霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
セッションID: P-136
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ポスター発表
ヒグマ体毛を用いた遺伝子分析における雌雄判別エラーレートの評価
*近藤 麻実*釣賀 一二三*深澤 圭太*間野 勉
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抄録

 ヒグマの保護管理を推進する上で,生息密度のモニタリングは重要である.北海道では,保護管理計画が策定されている渡島半島地域においてヘア・トラップ調査による生息密度推定を試みている.しかし,この地域のオスの行動圏は 100km 2を超えることが過去の調査から明らかとなっており,複数のオスの行動圏を含む広大な面積を調査することは非常に困難である.したがって,比較的小さい行動圏(数十 km 2)で生活するメスに注目し,メスのみの生息密度を推定することとした.この観点から,体毛試料からの雌雄判別は非常に重要であるが,体毛に含まれる DNAはごく微量であるため,判別エラーが一定の確率で起こることが予想される.本研究では雌雄判別エラーレートを評価することを目的とした.2012年に,上ノ国町内の道有林に 51基のヘア・トラップを設置し調査を実施した.回収した体毛試料のうち毛根の確認された 538試料から DNAを抽出し,個体識別のためマイクロサテライト遺伝子 9座位を,雌雄判別のためアメロゲニン遺伝子を増幅しフラグメント解析を行った.今回確立したヒグマ個体識別のための分析フロー(釣賀ポスター発表)に従って個体識別を行った結果,60個体が識別された.このうち複数の試料が同一個体に集約されたものは 44個体であり,18個体がメス,21個体がオスと判定され,残りの 5個体については雌雄の判定結果が不一致であった.不一致である場合,オス多数の中にメス数試料である場合とメス多数の中にオス数試料である場合の 2パターンがあるが,今回不一致であった 5個体はすべて後者のパターンであった.複数の試料が同一個体に集約された 44個体について雌雄判別エラーレートを評価した結果,0.052%(CI: 0.005-0.512%)であった.分析フローに従い個体識別を行った場合,信頼性の低いデータは除去され,雌雄判別エラーによる生息密度推定への影響は非常に低く抑えることができると考えられた.

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© 2013 日本霊長類学会
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