるメスの割合が減少したことを示唆する。加えて,メスが群れで確認できなくなる確率は,オスからメスへの攻撃の頻度が高い日の翌日ほど有意に高くなっていた。この結果は,メスがオスの攻撃を避けるために群れを離れたことも示唆しており,実際に群れで確認されない割合が高かったメスほど群れ内でオスの攻撃を受ける頻度は低くなっていた。今後は,他の調査地でも第一位オスの動きやオスの攻撃が群れのまとまりに影響を及ぼすことがあるのか検証されることが期待される。

  • 姉帯 沙織, 小島 龍平, 時田 幸之輔, 平崎 鋭矢, 遠藤 秀紀
    原稿種別: 口頭発表
    p. 19-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    直立二足歩行のヒトの肩甲骨は,大部分は筋によって体幹に引きつけられる。一方で,四足歩行の哺乳類では,左右の肩甲骨の間に体幹が吊り下げられる。したがって,これらの機能を果たす背側肩帯筋(肩甲挙筋LS,前鋸筋SA,菱形筋Rh)の形態には,種ごとの姿勢や運動の特徴に応じた違いがあると考えられる。本研究では,霊長類間で背側肩帯筋の筋構築と神経支配を比較し,ヒトの直立姿勢の適応に伴う背側肩帯筋の特徴と系統発生を考察した。対象は,チンパンジー1側,カニクイザル2側,フランソワルトン3側,リスザル4側,アカテタマリン3側,エリマキキツネザル2側,ポト2側とした。3筋の筋構築は,ヒト型(LS:上位4頸椎から起始しSAと独立,Rh:下位頸椎〜上位胸椎棘突起から起始)とカニクイザル型(LS:下位頸椎から起こる筋束がありSAと連続,Rh:頸胸椎に加え頭部筋束あり),および中間型に分類された。ヒト型はチンパンジー,カニクイザル型はフランソワルトンとエリマキキツネザルであった。リスザル,アカテタマリンはLS起始がヒト型よりも下位の頸椎に及ぶが,LSとSAが独立しているため中間型とした。ポトではLS・SAが連続しカニクイザル型と一致するが,Rh頭部筋束が見られないため中間型に分類した。これらの結果から,ヒト背側肩帯筋の形態はLS下部筋束とRh頭部筋束の消失によって特徴付けられることがわかる。哺乳類のLS下部筋束は肩甲骨を尾側方向へ回旋させ,上肢を後方へ引く。一方でヒトLSの作用は,肩甲骨の至適肢位の保持とされる。直立姿勢のヒトでは,上肢の運動は前方または側方への挙上が主であり,肩甲骨の動きは頭側方向への回旋が主体となる。したがって,ヒトではLS下部筋束が消失すると考えられる。また神経支配では,LS下部筋束を持つ種ではLS下部にはC5由来の神経が支配するが,LS下部を持たない種ではC5はSA上部筋束を支配する。よって,ヒト・チンパンジーのLS下部筋束はSA上部筋束へ移行したと解釈できる。

  • 貝ヶ石 優, 山本 真也
    原稿種別: 口頭発表
    p. 20-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    社会的知性仮説では、複雑な社会的環境がより高度な知性の進化を促すことを予測する。先行研究では、社会的知性仮説に関する検証は、多くの場合集団サイズや社会構造の異なる種間の比較によってなされてきた。しかし、個体が経験する社会的環境は、異なる種間のみならず、同一集団内で暮らす個体同士であっても異なる。本研究では、淡路島に生息する餌付けニホンザル集団を対象に、各個体の社会性と認知能力との関連について検証を行った。社会性の指標として、2017年6月から2020年3月に収集した成体196頭間の毛づくろいデータをもとに、毛づくろいネットワークを作成し、個体ごとにネットワーク上の中心性を算出した。本研究で用いた中心性指標は、次数 (個体の持つ毛づくろいパートナーの数)、重み付き次数 (個体が関わった毛づくろいバウト数)、固有ベクトル中心性 (ネットワーク上の個体の影響力)、および媒介中心性 (ネットワークの繋がりを保つうえでの個体の重要性) であった。認知能力の指標として、自己抑制能力、物理的認知能力、社会的認知能力のそれぞれに関わる複数の課題を実施し、それぞれのネットワーク中心性との関連を検証した。本研究で用いた課題のうち、自己抑制能力に関わるcylinder課題について、中心性との関連が示唆された。他方、物理的および社会的認知能力に関わる課題については、いずれも中心性との関連は見られないか、弱い関連性が示唆された。以上の結果は、認知能力の名中でも特に自己抑制能力が社会性に大きく関わっていることを示唆している。自己抑制は、状況に応じて行動を柔軟に調整することに関わる能力と考えられている。そのため複雑な社会的環境の中でより中心的な位置を占めることは、個体に高い自己抑制能力を求めるのかもしれない。

  • 三谷 友翼, 大井 徹
    原稿種別: 口頭発表
    p. 21-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    現在、多くのニホンザルMacaca fuscataの群れにとって、農地は、森林同様、重要な採食場所となっている。農地は、森林よりも栄養価の高い食物が存在するが、ヒトやイヌに追いかけられても避難場所が無いなど、それを得るためのリスクが大きい場所でもある。また、観察者にとっては見通しが良く、良好な観察条件が得られる場所であり、森林中よりもニホンザルの採食行動の特性がより明瞭に把握できる可能性がある。そこで、農地に出没したニホンザルの行動の内、出没の頻度、林縁から離れる距離の性・年齢クラスによる違いを明らかにし、個体の採食戦略という点から検討した。2021年10月から12月にかけて、石川県白山市に生息する約48頭からなるクロダニA群を対象に調査を行った。林外に出没した個体を対象にスキャンサンプリングを行い、性・年齢クラス、出没距離、活動、採食物などを記録した。群れの出没を最初から最後まで観察できた39回の出没の約90%において、群れサイズの20%以下にあたる10頭以下しか出没しなかった。出没個体は、イネの二番穂、草本、カキノキの果実を主に採食した。フィッシャーの正確確率検定では、出没個体の構成は、群れの性・年齢クラスの構成とは有意に異なった。また、性・年齢クラス間の出没距離の違いをSteel-Dwassの多重比較によって検討した結果、ワカモノオスとその他の性・年齢クラスが有意に異なった。以上の結果をもとに、性・年齢クラスごとに出没距離の長短と出没頻度について類型化すると、出没頻度が低く出没距離が短い(アカンボウ、子持ちのメス)、出没頻度、出没距離が中程度(オトナオス、ワカモノメス、1~2才)、出没頻度が中程度で出没距離が長い(ワカモノオス)、出没頻度が高く、出没距離が中程度(オトナメス、3~4才)といった4つのカテゴリーになった。この類型には、エネルギー要求とリスク感受性の違いなどが関係すると考えられた。

