【背景と目的】踵骨は化石霊長類の研究においてもよく使用されているが,現生動物における踵骨サイズの種内変異の研究はまだ多くないので,化石動物の踵骨の変異を考察するときの基準にやや乏しかった。ここでは現生霊長類の踵骨サイズの種内変異を解明するために,例としてニホンザルの成獣個体を対象に,踵骨サイズの変異および踵骨サイズと臼歯サイズ・体重との関係を調べた。【資料と方法】ニホンザルの成獣の骨標本229個体。踵骨および下顎第一臼歯(m1)を計測。踵骨の計測は12箇所,m計測は2箇所。【結果と考察】踵骨サイズの変動係数は,4.8~10.2だった。これらの変動係数は,距骨サイズのそれらと比べるとより大きい。これは,踵骨サイズが距骨サイズよりも変異が大きいという可能性を示す一方で,実際にノギスを使う時の測定誤差が,踵骨の場合の方が大きくなるという可能性も指摘できる。t検定の結果,踵骨サイズに雌雄差が認められた(p < 0.001)。主成分分析の結果,PC1の寄与率が約70%,雌雄差はほぼPC1(大きさ)の違いのみであった。また,雌雄をまとめた踵骨サイズの分布は二峰性にはならなかった。したがって,同一化石産地で同じ形の成獣の踵骨化石サイズの分布が,明らかな二峰性になった場合は,雌雄差ではなく種間差である可能性が高い。踵骨サイズと体重との相関はあまりなかった(r = -0.10~0.54)。m1サイズと体重との関係および踵骨サイズとm1サイズとの関係も同様であった。これは,「ニホンザルの成獣の踵骨標本が複数個体分ある場合に,そのサイズの違いからその個体間の体重の違いを推定することは難しい」ということを示唆している。