霊長類研究 Supplement
第32回日本霊長類学会大会
セッションID: B13
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口頭発表
野生ボノボと野生チンパンジーにおけるメスの性ホルモン動態について
橋本 千絵リュ フンジン毛利 恵子清水 慶子古市 剛史
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抄録

ヒトでは、妊娠しても流産する割合が10%を超えるといわれている。ヒトに最も系統的に近いチンパンジー・ボノボでは、1回出産するために何回も発情周期を繰り返し、何百回も交尾を行うことが報告されているが、どうしてなかなか妊娠・出産に至らないのか、といったことについては詳しく研究されてこなかった。何らかの原因でなかなか妊娠に至らないのか、あるいは妊娠しても高い確率で流産しているのか。特に流産の多くを占めると思われる初期の流産に関しては直接観察が難しく、詳しい研究はされてこなかった。私たちは、野生ボノボとチンパンジーにおける排卵や流産について調べるために、糞や尿など用いた非侵襲的試料を使って、性ホルモン動態をモニタリングした。ボノボに関しては、コンゴ民主共和国ワンバ地区E1集団のボノボを対象に尿試料を採集した。チンパンジーに関しては、ウガンダ共和国カリンズ森林M集団のチンパンジーを対象に、尿試料と糞試料を採集した。私たちは、E1CL(エストロゲン代謝物)、PdG(黄体ホルモン代謝物)の測定を行い、直接観察によって得られた、性皮の腫脹、交尾の有無についてのデータと併せて分析した。予備的な分析の結果では、若い未経産のチンパンジーで初期の流産が見られ、流産の後すぐ発情し、再び妊娠していた。これまでの研究では、若いメスが発情を繰り返すもなかなか出産しない「青年期不妊」という現象が報告されていたが、本研究の結果から、若いメスは妊娠しないのではなく、流産しやすいのではないかということが示唆された。また、若いチンパンジーのメス以外にも、チンパンジー・ボノボにおいて、流産と考えられる例が観察された。本研究により、ボノボ、チンパンジーでも、ヒトと同じように流産が頻繁に起き、それが見かけの「妊娠しにくさ」につながっている可能性があることが示された。

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© 2016 日本霊長類学会
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