  • 南 俊行, 古市 剛史
    原稿種別: 口頭発表
    p. 22-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    生物学的母親が乳児の養育の大部分に寄与する多くの霊長類でも、母親以外の成熟した個体(「非母」)による短時間の養育的な行動(allomaternal care:以下、単に「ケア」)が観察される。これまで様々な種を対象に、非母から乳児へのケアの要因が調べられてきた。しかし、非母による身体接触を伴うケアが、受け手である乳児の発達とどのように関連するかは、ほとんど検討がない。そこで、嵐山ニホンザル集団の未成体を1歳まで縦断的に観察し、非母からのケアの要因と、未成体の発達との関連を調べた。抱擁、毛づくろい、運搬をケアと定義した。2019-2021年に嵐山集団で誕生した乳児のうち、23個体を追跡し、生後24週までの期間、どの個体からケアを受けたかを記録した。さらに、対象個体を1歳2-5か月齢に観察し、社会行動とその相手個体を記録した。加えて、1歳3か月齢における、対象個体の体長を、非接触的な手法で測定した。解析の結果、1) 血縁の非母ほど、2) 年齢の低い非母ほど、3) 乳児の母親より低順位の非母ほど、乳児に対してケアを行った。また、乳児期にケアが見られた非母-乳児ペアは、それ以外のペアよりも、1歳において社会交渉を見せる確率が高く、その傾向は血縁関係のペアで顕著であった。さらに、乳児期に非母からケアを受けた個体ほど、1歳における成体メスに対する毛づくろいが多かった。一方で、乳児期に血縁の非母からケアを受けた個体ほど、1歳における社会的遊びが少なかった。乳児期における非母からのケアの有無と、1歳における体長は、関連しなかった。一連の結果は、嵐山集団において、生後初期の非母からのケアが、非母-乳児の関係構築に寄与することを示唆している。しかし、非母からのケアと1歳齢の体長が関連しなかったことや、血縁の非母からのケアが未成体の社会的遊びの減少と関連したことから、非母によるケアが乳児にとって適応的であるかどうかは、より縦断的な調査をもとに慎重に考察する必要がある。

  • 櫻屋 透真, 江村 健児, 薗村 貴弘, 平崎 鋭矢, 荒川 高光
    原稿種別: 口頭発表
    p. 23-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    ヒラメ筋は他の霊長類と比較しヒトで特に発達しており、中でもヒトに特異的なヒラメ筋前面の羽状筋部は、直立二足歩行に重要な役割を果たすとされる。このヒトヒラメ筋羽状筋部は、ヒラメ筋の大部分を支配する後方からの脛骨神経枝(Posterior branch: PB)とは別の独立した脛骨神経枝(Anterior branch: AB)によって前方から支配される。我々はこれまで、神経束分岐パターンの解析によって、ヒトのABと相同の枝を他の霊長類種でも見いだし、ヒラメ筋羽状筋部とそれ以外の後方部の系統発生学的な由来が異なる可能性を提示したが、ヒトにおける羽状筋部の発達過程の詳細は未だ不明な点が多い。そこで本研究では、筋内分布解析によって、ヒト上科のヒラメ筋内の支配神経分布パターンを詳細に記録し比較することで、直立二足歩行への適応に伴うヒトヒラメ筋の変化の過程を考察した。フクロテナガザル2側、オランウータン1側、チンパンジー1側、ヒト2側のヒラメ筋を用いた。ヒト1/2側のヒラメ筋はCT像と肉眼解剖学的筋内分布解析を組み合わせて三次元的に解析した。ABは、フクロテナガザル1/2側、チンパンジー1側、ヒト2側に存在し、チンパンジー以外のABはPBと筋内で交通した。チンパンジーのABはヒラメ筋前面の腱膜のみに分布した。オランウータン、チンパンジー、ヒトのPBの筋内分布は類似しており、5部に分類できた。以上の結果により、ABは筋束の支配に加え、腱膜への知覚枝や交通枝など種ごとに形態が異なることから、種によって多様な変化を遂げていることが示唆された。

  • 設樂 哲弥, 伊藤 幸太, 中野 良彦
    原稿種別: 口頭発表
    p. 24-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    直立二足歩行時の上体の側方安定性に重要であるヒトの中殿筋は、形態学的特徴に基づくと前・中・後部の三つのセグメントに細分される。ヒトの二足歩行を対象とした筋電図研究によると、中殿筋の三つのセグメントの間には活動位相のズレが存在するといい、運動制御面でも筋内機能分化が生じている可能性が示唆されている。形態と運動の両面から見て、ヒトの直立二足歩行と機能的に関連していると推察される中殿筋内部での機能分化は、人類進化の過程でどのように獲得されてきたのだろうか。ニホンザルを対象としたこれまでの我々の研究結果から、四足から二足への歩行運動時の姿勢変化が中殿筋の筋作用の変化に関連していることが明らかとなっている。本研究では、運動制御機能の視点から、四足から二足への歩行運動様式の変化が中殿筋の筋内機能分化に及ぼす影響について明らかにすることを目的として、ニホンザルの四足・二足歩行時における中殿筋の三セグメントの筋活動を同時計測した。筋電図計測装置と同期したビデオカメラの動画に基づいて一歩行周期を切り出し、四足歩行、二足歩行各条件における平均波形と、相互相関分析を用いた試行毎のセグメント間の活動位相のズレを定量化した。その結果、二足歩行では四足歩行に比べて筋活動が大きいことと、中・後部に対する前部の活動位相の遅れが、四足歩行時よりも二足歩行時に増大する傾向にあることが明らかとなった。本発表では、筋電波形の質的差異も含めて、ニホンザルにおける中殿筋内部での機能分化の様相と、その歩行運動様式との関連について議論する。

  • 天野 英輝, 田邊 宏樹, 荻原 直道
    原稿種別: 口頭発表
    p. 25-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    ヒトの脳の特徴と進化を明らかにする上で,ヒトと,生物学的にヒトに最も近縁なチンパンジーの脳形態を比較することは重要である。脳画像解析によって両者の脳形態を定量的に比較するには,比較の基となる基準脳を作成し,各個体の脳を高精度に基準脳へ変換することで,ボクセル単位で相同部位を対応づける必要がある。そこで,本研究では,ヒトとチンパンジーの脳構造画像を,各脳領域を解剖学的にラベリングした脳地図から定めた相同領域に基づいて形態変換する手法を開発し,両者の各領域の脳形態差を可視化・定量化することを目的とした。ヒト10個体,チンパンジー10個体の頭部MRI画像を,脳容積でサイズ正規化し,脳地図に基づいて相同領域を定義した。そして,各個体の脳形態を線形変換(アフィン変換)によって重ね合わせ,さらに各個体の脳を,非線形変換(DARTEL変換)を用いて脳回,脳溝などの構造の細部まで一致させ,ヒトとチンパンジーの基準脳を作成した。各個体の脳から基準脳への変形場を主成分分析することによって,種間の脳形態差を抽出・可視化し,定量的な比較を試みた。その結果,認知能力と関連する多くの領域が,ヒトで相対的に大きいことが確認された。具体的には,前頭葉の前頭極(ブロードマン領野10),背側前頭前野(46,9),眼窩前頭皮質(11),頭頂葉の楔前部(7)で,これらの脳部位は,それぞれ遂行機能,ワーキングメモリー,価値表象,自己意識・視空間認知能力と関係する。さらに,側頭葉の側頭極(38),中側頭回(21),側頭頭頂接合部及び,前頭前野内側部(32)がヒトで相対的に大きく,これらの領域は,他者の立場で考える認知能力(メンタライジング)と関連し,ヒトで顕著な向社会性の神経基盤をなしていると考えられている。ヒトの進化の過程において,これらの領域の拡大がどのような順番で起きたのかを化石証拠から分析することで,ヒトの大脳化に作用した選択圧と進化的背景を明らかにできると考えられる。

