霊長類研究 Supplement
第31回日本霊長類学会大会
セッションID: A15
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口頭発表
DNA分析が明らかにしたゴリラ属の分散様式
井上 英治
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抄録

ヒトに近いアフリカ大型類人猿の社会の解明は、人類進化を考える上で重要である。複雄群を形成するチンパンジー属ではメスが分散しオスが群れに残る父系社会であることがわかっていたが、ゴリラ属では通常オスもメスも群れから移出するため、詳細な分散様式の把握には、遺伝解析が必要であった。本発表では、これまでのゴリラ属の分散様式に関する遺伝解析の論文をその方法論とともに概説する。ゴリラ属の中で、マウンテンゴリラ(Gorilla beringei beringei)は複雄群の割合が高く、一定の割合でオスが集団内に残ることが知られていた。マウンテンゴリラの2つの調査地において、常染色体上のマイクロサテライトを解析した結果、メスでは地理的距離が遠いほど遺伝的距離が遠いのに対し、オスでは地理的距離が遺伝的距離に影響を与えていないことが明らかになっている。また、ほとんどが単雄群であるニシローランドゴリラ(Gorilla gorilla gorilla)では、Y染色体とミトコンドリアのマーカーを調べ、オスの分散距離の方が長いことを示唆する結果や、Y染色体と常染色体上のマイクロサテライト領域を調べ、オスが生まれた集団の近くに留まっていないことを示唆する結果が得られている。以上の結果は、いずれも群れを出たオスが遠くへ分散するという傾向を示している。また、グラウアーゴリラ(Gorilla beringei graueri)においても、Y染色体上のマイクロサテライトの分析から、同様の傾向が示唆されている。一部の研究では、異なる傾向も報告されているが、いずれも解析上の問題を含んでいるので、群れを出たオスの分散距離が長いという傾向は、ゴリラ属の一般的な特徴ではないかと考えられる。一方で、マウンテンゴリラでは群れに残るオスがいるという事実もあることから、分散距離と出自集団からの分散を分けて考えることがゴリラの社会を考える上で重要ではないかと考えられる。

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© 2015 日本霊長類学会
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