霊長類研究 Supplement
第33回日本霊長類学会大会
セッションID: B03
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口頭発表
ワンバのボノボにおけるオスの繁殖成功,および隣接複数集団の血縁構造
*石塚 真太郎川本 芳坂巻 哲也徳山 奈帆子戸田 和弥岡村 弘樹古市 剛史
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抄録

霊長類の社会を理解する上で,親和的交渉の説明に用いられる個体間の血縁関係,およびそれらに影響を及ぼす繁殖システムを評価することは欠かせない。ボノボの社会では,オス間の熾烈な繁殖競合が見られず,集団間関係が比較的親和的である。これらは霊長類の中で特異的であるため,オスの繁殖成功の評価や,隣接集団の個体間の血縁関係の評価は必要であると言える。そこで本研究では,父子判定によってボノボのオスの繁殖成功を評価すること,集団内と隣接集団の個体間の血縁の濃さを比較することを目的とした。対象はコンゴ民主共和国・ワンバ村周辺に生息し,全個体が識別されている野生ボノボ隣接3集団とした。オスの順位は攻撃交渉に基づいて区分した。全成熟個体を含む合計70個体について,常染色体上STR8座位の遺伝子型を決定した。父子判定は父親由来のアリルを持たない父親候補オスの父権を否定した後,否定されないオスの信頼レベルを対数尤度から求め,決定した。個体間の血縁度は集団の遺伝子頻度,およびアリル共有に基づいて推定した。父子判定の結果,第一位のオスが少なくとも半分の子を残していることがわかった。血縁度推定の結果,集団内のオス間の平均血縁度は隣接集団のそれよりも有意に高かった。一方でメス間の平均血縁度は,集団内と隣接集団の間で有意な差が見られなかった。ボノボでも第一位オスが多くの子を残すことは他種と共通しており,順位の決まり方こそが他種と異なると考えられる。集団内のオス間で密な血縁は,オスが生涯出自集団に留まること,同一のオスが多くの子を残すことに起因していると考えられる。集団内と隣接集団のメス間の血縁に差がないことは,メスが得られる包括適応度が,集団内のメスとの親和的交渉と隣接集団のメスとのそれの間で差がないことを示唆している。これらが親和的な集団間関係の形成に寄与していると考えられる。

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© 2017 日本霊長類学会
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