抄録
我々は,腹壁から下肢への移行領域に着目し,ヒト及びニホンザルにて腰神経叢と下部肋間神経の観察を行ってきた.その結果,下肢へ分布する神経(腰神経叢)の起始分節(構成分節)が尾側へずれる変異が存在すること,この変異にともない最下端の胴体(胸腹部)に特徴的な神経の起始分節も尾側へずれることが明らかになった.これらの変異に伴い最下端の肋骨の長さの延長や肋骨の数の増加(腰椎肋骨突起の肋骨化,腰肋)も観察している.しかし,これまでの観察では,腰神経叢よりも下位の脊髄神経(仙骨神経叢・尾骨神経叢)にどのような形態的特徴が出現するかは明らかにされていない.よって,今回,胴体(胸部)の延長に関連した,仙骨神経叢の形態的特徴を明らかにする目的で,ニホンザルの下部肋間神経から腰仙骨神経叢の観察を行った.
腰神経叢と仙骨神経叢の境界に位置する分岐神経を起始分節の高さから L5群,L5+L6群,L6群の 3群に分けることができた.分岐神経起始分節は,上方から L5群,L5+L6群,L6群の順で尾側へズレると言える.
坐骨神経の構成分節は,L5群で L5+L6+L7+S1,L5+L6群で L5+L6+L7+S1,L6群で L6+L7+S1+S2であった.陰部神経の構成分節は,L5群で S1+S2+S3,L5+L6群で S1+S2+S3,L6群で S2+S3であった .
胴体に特徴的な神経である肋間神経外側皮枝(RcL),前皮枝(Rcap)のうち最下端の RcL,Rcapの起始分節は L5群で L2,L5+L6群で L2+L3,L6群で L3であった.また,L6群においては第 1腰椎の肋骨突起が肋骨(腰肋)となっている例もあった.
以上より,胴体(胸部)に特徴的な神経である Rcap,Rclの起始分節の起始分節が尾側へずれると,分岐神経を中心とした下肢への神経も尾側へずれ,坐骨神経,陰部神経の構成分節も尾側へずれること言える.これらの変異には腰肋の形成(腰椎の胸椎化)を伴うことがあり,胴体の延長に関連した変異であると考えたい.本研究は,京都大学霊長類研究所共同利用研究として実施された.