霊長類研究 Supplement
第31回日本霊長類学会大会
セッションID: P27
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ポスター発表
動物園来園者の存在がジェフロイクモザルの行動および空間利用に与える影響
棚田 晃成藤田 志歩峯下 和久
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抄録

動物園動物において来園者の存在はストレス関連行動や異常行動の増加など負の影響を与えると報告されているが、動物に対する観客の影響を考慮した環境エンリッチメントの取り組みはほとんど行われていない。本研究は、ジェフロイクモザルを対象に、観客の存在が動物に与える影響を明らかにするため、個体の活動時間配分、展示場内の空間利用割合およびストレス指標行動であるセルフスクラッチ頻度と展示場前の観客数との関連について調べた。さらに、観客の視線を遮ることによって動物の反応がどのように変化するかを調べるため、展示場内に動物が身を隠すことが出来る構造物を4段階の条件で導入し、その効果について調べた。行動観察は野外展示場において行い、アダルトオス3頭およびアダルトメス2頭を対象に2時間を1セッションとするグループ観察を行った。セッションあたりの展示場前の平均観客数を0.5人以下の時と1.5人より多い時に分け、観客数と条件による動物の行動および空間利用の違いについて検討した。その結果、活動時間配分のうちの移動時間割合は、観客数が多いときの方が大きく(P<0.05)、また、条件によって変化した(P<0.05)。セルフスクラッチ頻度は、条件に関わらず、観客数が多いときの方が高かった(P<0.05)。ケージ正面からの距離は条件によって観客数の影響が異なり、構造物を導入した条件では、観客数が多いときの方がケージ正面により近い場所を利用した(P<0.05)。ケージ内での高さは、条件に関わらず、観客数が多い時の方がより高い場所を利用した(P<0.05)。以上のことから、観客の存在によってクモザルの行動および空間利用が変化することが分かった。観客の存在はクモザルにとってストレス要因となり得るが、一方で、興味や関心から観客に近づき、また、見下ろすことで安心感を得ているのではないかと考えられた。今回試みたエンリッチメントについては期待した効果は得られなかった。

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© 2015 日本霊長類学会
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