  • 花村 俊吉, 林 泰彦, 青山 徳幸
    原稿種別: 口頭発表
    p. 26-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    山口県周防大島の南側に、無人島になって久しい大水無瀬島がある。この島にニホンザル(以下サル)が生息している。1960年から間直之助が調査してきた比叡山のサルのうち、分裂した比叡山A群が、1980年ごろから京都市の八瀬で猿害を起こすようになった(半谷ほか, 1997)。市から猿害調査を依頼された伊谷純一郎は、1987年に高畑由起夫とともに調査をおこない、当時日本モンキーセンター園長であった小寺重孝の個人的な指導のもと、27頭の集団捕獲に至る(高畑, 私信)。伊谷が今西錦司と宮本常一から紹介されていた猿舞座に仲介を依頼し、大水無瀬島に放獣することになる。輸送と放獣の詳細は不明だが、猿舞座と、伊谷が指示した見届け人が放獣場面を確認している(筑豊・小山, 私信)。以降、島の付近を漁場とする漁師に目撃されてきたほか、近年では、山口県東部海域にエコツーリズムを推進する会が主催する無人島ツアーの資源のひとつにもなっている(藤本, 私信)。私たちは、2022年4月6日に大水無瀬島に渡った。あちこちでサルの糞が見つかり、浜辺で崖の上を移動する4頭のサルを直接観察した。漁師によると、サルが威嚇しながら向かって来たり捨てた魚を食べに来たりしており、ある程度は人に慣れているようだ。糞が多数あった浜辺と尾根沿いの獣道に3台のカメラトラップを仕掛けたので、回収が間に合えばその結果も報告したい。大水無瀬島は、旧日本軍が無線基地としての利用を放棄して無人島になる以前は、この島を属島とする沖家室の人びとが救済島(困窮島)として利用してきた。そうした島の歴史のなかにサルの人為的な移動も位置づけ、自然・文化複合的な共有資源として活用していくことが期待される。放獣後の社会や食性の変容の有無も、興味深い調査トピックになるだろう。また近年、みかん農家の多い周防大島に、本土側から大島大橋を渡ってサルが入って来ており、警戒感が高まっている。周防大島や付近の有人島へのサルの渡来や人との関係についての調査も待たれる。

  • 森光 由樹, 洲合 隼輝
    原稿種別: 口頭発表
    p. 28-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    農作物被害を出す加害群を効率よく追い払うには,群れの広がりを把握する必要がある。しかし,群れの広がりについて先行研究はほとんど認められていない。空間的な群れの広がりについてGPS発信機を用いて分析を行った。兵庫県神河町に生息する大河内A群およびB群の2群を対象とした。GPSのスケジュールは,8:00,10:00,12:00,14:00,16:00の2時間毎と夜間20時で1年間測位を行った。GPSを装着した個体は,2群とも成獣メス4個体で,常染色体DNAマイクロサテライト分析から,母親は別個体であることを確認した。各群れ4頭の同時時間帯の測位点を,それぞれ線で結び,面積を算出した。各群れ4頭の同時測位率は,A群が72.5%,B群が71.5%だった。2群とも群れの活動面積は,秋が最も広がりA群(平均11550㎡±22)B群(平均11007㎡±19)であった。次に春(A群;平均8252㎡±25)(B群;平均8105㎡±21),夏(A群;平均7142㎡±15)(B群;平均7753㎡±15)で,冬(A群;平均2655㎡±10)(B群;平均2333㎡±8)は,最も活動面積が狭かった。我々が先に分析した行動圏面積では,大河内A群およびB群とも,秋が最も行動圏が広く冬で最も狭かった。行動圏面積の季節変化は,自然植生フェノロジーおよび農作物フェノロジーとの関係が最も影響していた。群れの広がりの季節差を生み出す要因の一つに,採食物との関係が考えられる。秋,自然植生では堅果類,そして農作物では黒豆,小豆を採食する割合,量が多く,個体間で競合しないため別々の食物パッチを利用していた可能性が考えられた。加害群を追い払う場合,秋は群れが最も拡大しているため,群れの広がりに注意しながら,追い払いする必要がある。

  • 吉田 洋, 蔵岡 登志美
    原稿種別: 口頭発表
    p. 29-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    私たちはこれまで、1)2019年10月~11月に、山梨県南都留郡富士河口湖町において、オトナメス1個体、ワカモノオス1個体、性別不明のコドモ1個体の計3個体で構成される野生ニホンザル(Macaca fuscata)「船津グループ」が人身被害を発生させ、そのうちのオトナメス1個体が同年11月20日に捕獲されると、その後に人身被害が発生しなくなったこと、2)市街地に位置する、「船津グループ」が利用していた廃墟でカメラセンサスを実施したところ、人身被害終息後もワカモノメス1個体が廃墟を利用し続け、2020年11月前後のみ、その利用日数が著しく高くなったことを、2021年3月まで調査結果を踏まえ報告した。本発表ではそれ以降の、2022年5月までのモニタリング調査の結果を報告する。カメラセンサスの結果、個体識別ができた個体はワカモノメス1個体で、他の個体は確認できなかった。このことから調査開始以来、この廃墟を利用していたのは、「船津グループ」の残存個体のメス1個体のみと推測する。また廃墟の利用日数は、2021年4月以降も少なく推移していたが、2022年1月に急増し、そのまま5月まで高止まりした。撮影した個体の行動を解析したところ、2020年11月にはオニグルミ(Juglans mandshuric)の実を、2022年1月~2月にはクマイザサ(Sasa senanensis)の葉とオニグルミの実を、廃墟内に持ち込み摂食していた。このことからこの時期には、廃墟の近くにある食物が、当該個体を誘引し、廃墟の利用の増加につながったと考える。その一方で2022年3月以降は、廃墟への食物の持ち込みは確認できていない。このことは、当該個体とって廃墟が、食物確保のための場から、安全確保の場へと変質した可能性が指摘できる。当該個体による人身被害は、廃墟の利用が増加した現在もなお、確認されていない。この市街地への馴化の進行が、サルの行動や被害の発生にどのような影響を与えるか、引き続き注視する必要がある。

  • 西村 剛, 平林 秀樹, 小嶋 祥三
    原稿種別: 口頭発表
    p. 30-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    ヒトは、喉頭の位置が低く、喉頭蓋が軟口蓋と離れ、長い口腔咽頭をもつ。この形状は、音声言語に適応的であるが、嚥下物が誤って気管へと入り込む誤嚥のリスクをあげるとされる。そのため、ヒトでは、喉頭全体を舌骨に向けて上前方へと挙上することで、喉頭蓋を後方へ曲げて喉頭口に蓋をして誤嚥を防ぐ特有の嚥下が進化したといわれている。一方、サル類は、いわゆる草食動物型で、喉頭蓋は鼻腔へとつながり、嚥下物は喉頭口脇の梨状窩から食道へと流れ、呼吸を止めないとされる。しかし、カニクイザルなどでも喉頭蓋が曲がり、呼吸を止めているとの報告もある。本研究は、チンパンジーを対象に、麻酔下でジュースを滴下し、その嚥下中の喉頭及び喉頭蓋の運動を、経鼻ファイビースコープで直接観察し、嚥下機構を確認した。ジュースはいったん梨状窩に貯められ、連続的に通過することはなかった。喉頭が前方に動くことで、喉頭の前庭が閉じるとともに、喉頭が舌根の下の潜り込み、喉頭の後方にある食道の入り口が開口して、梨状窩に貯められたジュースが食道へと押し出されていた。その際、喉頭蓋が後方へ曲がる事例もあった。つまり、この喉頭の前方への運動は、喉頭口の閉鎖と食道の開口を担っており、呼吸を確実に止める。この運動を参照すると、ヒトでは、喉頭が低いので喉頭は上前方へ運動するものの、喉頭を舌根に寄せるその上前方運動の一義的機能はチンパンジーと同様であり、喉頭蓋の運動は副次的に起きていると考えられる。サル類に備わった嚥下運動は、ヒトにおける長い口腔咽頭による誤嚥リスクの潜在的な増加に適応的であると考えられる。

