霊長類研究 Supplement
第31回日本霊長類学会大会
セッションID: P17
会議情報

ポスター発表
ニホンザルのアニマシー知覚と運動刺激に誘導される自発的トラッキング反応
渥美 剛史正高 信男
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

われわれは幾何学図形など、非生物のうごきからも追いかけっこや喧嘩など社会的な意図や目的を知覚する(アニマシー知覚)。運動に基づく社会的認知の進化的起源を解明するうえでヒトとヒト以外の霊長類を比することは重要であるが、非ヒト種を対象とした研究はごくわずかである。特に非ヒト種は、運動の物理特性のみに基づいて知覚している可能性があり、詳細な分析が必要である。本研究ではニホンザル(Macaca fuscata)を対象に、アニマシー知覚を生じる運動の典型例である「追跡」の知覚と刺激に対する運動反応を分析した。実験では2つの幾何学的な円形物体が逃避‐追跡を表す「追跡」と「ランダム」な運動の弁別を訓練した。訓練完成後の2つのテストでは、サルが物体間に生じる高い軌跡の類似性と近接性にしたがって弁別するかを検討した。前者のテストでは、訓練の運動2種のほか、「追跡」における2物体の軌跡の相関を『類似度』として系統的に操作した運動種を導入し、学習の般化を確認した。また後者では、「追跡」における物体間の距離と同等な「ランダム」運動様の統制刺激を同様に導入し、テストした。前者のテストの結果、物体間の軌跡の類似度と反応率との間に正の相関がみられ、もっとも高い類似度の場合に反応率が低下した。また後者の結果、「追跡」‐統制刺激間で異なる反応傾向がみられた。サルは運動の物理特性のみを知覚しているわけではなく、ヒトと同様に物体の目的(逃亡者)を推定していることが示唆された。さらに訓練の過程において、運動物体を指先で追従するという自発的なトラッキング反応を獲得した個体がみられた。ヒトにおいては、追跡運動に対して注意が捕捉され、こうした運動種はそれに対する観察者自身の運動反応を変質させることが知られている。サルの反応は、ヒトでみられるような特定の運動種への反応に関わる認知機構を反映していると推測される。

著者関連情報
© 2015 日本霊長類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top