霊長類研究 Supplement
第31回日本霊長類学会大会
セッションID: P30
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ポスター発表
マハレに生息する野生チンパンジーの耳と指の傷跡の傾向
座馬 耕一郎
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抄録

50年に渡って長期調査が行われているタンザニア、マハレの野生チンパンジーの中には、M集団の名前の由来となったオトナオス個体「ミミキレ」の名があらわすように、耳に傷跡の残る個体が観察されている。本発表では耳の傷跡や指の後天的欠損の状況について報告し、傷を負う年齢の傾向について考察する。調査は2013年11-12月に行い、マハレ山塊国立公園に生息するチンパンジーM集団61頭を対象に、両耳の傷跡と指の欠損について調べた。2013年の調査では、耳の傷跡や指の欠損はアカンボウ期やコドモ期の個体には見られず、ワカモノ期やオトナ期の個体でのみ観察された。ワカモノ期以上の雌雄を比較したところ、耳に傷跡を持つ個体の割合に差はなかったが(メス:82%、N = 28;オス:80%、N = 15)、1個体が持つ傷跡の数は、メスでは高年齢個体ほど傷跡が多く見られたのに対し、オスではワカモノ期からオトナ期まで傷跡の数はほぼ同じだった。指の欠損個体の割合は、メス(11%、N = 28)よりもオス(33%、N = 15)で高く、また指の欠損は、メスではオトナ期の個体でのみ見られたのに対し、オスではワカモノ期の個体でも見られた。傷跡は消えにくく蓄積されるものであることを踏まえると、これらの結果は、オスではワカモノ期でとくに傷を作る機会が多く、メスではワカモノ期だけでなくオトナ期も継続して傷を作る機会があることを示唆する。耳の傷跡や指の欠損の原因としては、同種個体による攻撃や、ヒョウなどの捕食者による攻撃、アカコロブスなどの被食者による反撃、植物のトゲによる裂傷などが考えられる。また2014年に行った調査では、化膿による耳の変形がアカンボウ期の個体で認められた。傷跡の形状からその原因を特定することができれば、雌雄差が生じる理由や、個体の傷跡の経歴など、より詳細に理解することができるだろう。

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© 2015 日本霊長類学会
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