【目的】類人猿の体幹姿勢制御機序を明らかにする目的で,シロテテナガザルの二足歩行,垂直登攀,ブラキエーション時の体幹筋活動を比較分析し,共通点と相違点を検証した。【方法】シロテテナガザル1体(21歳,メス,体重6 kg)を被験体とした。脊柱起立筋および腹直筋に表面電極を貼付し,無線式筋電計(BioLog,S&ME)によって,二足歩行,垂直登攀,ブラキエーション時の筋電図を計測した。運動周期ごとに,ローパスフィルタ(遮断周波数:3Hz)で平滑化した。二足歩行時,垂直登攀時,ブラキエーション時(各20試行)の平均波形を得て,ロコモーション様式間で比較した。【結果】脊柱起立筋は,いずれのロコモーションにおいても相動的に活動し,サポート期とスイング期に1回ずつピークをなした。これらの活動期は,支持基体に足または手が着地した後であった。ブラキエーション時の筋活動は瞬発的に生じる傾向があり,他のロコモーション時と異なった。腹直筋は,二足歩行時には持続的に活動したが,垂直登攀時とブラキエーション時には,脊柱起立筋と逆相をなすタイミングで相動的に活動していた。【考察】シロテテナガザルの脊柱起立筋は,いずれのロコモーションでも相動的に活動し,体幹安定に関与すると考えられた。ただし,ブラキエーション時の脊柱起立筋は瞬発的に活動する傾向があり,他のロコモーション時とは異なっていた。腹直筋は,運動域の大きい股関節屈曲を伴う木登りとブラキエーションにおいては体幹固定筋として働き,脊柱起立筋と拮抗するかたちで活動したと考えられた。これらのことから,シロテテナガザルのロコモーション時の体幹筋には,体幹を安定させるため相動的に動員される基本パターンが存在し,ロコモーション様式ごとに若干修正されるということが示唆される。