霊長類研究 Supplement
第31回日本霊長類学会大会
セッションID: B24
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口頭発表
ヒト、チンパンジー、コモンマーモセットにおける脳梁発達の比較研究:ヒト特異的な脳構造の発達機構の解明に向けて
酒井 朋子三上 章允小牧 裕司畑 純一松井 三枝岡原 純子岡原 則夫井上 貴司佐々木 えりか濱田 穣鈴木 樹理宮部 貴子松沢 哲郎岡野 栄之
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抄録

ヒト特異的な脳構造の進化・発達機構を解明することは、ヒト固有の認知機能や運動機能の理解だけでなく、広汎性発達障害、アルツハイマー病などの精神・神経疾患の病態を解明するうえでも欠かせない。今回本研究では脳梁に着目した。脳梁は左右の大脳半球を結ぶ交連線維の太い束であり、体性感覚野、視覚野、聴覚野や運動野などの感覚を司る脳領域での大脳半球間の情報を統合する役割を果たす。これまでのヒトを対象とした研究では、脳梁の正中矢状面サイズは、脳発達、左右脳における機能および神経連結、疾患病態の評価における生物学的指標として用いられてきた。しかしながら、ヒトと近縁な現生種である霊長類の脳梁サイズの発達については不明のままである。よって、本研究では、磁気共鳴画像(MRI)法により収集されたチンパンジーおよびマーモセットの3次元脳解剖画像を基に脳梁正中矢状面サイズの発達様式を分析し、ヒトのそれと比較することで、ヒト固有の脳梁の発達機構を解明することを目指した。画像分析において、チンパンジーでは生後6ヶ月~6歳(乳児期~子ども期)の脳MRIを、マーモセットでは生後1ヶ月~4歳(乳児期~成体期)の脳MRI画像を基に、コンピュータ上で脳梁の正中矢状面を抽出した。その後、抽出した正中矢状面を均等に7つの部位に分割し、それぞれを脳梁吻、脳梁膝、脳梁吻体部、脳梁中前方部、脳梁中後方部、脳梁峡部、脳梁膨大部とした。そのうえで、各部位のサイズの発達変化を調べ*、先行研究のヒトのデータと比較した。この結果、脳梁サイズの発達における霊長類共通の特徴、母親以外の社会成員も子育てを行うマーモセットとヒトの特徴、チンパンジーとヒトの特徴、ヒト固有の特徴を明らかにした。これらの知見は、ヒト特異的な脳構造の進化・発達機構の解明に貢献するだけでなく、精神・神経疾患の前臨床研究に向けての科学的指針として展開することが可能である。

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© 2015 日本霊長類学会
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