霊長類研究 Supplement
第76回日本人類学会大会・第38回日本霊長類学会大会連合大会
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口頭発表
淡路島ニホンザル集団における個体の社会性と認知能力の関連性の検証
貝ヶ石 優山本 真也
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p. 20-

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抄録

社会的知性仮説では、複雑な社会的環境がより高度な知性の進化を促すことを予測する。先行研究では、社会的知性仮説に関する検証は、多くの場合集団サイズや社会構造の異なる種間の比較によってなされてきた。しかし、個体が経験する社会的環境は、異なる種間のみならず、同一集団内で暮らす個体同士であっても異なる。本研究では、淡路島に生息する餌付けニホンザル集団を対象に、各個体の社会性と認知能力との関連について検証を行った。社会性の指標として、2017年6月から2020年3月に収集した成体196頭間の毛づくろいデータをもとに、毛づくろいネットワークを作成し、個体ごとにネットワーク上の中心性を算出した。本研究で用いた中心性指標は、次数 (個体の持つ毛づくろいパートナーの数)、重み付き次数 (個体が関わった毛づくろいバウト数)、固有ベクトル中心性 (ネットワーク上の個体の影響力)、および媒介中心性 (ネットワークの繋がりを保つうえでの個体の重要性) であった。認知能力の指標として、自己抑制能力、物理的認知能力、社会的認知能力のそれぞれに関わる複数の課題を実施し、それぞれのネットワーク中心性との関連を検証した。本研究で用いた課題のうち、自己抑制能力に関わるcylinder課題について、中心性との関連が示唆された。他方、物理的および社会的認知能力に関わる課題については、いずれも中心性との関連は見られないか、弱い関連性が示唆された。以上の結果は、認知能力の名中でも特に自己抑制能力が社会性に大きく関わっていることを示唆している。自己抑制は、状況に応じて行動を柔軟に調整することに関わる能力と考えられている。そのため複雑な社会的環境の中でより中心的な位置を占めることは、個体に高い自己抑制能力を求めるのかもしれない。

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© 2022 日本霊長類学会
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