    本研究は、科研費(#19H01002)の助成を受けた。

  • 後藤 遼佑, 木下 勇貴, 平﨑 鋭矢
    原稿種別: 口頭発表
    p. 31-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    ニホンザルはDiagonal sequence – diagonal couplet (DSDC) 歩容を主に用いる。樹上の不連続な樹枝(支持基体)の上を歩く霊長類は、新たな樹枝を掴む前肢に体重が移る前に後肢を身体重心下に置くことで、新しい樹枝が折れるといった事態に備える必要があり、DSDC歩容はこの条件を満たすと言われている。しかし、Lateral sequence – lateral couplet (LSLC) でも前肢の着地直前に後肢が身体重心下に着くことが報告されており、未だ霊長類におけるDSDCの進化要因は特定されていない。本研究では、DSDC歩容の選択には別の要因も関与しているという仮説に基づき、不連続支持基体と歩容選択の関係を実験的に調査した。具体的には、ニホンザルに以下の3種類の支持基体上を四足で歩行させ、その歩容を解析した;G:地上条件、Ld:直径15 cmの円形木板を20cm間隔でマス目状に不連続に配置した条件、Sd:直径約5 cmの円形金属を20cm間隔でマス目状に不連続に配置した条件。その結果、GとLdではニホンザルは主にDSDCを用い、SdではLateral sequence – diagonal couplet (LSDC)で歩いた。また、不連続なLdとSdでは、高い頻度で同側前後肢が近接して着地した。本研究から二つの知見が得られた。まず、ニホンザルが特定の支持基体上ではLSを使用することが明らかになった。次に、不連続な支持基体では、同側前後肢の着く位置が近接していることから、ニホンザルは前肢の位置を手がかりに後肢の着地位置を制御すると考えられた。先行研究が示すように、前肢着地前に後肢が身体重心下に着く歩容はDSDCとLSLCである。一方、本研究から、前肢が後肢を誘導する歩容はDSDCとLSDCであり、DSDCだけがそれら両方を満たす歩容であることが分かった。

  • 松田 一希, 村井 勅裕, TUUGA Augustine , BERNARD Henry , OROZCO-TERWENGEL Pablo ...
    原稿種別: 口頭発表
    p. 32-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    霊長類の重層社会は、安定した核となる複数の群れ(ユニット)が、様ざまな時空間スケールで離合集散しながら、一緒に採食、休息、移動を繰り返す高次のコミュニティ集団と定義できる。それぞれの群れは、縄張りを保有せず、遊動域を重複させ、近接して集まる際にも際立った敵対交渉が見られない。大きく複雑な集団を形成する社会の重層化を促すのは、必ずしも高い知能/認知能力だけではない。そういった能力がはるかに高いチンパンジーなどの大型類人猿では、社会の重層化はみられず単層の社会を形成している。重層社会は、古くはヒヒ族のマントヒヒとゲラダヒヒで発見され、その後、コロブス亜科のodd-nosedグループのシシバナザル属やテングザルでも発見されるようになった 。このような経緯から、なぜヒトの社会が重層化したのか、その社会進化の過程を類推する上で、系統的には遠縁だが、社会の重層化の萌芽が見られるサル類の研究は重要である。本研究では、テングザルを対象として、本種の重層社会の解明に挑んだ。調査地は、マレーシア・サバ州のキナバタンガン川下流域である。本種は、夕方になると必ず川沿いの木々で寝泊まりする。この習性を利用して、1999〜2001年にかけて、識別をした単雄複雌群の泊まり場間の距離を直接観察により記録した。その後、2015〜2016年にかけて、川沿いで寝泊まりする単雄複雌群の糞を採取し、糞から抽出したDNAから血縁度推定などを実施した。先に行った行動観察から、テングザルは複数の単雄複雌群から形成される2つの異なるコミュニティー(バンド)が下流域と上流域に存在することが分かった。また、血縁度解析からは、メスはより遠くに分散する傾向があるのに対し、オスは比較的狭い範囲にとどまるような傾向が見られた。マントヒヒで報告されているような、父系的地域コミュニティーと類似の社会構造をテングザルも有している可能性を議論する。

  • 中川 尚史
    原稿種別: 口頭発表
    p. 33-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    アルディピテクス・ラミダスは、エチオピア・アラミスから発掘された440万年前の初期人類である。体重約50kg、身長約120cm、体と犬歯の性的二型は小さく、足に拇指対向性が認められたことから樹上性が強く、果実食傾向の強い雑食者であると推定されている。他方、その生息環境については、発見者らが古生物学的証拠をもとに森林に近い環境であると考えるのに対し、非発見者らは安定同位体等の証拠から川辺林とサバンナのモザイク環境だとし論争が続いている。本発表では、現生7属の霊長類において、群れとして生存できるか否かを推定する上でその有効性が立証されている「群れ生存の時間的制約モデル」をアルディピテクス・ラミダスに適用し、その生息地推定を試みることを目的とする。このモデルは、それぞれの場所で気温や降水量などの気象要因等によって決まる活動時間配分上の時間的制約があるとの発想に基づいているが、本発表では発見者らが生息環境に近いとする現在のケニア・キブヴェジ森林と非発見者らが近いとする現在のアラミス、それぞれの気象データ等を用いる。また、サバンナ性ではあるが四肢が短く樹上性が比較的強く、果実食性の強い雑食性であるなどの類似性から、サバンナモンキー属のモデル(Willems & Hill 2009)を、体重の違いを補正したうえで適用することとした。その結果、アルディピテクスの体重を50kgとした場合は、いずれの場所でも生存できないと推定された。しかし、体重が32.1~40kgであれば、キブヴェジ森林でのみ、最大65~72人の集団を形成して生息できると推定された。他方、アラミスでは乾燥に由来する植生密度の低いから、移動時間や採食時間が長く必要で、最低限必要な10%の休息時間を確保できないため生息できなかった。

  • 河村 正二, AKHTAR Muhammad S. , 新村 芳人, 東原 和成, MELIN Amanda D.
    原稿種別: 口頭発表
    p. 34-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    嗅覚受容体(OR)遺伝子群は、ヒトにおいて約400個ずつの無傷な遺伝子と欠損をもつ遺伝子から構成されている。しかし、多くのヒト集団においてOR遺伝子群の多様性はよく調べられていない。本研究では、アジア、ヨーロッパ、アフリカ系由来の計410人のゲノムDNA試料に対し、targeted captureと大規模並列短鎖解読型シーケンシングを行い、OR遺伝子群の多様性を中立ゲノム領域と比較した。Captureに用いたプローブは、ヒト参照ゲノムhg38中の398個の無傷なOR遺伝子、85箇所の単一コピーでタンパク質非コードゲノム領域、塩基配列から同定した4個の非命名OR遺伝子、99個の「ほぼ無傷な」OR遺伝子、そしてhg38になくチンパンジーゲノムデータベースPantro3.0にある53個のOR遺伝子に対して設計した。これらにより112個のOR遺伝子を無傷型と欠損型をアリル多型として持つsegregating pseudogeneとして新規に同定し、CNVを176個のOR遺伝子に同定した。塩基配列多型に基づく集団遺伝距離dAおよび主成分分析により、OR遺伝子群は中立対照よりも集団分化が大きいことを示した。Tajima’s D値はOR遺伝子群が中立対照より全体的に大きく、多くのOR遺伝子にアリル多型を維持する平衡選択が働いていることを示唆した。これらの結果はまた、多様性を考慮したプローブデザインが、OR遺伝子群の多型を明らかにする上で全ゲノムアプローチよりも効果的であることも示している。

