霊長類研究 Supplement
第32回日本霊長類学会大会
セッションID: B07
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口頭発表
インドネシア・パンガンダランのカニクイザルの色環境
三上 章允今井 啓雄辻 大和西 栄美子早川 卓志Kanthi Arum WIDAYATIBambang SURYOBROTO
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抄録

狭鼻猿類はヒトと同様、網膜視細胞に3種類の錐体視物質を持つ3色型色覚である。ヒトでは3種類の視物質のうち長波長(赤)、および、中波長(緑)の遺伝子はX染色体上にタンデムに並んでいる。また、アミノ酸配列も長波長と中波長の視物質は96%相同である。そのため、どちらかが容易に欠損し、2色型色覚の男性は5-8%に達している。一方、ヒト以外のアジア・アフリカの霊長類では2色型は1998年まで見つかっていなかった。その理由として2色型は自然環境では生息が困難であると説明されてきた。しかし、われわれはインドネシアのパンガンダラン地区において、1998年に色盲のカニクイザル個体を発見した。2色型個体が自然環境で生息困難であるかどうかを確認するため、2011年から2015年にかけて、かって2色型個体が生息していたパンガンダラン地区において、カニクイザルが餌としている食べ物を調べた。また、彼らが餌とする植物を採取し、その分光分析を行うことにより餌となる直物の色環境を調査した。その結果、カニクイザルは植物の果実や若葉以外に、草の根や茎、蟹、魚など多様な餌を食料としていること、また、餌となる果物や若葉の大部分は、2色型個体が識別困難な色味の違いの手掛かりがなくても、明るさの違いや識別可能な色味の違い、表面性状の違いなどがあり、2色型個体にとって特に識別困難な条件はほとんど存在せず、2色型であることで生存が困難になる環境ではないことが示された。

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© 2016 日本霊長類学会
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