社会組織が入れ子状の重層構造を成すのは、人間社会の卓越した特徴の一つである。他の霊長類で重層的な社会は、ヒヒ類の一部とアジアのコロブス類の一部で知られる。それらの形成には複雄複雌集団にOMU(one-male unit)が生じた過程と、複数のOMUが集合した過程が想定され、選択圧としては食物パッチの分散、捕食圧、同種のハナレオスの脅威が考えられる。多くの霊長類で集団間関係が拮抗的な中で、ヒトに近縁なパン属のボノボでは、ときに異なる集団同士が出会い融合することが見られる。このようなボノボ社会では、単位集団と呼ぶ社会組織の輪郭はどのように保障されるのか。また、複数集団を包括する上部構造を措定するには、集団間関係にどのような条件が必要と考えられるのか。本研究では、コンゴ民主共和国にある調査地ワンバのボノボ集団の分布を報告する。1970年代から同定されているE1集団と2010年に集中調査を再開したPE集団は、全個体が識別され、ベッドからベッドまでの終日追跡を継続している。PE集団の西に隣接するPW集団は、時々の調査とPE集団と出会った時の観察を繰り返す中で人づけが進み、全個体が識別された。その西に隣接する集団も時々の調査を繰り返し、2015年には集団の輪郭がだいぶ明らかとなり、BI集団と名づけた。これらの集団のサイズ、遊動域、社会性比について報告する。集団内で見られる安定したサブグループ、集団間の出会い頻度、集団間の個体の移籍についても結果を提示する。集団の輪郭を見定めるには、メンバーシップの安定性がほぼ唯一の重要な点であった。複数の集団を自由に行き来するのは集団間を移籍する若いメスだけであり、集団に所属しないハナレ個体は認められなかった。これまでに、集団を超えた協力を示唆する観察事例が得られている。