  • 森本 直記, 川田 美風, 富澤 佑真, 兼子 明久, 西村 剛
    原稿種別: 口頭発表
    p. 35-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    分娩の要である骨盤は、ヒトでは難産を反映して形態の性差が最も大きい骨格部位である。ヒトでは骨盤形態の性差が、出産適齢期の近辺で拡大し、老年期にかけては逆に小さくなることから、骨盤の発生様式は分娩に適応しているという仮説が近年提唱された。しかしこの仮説が霊長類においてどの程度一般性をもつのかは不明である。マカクは、ヒトとは異なり基本的に閉経がない一方で、ヒトと同程度に児頭骨盤比が大きく、ヒトの比較対象として好適である。本研究では、飼育下にあるニホンザルの腰部をX線CT(コンピュータ断層)により撮像し、骨盤の三次元形態の成長変化を出生から最大18歳まで横断的にオスとメスとで比較した。この結果、概ね初産の年齢まではオスとメスとで類似の形態変化をたどるが、その後年齢とともに性差が拡大することが明らかになった。ニホンザルとヒトは性差の年齢変化のパターンそのものは異なるものの、骨盤の発生様式が分娩様式に対応するという点では共通する可能性が示唆された。

  • 海部 陽介, 矢野 航, 彦坂 信, 清水 大輔, 西村 剛, 久保 大輔, 森本 直記
    原稿種別: 口頭発表
    p. 36-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    ヒトの新生児はたいへん未熟な状態で生まれる一方,生後1年ほどの期間,胎児期のような速い脳成長を続けることが知られている。二次的就巣性あるいは生理的早産などと呼ばれるこの出生と成長の特質は,ヒト以外の真猿類にはみられない独特なもので,ヒトが脳を大きく成長させることができる根本的メカニズムの1つとなっている。しかしこの成長様式が人類進化のどの時点で獲得されたかは,現時点でよくわかっていない。これまで幼児頭骨や骨盤の化石を用いて,化石人類における新生児の脳成長パターンを復元する試みがなされてきたが,この手法では誤差が大きく説得力のある議論は難しい。そこで演者らは,より効果的な代替として,新生児の頭骨が未熟であることに起因する変形性斜頭(頭位性斜頭)に着目した新手法を以前に提示した。本発表ではこれを利用して,原人がヒト的成長パターンを獲得していたかどうかを検討した結果を報告する。

  • 五百部 裕, 坂巻 哲也
    原稿種別: 口頭発表
    p. 37-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    コンゴ民主共和国(旧ザイール共和国)ワンバでは、1973年以来、1990年代後半から2000年代初頭の内戦期を除き、継続して野生ボノボの調査が行われてきた。この継続調査の中で、近縁なチンパンジー同様、ボノボも狩猟・肉食行動を行うことが明らかになった。本発表では、ボノボの狩猟・肉食行動について、その頻度や狩猟対象に焦点を当て、ワンバと他のボノボ調査地を比較し、その特徴を抽出することを目的とした。今回の分析では、坂巻が、ワンバにおいてE1とPEの2グループを対象として2010年~2014年に行った調査期間中に収集した資料を中心に解析し、加えて、必要に応じてすでに論文等で公表された資料も利用した。その結果、ワンバにおけるボノボの狩猟・肉食行動について、以下のような点が明らかになった。1.糞分析によると、肉食された動物の骨や皮が含まれていた割合は、0~0.5%程度であった。2.坂巻の観察期間中に、E1グループでは4回、PEグループでは2回、肉食の事例が直接観察され、観察日数をもとに計算すると平均頻度は0.17回/月/グループということになった。3.著者らが直接観察した肉食対象は、ウロコオリス(Anomalurus sp.)のみであったが、日本人研究者の不在中に現地アシスタントがウォルフモンキー(Cercopithecus wolfi)の肉食を1例観察した。これらの結果を、ボノボの狩猟・肉食行動が観察されているロマコやルイコタル、イヨンジといった他の調査地で得られた結果と比較し、ボノボの狩猟・肉食行動の特徴を抽出した。また併せて、より頻繁に肉食が観察されているチンパンジーの特徴とも比較し、Pan属における狩猟・肉食行動の進化についても考察した。

  • 橋戸 南美, 土田 さやか, Diana A Ramirez SALDIVAR, GOOSSENS Benoit , 松田 一希, 牛田 一 ...
    原稿種別: 口頭発表
    p. 38-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    コロブス類は葉食に特化した食性を示し、反芻動物のような複数に分かれた胃をもつ。葉には二次代謝産物として、青酸配糖体やアルカロイドなどの毒性成分や難消化性成分が含まれる。コロブス類でも反芻動物のように複胃中の微生物がこれらの物質を分解することが示唆されているが、その分解機構や関与する菌種については不明である。我々は、コロブス類の前胃内細菌がもつ植物二次代謝産物の分解能を明らかにすることを目的として、テングザルの前胃内細菌の分離培養を試みた。これまでに飼育テングザルの前胃には、新種の乳酸菌(Lactobacillus nasalidis)が共生していることを発見している。そこで、野生テングザルの前胃内容物の凍結乾燥試料を用いて本乳酸菌種の分離培養を試みたところ、野生個体からも分離に成功した。つまり、この乳酸菌はテングザルに固有で、本種にとって重要な菌種だと考えられる。野生、飼育個体由来株の生理生化学性状を比較したところ、野生個体由来株では飼育個体由来株とは異なり、難消化性オリゴ糖ラフィノースに分解性を示し、塩耐性は低かった。また、青酸配糖体アミグダリン含有培地で48時間培養した後、培地中の総シアン量と遊離シアン量を測定したところ、飼育個体由来株は、野生個体由来株やウマ、ブタ由来乳酸菌に比べて遊離シアン量が多く、多くのアミグダリンが分解されていた。アミグダリンの分解には二経路あり、マンデル酸が産生された場合は毒性を示さないが、ベンズアルデヒドが産生された場合はシアン化水素を発生し毒性を示す。現在、液体クロマトグラフィー質量分析装置(LC-MS/MS)を用いた化学分析により、アミグダリンの分解経路の特定を試みている。これらの結果を踏まえて、テングザル固有乳酸菌のもつ機能について、生息環境や採食物がどのように影響するかを議論する。

