霊長類研究 Supplement
第32回日本霊長類学会大会
セッションID: A01
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口頭発表
アビシニアコロブス新生児に対するオトナ個体の養育行動の変化
奥村 太基菊田 恭介根本 慧坂口 慎吾廣川 類綿貫 宏史朗打越 万喜子松田 一希伊谷 原一
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抄録

コロブス類では、母親以外のメス個体が赤ん坊の世話をする、「アロマザリング」と呼ばれる行動が頻繁に見られることが知られている。本行動には、群れ内のメスの出産経験の有無、メス間の血縁度に加え、アカンボウの年齢が影響しているといわれている。アビシニアコロブスの新生児の毛色は純白で、成長とともにオトナ同様に毛色が黒みがかっていく。本発表では、日本モンキーセンターのアビシニアコロブス新生児(2015年7月12日出生)の観察をとおし、本種のアロマザリング行動のパタンが、新生児の成長にともなう毛色の変化とともに、どのように変わっていくのかを報告する。新生児の行動観察は、2015年7月から2016年1月の延べ40時間(合計64日、10~100分/日)おこなった。新生児の行動は、連続記録の個体追跡法で記録し、同時に毛色の変化を定量化するため定期的に新生児の写真を撮影した。行動観察の結果、観察期間終盤には、新生児の毛色はオトナ個体とほぼ同様な程度にまで黒みがかり、単独での行動頻度も増加した。母親が新生児を抱く頻度は、新生児の成長(毛色の変化)と顕著な関係性は見られなかった。一方で、アロマザリングの頻度は新生児の成長過程、特に毛色の変化にともなって大きな変化が見られた。つまり、新生児の毛色がオトナの毛色に近づくにつれ、母親以外のメス個体が新生児を世話する頻度が減少していった。本結果は、アビシニアコロブスにおける新生児の特殊な毛色が、母親以外の個体からの注目を集め、新生児への世話行動を促すシグナルになっている可能性を示唆している。

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© 2016 日本霊長類学会
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