霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
セッションID: F2-9
会議情報

口頭発表
千葉県のニホンザル生息域におけるアカゲザルとの交雑地域の拡大
*川本 芳*川本 咲江*樋口 翔子*白井 啓*直井 洋司*萩原 光*白鳥 大祐*小原 収*丸橋 珠樹*羽山 伸一*落合 啓二*草刈 秀紀*浅田 正彦
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
(目的)房総半島南端に生息するアカゲザル交雑個体群から丘陵部ニホンザル個体群への交雑波及状況を調査すること,および交雑の判定基準を検討すること.
(方法)県の事前調査で交雑が疑われていた千葉県鋸南町に生息する本来はニホンザルの野生個体群(鋸南C群:サイズは約20)を捕獲し,形態観察と遺伝子分析により交雑状況を調査した.遺伝子分析では,千葉県が採用する方式(H20-M15DNA法)とは別に,ミトコンドリアDNA,Y染色体DNA,常染色体DNA,血液タンパク質,の各標識を複合判定する検査(京大霊長研方式)を試みた.
(結果)17個体につき結果を得た.外貌所見だけで交雑個体と断定できない個体がいた.遺伝子による交雑判定結果は方式により異なっていた.千葉県方式で2個体が,京大霊長研方式で 10個体が交雑と判定され,少なくとも群メンバーの約6割にアカゲザルの影響が認められた.交雑個体の遺伝子プロフィールから,調査群内の交雑には複数の交雑オスが関与すること,近年生まれた個体で交雑が増えていること,を認めた.
(考察)本研究結果はニホンザル野生群への外来種の影響を確認した初例である.形態調査は十分でないものの,外貌でニホンザルと区別しにくい交雑個体が認められたことから,今後の対策の基本方針や排除実施計画を見直す必要がある.交雑度の低い個体を確認するには遺伝子判定方式を改良する必要がある.ニホンザル個体群へのアカゲザル遺伝子の浸透は加速するおそれがあり,千葉県が公表した調査結果(2013)を考慮すると,交雑はすでに房総丘陵の多地域に拡大している可能性が高い.速やかに交雑個体の分布状況を把握し対策に反映させるとともに,外来生物が交雑することにより生じた生物も含めた改正外来生物法を受け,排除の必要性と実施可能性について議論を深めることが急務と考える.
著者関連情報
© 2013 日本霊長類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top