  • 半谷 吾郎, 太田 民久, 栗原 洋介, 澤田 晶子, 白石 泉, 木下 こづえ
    原稿種別: 口頭発表
    p. 39-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    ミネラルは、生体内で様々な機能を果たす、生存に必須の微量栄養素である。本研究では、屋久島低地の野生ニホンザルの食物を、長年飼育ニホンザルで使用されてきた「理想的な」食物(固形飼料)、および飼育霊長類の食物の栄養学的基準(米国、National Research Council (NRC)基準)等と比較した。また、飼育ニホンザルが固形飼料を採食した場合のミネラル収支を明らかにするとともに、実験的にナトリウムを給餌した場合の生理的反応を調べることで、ミネラルの摂取量が十分量であるかについて考察した。これらの結果をもとにして、野生の霊長類のミネラル獲得戦略について、その基盤となる基礎資料を提供することが、本研究の目的である。海岸から800 m以内である屋久島低地では、動物質、キノコ、成熟葉のナトリウム含有量が高かった。成熟葉と動物質のカルシウム含有量もNRC基準を上回った。マグネシウムとカリウムについては、ほとんどすべての食物で、NRC基準を上回った。リンでは、すべての食物で、固形飼料やNRC基準を大きく下回っていた。ナトリウム給餌実験では、コントロール条件でも、塩化ナトリウム水溶液を自由に飲ませた条件のどちらでも、ナトリウム再吸収ホルモンであるアルドステロンの糞中の濃度は変わらなかった。固形飼料のナトリウム含有量は、NRC基準よりもやや低かったが、ナトリウム給餌実験の結果は、固形飼料のナトリウム含有量は、腎臓でのナトリウムの再吸収を必要としないくらいに、十分必要量を満たしていることを示唆する。ミネラルの収支パターンは、ナトリウムでは排出はほとんど尿により、見かけの消化率は非常に高い。カルシウム、マグネシウム、リンではこれと反対に、ほとんどの排出は糞により、見かけの消化率は低かった。カリウムでは中間的な傾向を示した。

  • 辻 大和, 石塚 真太郎, 海老原 寛, 立脇 隆文, 清野 紘典
    原稿種別: 口頭発表
    p. 41-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    ニホンザル (Macaca fuscata) は、わが国の森林生態系における主要な種子散布者のひとつだが、その分布域の広さにも関わらず、彼らの種子散布特性の地域変異に関する知見は得られていない。我々は、自らの野外調査と文献調査により13地域のサルの種子散布特性を収集して、1)糞からの種子の出現割合、2)出現した種子植物の種数、3)糞一個当たりの種子数、4)糞一個当たりの種多様度、5)種子の健全率を地域間で比較した。とくに、植生タイプ(落葉広葉樹林/常緑広葉樹林)と餌付けの程度(純野生/加害群/餌付け)の影響を評価した。全体で53科・147種の植物の種子を確認したが、5つ以上の調査地で共通して確認された樹種は10種で、とくにサルナシ属 (Actinidia sp.)、サクラ属 (Cerasus sp.)、イチゴ属 (Rubus sp.) は多くの地域で出現した。種子の出現率、糞一個あたりの種多様度は夏・秋に高かった。暖温帯地域で得られた種子は、冷温帯地域よりも高木類の割合が高く、また糞から種子が得られる期間が長かった。また、餌付けされた群れでは糞一個当たりの種多様度が低かった。これは、2つの森林タイプ間の植生や人為的な食物への依存性の違いに起因すると考えられた。いっぽう種子サイズ、糞当たりの種数、および種子の健全率は生息地全体で安定しており、これはサルが一度に処理する食物量の制限に起因すると考えられた。

  • 柏木 健司, 辻 大和, 高井 正成
    原稿種別: 口頭発表
    p. 42-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    富山県東部の黒部峡谷の鐘釣には複数の鍾乳洞が存在し、厳冬期に防寒のためにニホンザルが洞窟を利用する。筆者らは、二箇所の洞窟(サル穴,ホッタ洞)を対象に、自動撮影カメラによる行動観察、糞内容物の分析、および自動温度ロガーによる観測を実施し、洞窟利用を促す気象要素,洞窟への出入りを含む洞内での行動、および冬季食性についての検討を進めている。この発表では、黒部峡谷において例年以上の多雪であった2021年度冬季の洞窟利用について、気象要素との関係を中心に報告する。洞窟のある斜面に設置した温度ロガーによると、気温は2021年の11/22~11/24にかけて急激に低下し(11/24正午に0.3℃)、氷点下は11/29の0時に初めて記録された。11/29から翌年3/10にかけて、概略半数の観測値は氷点下を示した。カメラ記録によると、初雪(みぞれ)は11/27の夕刻(0.3~0.6℃)に、最初の積雪は12/17に確認できた。ホッタ洞の洞口に向けた洞外設置のカメラは、2022年の1/15から3月上旬にかけて多量の積雪に埋もれ、カメラ固定の金具枠は雪の重みで変形した。ニホンザルの洞窟利用は、ホッタ洞(2022年の5/25まで稼働)では11/27、12/27、12/28に記録できた。サル穴(洞内から洞口に向けたカメラで2022年の2/20まで稼働)では11/27、11/28、12/19、12/27、12/28、1/17、1/18、1/19、1/20、1/21、1/22、2/14に記録された。洞窟利用時の気温は1~-8.9℃で、昨冬季最初の利用が確認できた11/27と11/28は0.4~1.0℃であった。それ以降、洞窟利用時の気温は0.1℃以下を示し、その最低気温は11/27の0.4℃から12/28の-3.4℃、1/22の-8.9℃と低下傾向を示した。11月末の晩秋から初冬、そして厳冬期へと向かう12月から1月中下旬にかけて、寒さへの耐性を獲得していくなかで、利用時の最低気温が低下したと考えられる。また2022年6/11のデータ回収時、両洞窟の洞床には数百個にわたる糞塊がみられた。発表では、洞窟利用に際しての行動についても紹介する。

  • 矢野 航, 森田 航, 坂上 和弘, 島田 将喜
    原稿種別: 口頭発表
    p. 43-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    ヒトでは骨折からの治癒痕が頻繁に見られるが、野生動物で見つかることは少ない。野生個体にとって大腿骨などの近位骨格の骨折は、歩行困難をもたらす上、敗血症をもたらすため、致死的な損傷となり得る。今回、奥多摩地域で野生ニホンザルの左側大腿骨が複雑に変形している稀少例が見つかったため、その原因と治癒過程を法医学的に調査した。国立科学博物館所蔵のマイクロCT撮影により得られた内部構造3次元構築像をPC上で分解・再構築を行った上で、法医学的手法により骨折および治癒過程を分析した。その結果、同個体が深刻な骨幹剪断骨折を起こした後、大腿骨がねじれ位置まで変位した状態で再骨化していた上で、股関節も偽関節状態で生存していたことを明らかにした。野生個体での近位骨格骨折からの治癒過程は極めて稀である。考えられる骨折および自然治癒の過程を推測し報告する。

  • 松本 晶子, Suire Alexandre , Kunita Itsuki , Harel Roi , Crofoot Margaret
    原稿種別: 口頭発表
    p. 44-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    捕食は集団生活の進化を促進する大きな要因であると考えられている。個体が被る捕食リスクは一様ではなく、集団内の空間的な位置に依存する可能性がある。しかし、移動中の個体の観察が困難であることや、捕食者-被食者の行動に対する人間の影響等のため、どの分類群の動物でも野生状態での実証的なデータを収集することは困難だった。そこで、危険領域、捕食者検出距離、周辺にいる他者の数と方向、集団内での周辺/中心位置、二体間距離といった様々な尺度を用いた、個体の捕食に対する危険度を推定するプロキシが提案されてきた。本発表では、野生アヌビスヒヒの群れを対象に、GPS首輪により収集した個体の位置データを用いて、5つの捕食リスク推定プロキシを計算し、誰が最も捕食に脆弱な位置にいるのかを比較検討した。その結果、成体雄はより周辺に位置し、孤立しており、5つの指標は一致して彼らが最も高い捕食リスクにさらされていることを示した。各プロキシの概念的・方法論的な利点と欠点を捕食者選好との関連から議論する。

