抄録
テナガザルはペア社会を営むことから,これまで犬歯の大きさに性的二型がないと言われてきた.しかし犬歯形態の雌雄の違いについてはまだ明らかになっていない.今回はシロテテナガザル(Hylobates lar)の犬歯の表面レリーフを詳細に調査するとともに,シロテテナガザルの犬歯に性的二型がどの程度みられるかを調査した.資料:京都大学霊長類研究所ならびに日本モンキーセンターに所蔵されている雌雄がはっきり判っているシロテテナガザルの頭蓋骨と下顎骨(上顎:オス 4個体,メス 7個体,下顎:オス 5個体,メス 5個体)である.方法:頭蓋骨と下顎骨に植立している犬歯を付加型精密シリコーン印象材により印象採得し,硬石膏模型を作成した後,犬歯模型について写真撮影を行い,パソコンに画像を取り込んだ後,画像を印刷し,犬歯の形態をトレース用紙に点描した.歯の計測は模型上で 1/20mm副尺付ノギスで行い,上顎犬歯は歯冠近遠心径と歯冠頬舌径を,下顎犬歯は咬合面からみて概形の長径と短径(長径に直角)を計測した.また上下顎犬歯の歯冠高の計測は,尖頭がほとんどの個体で磨耗を被っているため,近心と遠心の切縁の延長線が交叉する点を本来の尖頭があった位置とみなし,その点から舌側面の歯頚線最深部までの投影距離を歯冠軸に平行に計測した.結果:シロテテナガザルの上顎犬歯の舌側面形態はオス・メスとも良く似ていた.類似点1)サーベル状の概形,2)歯頚部の近くに shoulderが存在,3)辺縁隆線はほとんどない,4)近心切縁溝と近心隆線が発達,5)歯頚隆線の発達は弱い,6)歯冠の遠心 2/3に深い窩を形成,7)歯頚線は水平的という特徴である.しかし相違点としてあげられるのは1)サイズ,2)隆線や溝の発達度合,3)歯冠の舌側への湾曲度合である.下顎犬歯もオス・メスはよく似ているが,相違点は1)サイズ,2)近心 shoulderの位置,3)歯頚隆線の発達,4)歯冠の舌側への湾曲度合である.