霊長類研究 Supplement
第31回日本霊長類学会大会
セッションID: P34
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ポスター発表
大型類人猿4種とヒトの対象操作からみた認知発達
林 美里竹下 秀子
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抄録

ヒトを含む霊長類は、手で物を把握して巧緻な対象操作をおこなう。大型類人猿4種とヒト幼児において、対象操作を共通の比較尺度として用い、認知発達過程を調べた。ヒト以外の動物では、チンパンジーがもっとも多様な道具使用をおこなう。道具使用は対象操作(とくに複数の物を関連づけて操作する「定位操作」)を前提として出現する。本研究では、積木をつむ、入れ子のカップをかさねる、という定位操作を、認知発達の非言語的指標として用いた。ヒト幼児20名、チンパンジー3個体、ボノボ2個体、ゴリラ3個体、オランウータン4個体を対象に、個別の対面場面もしくは集団場面で行動観察をおこなった。ヒトとチンパンジーでは、乳児期からの長期縦断研究としておこなった。5センチ角の立方体積木、直径5センチの円柱形積木、および直径の異なる円形のカップを用いた課題を実施した。立方体の積木をつむ行動がはじめて観察されたのは、ヒトで9か月、チンパンジーで2歳7か月、ボノボで4歳9か月、ゴリラで2歳6か月、オランウータンで2歳9か月だった。入れ子のカップをはじめてかさねたのは、ヒトで9か月、チンパンジーで1歳5か月、ボノボで3歳8か月、ゴリラで3歳7か月、オランウータンで2歳9か月だった。ヒトでは2種類の定位操作がどちらも1歳前から観察されたが、チンパンジーでは積木をつむ定位操作の出現が遅かった。細かい動作をみると、ヒトとゴリラのみが、両手にもった積木を打ち合わせる操作をおこなった。獲得時期に差はあるが、定位操作が全種で観察されたことから、ヒト科全体に共通する認知発達過程の存在が示唆された。一方、道具使用はとくに野生でその豊富さが種ごとに大きく異なる。このことから、道具使用行動の発現には定位操作の有無だけでなく、野生での環境や母子関係を含む社会構造など他の要因も影響している可能性が示された。

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© 2015 日本霊長類学会
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