  • 郷 康広, 辰本 将司, 石川 裕恵, 臼井 千夏, 野口 京子, 大石 高生
    原稿種別: 口頭発表
    p. 45-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    「ヒトとは何か」という問いに答えるためには、ヒトだけを研究対象とするのではなく、ヒト以外の生物(アウトグループ)から見た視点も必要不可欠である。そこで、本研究では、ヒトをヒトたらしめている最も大きな特徴である脳の進化を「ヒトとは何か」という問いに迫る切り口とする。ヒトとヒトに最も近縁なチンパンジーを含めた類人猿を対象とし、ゲノムという設計図がそれぞれの脳という場においてどのように時空間的に制御され、種の固有性・特殊性となって現れるのか、それを1細胞が持つ分子情報を可能な限り網羅し比較解析することで、「ヒトとは何か」という問いを明らかにすることを目的とした。ヒト(2検体)、チンパンジー(1個体)、ゴリラ(1個体)の前頭前野から得られた約3万細胞のデータを解析した結果、ヒトを含め種特異的な細胞集団を見出しつつある。本発表では、それら種特異的な細胞集団の特性を明らかにしつつ、1細胞解析から見えてくる「ヒトらしさ」の脳神経基盤に関して考察を行う。

  • 松本 卓也
    原稿種別: 口頭発表
    p. 46-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    生物学用語における排泄(排出)とは、物質代謝に伴って生じた不要物を体外もしくは代謝系外に排除する現象を指す。本発表では、その中でも特に排便と排尿を合わせて排泄と表記する。現代日本社会のヒトは、特定の場所(便所、携帯便器など)で排泄することが求められる。そして、赤ちゃんがおしめを着けたままではなく特定の場所で排泄するようになる過程はトイレトレーニングと呼ばれ、発達上の重要性が指摘されている。

     一方、ヒト以外の霊長類の排泄は、時と場所にさほど気を遣わない、あるいはしたい時にする、野糞である、としばしば言及される。しかし、排泄物がヒト同様に忌避の対象となる霊長類種においては、排泄物が自分あるいは他個体に付着しないための、ゆるやかな規則が存在するかもしれない。上記の予想に基づいて、発表者は野生チンパンジーの排泄行動を観察・記録した。

     観察対象はタンザニア連合共和国・マハレ山塊国立公園に生息するチンパンジーである。発表者は2019年9月から2020年3月の期間に断続的に調査を行い、チンパンジーが排泄した際の他個体とのやりとり、前後の行動、および場所(倒木の上、岩の上など)を記録した。チンパンジーは地上と樹上の両方を利用する半樹上性の生物である。そのため、排泄個体と他個体の空間的配置も併せて記録した。本発表では、これらの観察結果の分析を基に、チンパンジーの排泄の特徴とその発達過程を描き出し、ヒトの排泄との相違について議論する。

  • 竹元 博幸, 和弥 戸田, 橋本 千絵, 古市 剛史
    原稿種別: 口頭発表
    p. 47-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    東アフリカ、カリンズ森林のオトナオスチンパンジーが、離乳していないメスのアカンボウを少なくとも6日間運び、世話をしていたことを報告する。当該オスのBR(推定40歳以上)がアカンボウ(♀推定1-1.5歳)を運んでいたのは2021年8月19日から24日で、それ以前の8月18日までと、以後の25日以降、アカンボウを運んでいなかったことを確認している。この期間、アカンボウは常に体をBRに密着させていて、いっときでもBRが離れると声を出し(Whimpering)、BRが手を差し伸べて抱きかかえていた。BRはアカンボウを運び、休息時は腹側に抱き、グルーミングをし、さらにアカンボウを観察者から保護する行動も見られた。アカンボウの母親とみられるメスは見当たらず、BRがアカンボウの父親である可能性も低く、オトナオスによる孤児の一時的な養子取りと考えられた。養子取りは、主に兄や姉などが世話をする血縁選択、メスの新生児への興味、またはオトナオスとコドモオスの互酬的利他行動に起因すると言われている。今回の観察は父親以外のオトナオスによるメスのアカンボウの世話と考えられ、いずれにも該当しない。また、未離乳孤児の世話は、生存期間が短いためか、あまり観察例がない。このメスのアカンボウも8月25日以降観察されていないので、衰弱してBRにしがみつけなくなったのだろう。オトナオスによるオス孤児の世話は将来のオス同士の連携によって利益を得られるから、という仮説が提唱されてはいるものの、西アフリカでは、オトナオスが養子にした孤児(ただしほぼ全てが2歳以上)の半数はメスであったらしい。実際は今回の観察のように、オスが孤児を世話するとき、その性別はあまり気にしないのではないだろうか。

  • 中道 正之, 山田 一憲
    原稿種別: 口頭発表
    p. 48-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    霊長類の母ザルは生後数カ月までの死んだ子を運搬することはよく知られているが、死亡した子をすべて運ぶわけではない。母ザルは子がいなくなったときどのような反応をするのか、さらに運んでいた子の死体を失くしたときどのような行動するのかは報告されていない。勝山ニホンザル餌付け集団での30年間の観察期間に、生後4カ月までの子を一時的に見失った母ザルの行動を3事例、死んだ子を1カ月運んでいた後に死体を失くした母ザルの行動1事例記録した。事例1では、山の中で子を見失った母が集団とともに餌場に入場し、餌場内で子を見失った方向の斜面を向いて繰り返しクギャー、ギャーなどの音声を出していた。集団がその斜面とは反対側の斜面を登って餌場を退場する際に、母ザルは集団の最後尾をときどき振り返って音声を出しながら斜面を登って行った。事例2では、早朝の移動時に子を見失った母ザルが餌場に入場してから餌場内で岩や構造物に上がってクギャーなどの鳴き声を発していた。地元民によって山道ではぐれた子ザルが回収され、餌場で放出すると母ザルが抱き、それ以降母ザルは鳴かなくなった。事例3でも、前日の餌場退場時に子ザルと離れた状態になった母ザルは、翌朝餌場に入場すると同時に鳴いていた。しかし、子ザルが餌場に現れると、母ザルが近づき、抱き、それ以降は鳴かなくなった。事例4では、死産か誕生直後に死亡した子ザルを30日間運んでいた母ザルがそのミイラ化した死体を失った。母ザルは餌場内を動き回り、木に登って下を見回すなどの探索行動をした。集団の退場時に、最後の1頭となり鳴いていた。これらの4事例から、ニホンザルの母ザルは子を見失なうと、子ザルの生死にかかわらず、24時間ほどの間は音声を伴う探索を行うと言える。同時に、子を発見できなくても移動する集団に追従したことから、ニホンザルのメスが集団と一緒にいることを強く求める存在であることもわかる。

