霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
セッションID: FS-2
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自由集会
骨格筋研究の未来を語ろう
*小島 龍平*藤野 健*森 健人*後藤 遼佑*関谷 伸一
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抄録

 骨格筋はロコモーションの背景をなす解剖学的構造として,機能的要請を反映すると同時に様々な制約のもとに存在する.種々の動物種や筋群を対象として,あるいは手法を用いて骨格筋およびその関連構造を研究している研究者から以下の 5題の話題提供をしていただき,骨格筋研究の未来を含め自由で活発なディスカッションを展開したい.

[話題 1]イタチ科動物の後肢筋形態と水中ロコモーション特性(森 健人,東京大学)
 ニホンイタチ,チョウセンイタチ,アメリカミンク,ユーラシアカワウソ,ラッコといった半水棲,水棲イタチ科動物の後肢筋形態を比較し,遊泳ロコモーションの違いがどのような形態の違いとして現れるかを観察した.各筋の付着部位および筋線維の走行を観察,また筋重量,筋全長,筋束長の計測を行い,定性的,定量的に比較を行った.

[話題 2]モグラの土中適応と前肢帯(藤野 健,東京都老人研)
 モグラは巨大な手に加え,背側方に反転した上腕骨とそれにのみ関節する桿状の肩甲骨,短縮・扁圧した鎖骨などの高度に特殊化した前肢帯構造を持つ.上腕骨を長軸回りに反復回転し,直角に突き出た前腕+手で掘削並びに前進動作を強力に行う.パイプ(枝)の外面を伝う他動物と裏返しに,パイプ(隧道)の内面を伝う環境への適応と考えられる.特殊化に至る進化の道筋について,他の穴掘り動物との比較も交え考察を加えたい.

[話題 3]霊長類の足関節機構とロコモーション特性(後藤遼佑,大阪大学)
 力学的性質の異なる多様なロコモーション様式をもつ霊長類の体肢関節には機構的な多様性が存在すると考えられる.なかでも,常に支持基体と接触する足部の運動と関係する足関節は,移動様式の力学的性質を形態に反映する.ロコモーション様式を異にする霊長類の足関節機構に関する知見をもとに,系統関係を考慮しつつ霊長類の運動適応について考察する.

[話題 4]腓腹神経の比較解剖学(関谷伸一,新潟県立看護大学)
 ヒト腓腹神経は外側足背皮神経となり,さらに第 5趾外側縁を支配する足背趾神経となる.しかし希に,アキレス腱の前で脛骨神経から交通枝を受け,小趾外転筋や短小趾屈筋へ運動線維を与えることがある.このような交通枝や運動線維はヒトでは変異例としてしか認められないが,ラット,イヌ,あるいはニホンザルでは普通に見られる.これらのことから腓腹神経は単なる皮神経ではないことがうかがわれ,比較解剖学的に興味深い.

[話題 5]長期保存標本における筋線維タイプの判別(小島龍平,埼玉医科大学)
 免疫組織化学的手法を用いて 10年以上を経過したホルマリン固定・保存標本においても,骨格筋線維タイプの判別が可能である.このことは,希少種や,時間をかけて詳細な肉眼的解剖を行いながら筋線維タイプ構成を検索できる可能性を示す.手法を紹介し,方法の有用性を考察する.

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© 2013 日本霊長類学会
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