  • 石塚 真太郎, 井上 英治
    原稿種別: 口頭発表
    p. 49-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    霊長類の父親による育児行動は、父子間の血縁関係が自明となるペア型集団の種や単雄複雌集団の種で見られることが多い。しかし近年、真猿類では複雄複雌集団の種であってもオスが実子を識別し、選択的な親和性を示すという報告が増えてきた。霊長類の父親による育児が血縁者識別の下で行われているか明らかにするためには、複雄複雌集団の種について父親の育児の有無の知見を増やす必要がある。本研究では複雄複雌集団を形成するニホンザルを対象とし、父子鑑定を行なった上でオスの未成熟個体に対する親和的行動について評価した。対象は香川県小豆島銚子渓に生息する餌付けニホンザルB群72頭とした。常染色体上マイクロサテライト16座位の遺伝子型に基づき、未成熟個体25頭の父性を調べた。また、父親になっていたオトナオス3頭を対象とし、2021年5月21日から8月3日の間に1セッション30分の個体追跡観察を行なった(12.6時間/個体)。追跡中は1分毎に近接個体(<2m)を記録するとともに、毛づくろいイベントの長さを秒単位で記録した。一般化線形モデルを用い、オスの未成熟個体への近接頻度や毛づくろいに費やす時間に影響する要因について検討した。父性はオスの未成熟個体への親和性に影響しておらず、オスは孤児に対して選択的に親和的であった。また、順位の高いオスほど未成熟のメスに対する親和性が高かった。本研究により、複雄複雌集団の霊長類では生物学的父親による育児が稀であるという証拠が増やされた。ニホンザルのオスによる未成熟個体への親和性は、母親による保護の有無や、将来的な交尾成功の可能性に基づいて規定されているのかもしれない。

  • 豊田 有, 丸橋 珠樹, MALAIVIJITNOND Suchinda, 松田 一希
    原稿種別: 口頭発表
    p. 50-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    発表者らがタイ王国で研究を続けている野生ベニガオザル集団では、オス複数頭が協力してメスを他の競合オスから防衛し、囲い込んだメスと交互に交尾をする連合形成のような繁殖戦略が見られる。母系社会を基盤とするマカク属においては、オスは性成熟に達する頃に出自集団から他集団へ移籍するため、集団内のオス間には血縁的関係がないことが一般的である。よって、ベニガオザルのオス間で観察される繁殖をめぐる連合形成は、非血縁個体間での協力行動と考えられる。本発表では、ベニガオザルのオス同士が協力する際の協力相手の選択基準を検討するため、オスの集団間の移籍傾向に着目した。調査地・対象は、タイ王国のカオクラプック・カオタオモー保護区に生息する野生のベニガオザル5集団である。私たちは、2015〜2019年の間に、少なくとも54例のオスの集団間移籍を観察した。この移籍記録を詳細に分析した結果、1)複数回移籍を繰り返すオスの存在、2)同時期に複数頭が連れ立って集団を移籍する同時移籍、3)同じ群れから先行して移籍していったオスがいる群れを移籍先に選ぶ並行移籍、が確認された。これらの移籍傾向によって、ベニガオザルの集団に所属するオス同士の間に、出身群が同じで、血縁的に近い関係にあるオスの組み合わせや、過去のある時期に同じ群れに所属していた顔見知り関係にあるオスの組み合わせが存在することが明らかになった。本研究により明らかとなったオスの移籍傾向を基に、ベニガオザルでみられるオス間関係の特殊性と、血縁関係にないオス同士による協力行動の発現機構を議論する。

  • 島田 将喜, 西倉 史花
    原稿種別: 口頭発表
    p. 52-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    ニホンザル(Macaca fuscata)は母系で凝集性の高い複雄複雌群を形成する。その社会構造はメスと少数の高順位オスによる中心部と、低順位オスが付置する周辺部からなる同心円二重構造としてモデル化されてきた。金華山に生息する6群のうちサイズが最大と推定されるD群は、島内の他群に比べ「集まりが悪い」可能性がある。本研究は①D群メスの凝集性をA群のそれと比較し、②D群内外のオスの他個体との関わり方を、C2群を対象とする先行研究の結果と比較することで、D群の「集まり方」の特徴を定量的に評価する。D群の調査は2021年6~12月、断続的に計41日間行い、D群内外のオス14、メス11個体を対象に個体追跡を行った。出席簿を用いてD群の各メスの出席率を算出し、出席率が比較的高い5個体について2個体間の共存率を算出した。A群で収集された同様のデータを用いてD群とA群メスの出席率、共存率を比較することで凝集性を評価した。D群内外で観察されたオスのうち十分なデータが得られた8個体について、両性との視界内出会い率、視界内個体数、近接割合を算出し、これらの変数を用いて主成分分析(PCA)・クラスター分析を用いて、オスをカテゴリー化した。D群オスと先行研究によるC2群オスのカテゴリーとを比較した。D群とA群メスの出席率には有意な差は見出されなかったが凝集性はD群メス間の方が低い傾向が見いだされた。D群内外のオスは群れオスと3つの異なる群れ外オスのクラスターに分類され、D群内外のオスのカテゴリーはより多様であることが示唆された。同じ島内に生息する同一個体群であっても群れによって凝集性が異なる可能性が示唆された。メスの低い凝集性とオスのカテゴリーの多様性との相互作用が集まり方の相違を生んでいる可能性がある。

  • 杉山 幸丸
    原稿種別: 口頭発表
    p. 53-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    周知のとおり現代の霊長類学はニホンザルの野外研究から始まった。それは1950年代から60年代にかけて動物研究と人類学・社会学・心理学・生物学とを繋げる橋渡しの役割を果たしてきた。1967年に霊長研ができ、異分野出身教員たちの集まりで時間がかかったが、やがて共同研究を通じて新しい異分野癒合の研究が始まった。野外のサルへのDNA分析の導入、認知科学の誕生、野外個体のホルモン分析、視覚・聴覚の脳研究等。いずれも厳密な条件統制を旨とする実験室研究が野外に進出することによって突出した研究分野の創生につながったのである。野外研究は常にそれら新研究の基盤の役割を果たしてきた。

ポスター発表
  • 河野 礼子, 片桐 千亜紀, 土肥 直美
    原稿種別: ポスター発表
    p. 54-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    石垣島・白保竿根田原洞穴遺跡では、2007 年の発見以来、更新世末の3 万年前ごろから近世にかけての文化層が確認され、計7 回の発掘調査でのべ74 m2 に及ぶ面積が発掘され、更新世末から完新世初頭の1100 点を超す人骨片が回収された。この中には「顔のわかる」保存のよい頭骨4 体分を含め、約20 個体分の骨が含まれていることが判明している。人骨の年代は、放射性炭素年代法によって、更新世末から完新世初頭を主体とすることが明らかになった。これらの人骨資料は世界的にも前例のない規模のものであり、更新世日本列島人の姿が今までにない精度で明らかになることが期待される。また、白保の洞窟が断続的に墓地として利用され、その葬法は琉球地方に近年まで受け継がれてきた「風葬」に類似するものであったこともわかってきた。今回の発表では、白保の人びとの形態学的特徴を明らかにする研究の一環として、歯牙資料について予報的に紹介する。発掘調査とその後の水洗作業によって遊離歯・植立歯合わせて200本を超える歯が回収されており、これらを歯種や形状、咬耗状態などから総合的に判断して4個体の頭骨分を含む27個体と、個体識別不可能分とに分けた。今回は主に更新世の層序出土資料について、齲蝕や咬耗の状態や、形成不全の見られる例などの観察所見を紹介するとともに、咬耗の軽微な資料についてスタンダードな歯冠径の計測を行った結果を報告する。特に咬耗状態については、頭骨のうち2個体について、上下歯の咬耗度がおおきく異なるなどの特殊な状況が認められた。また3根の小臼歯など原始的な特徴を有する個体も認められた。今後さらに分析を進めることで歯の特徴から白保人の姿を明らかにしていくことを目指す。

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