霊長類研究 Supplement
第41回日本霊長類学会大会
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口頭発表
映像解析を通した上高地ニホンザルにおける水生昆虫食行動の発達研究
長原 衣麻竹中 將起林 浩介松本 卓也
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会議録・要旨集 オープンアクセス

p. 71

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抄録
「取り出し採食(Extractive foraging)」は霊長類にとって多様な食物の獲得手段として重要な一方,複雑な操作を要するため発達段階によって生起頻度や操作方法が異なる。そのため,取り出し採食の詳細を明らかにすることは,その種の発達段階に応じた採食戦略の解明につながる。本研究は,取り出し採食の1つとして近年報告された上高地のニホンザル集団における水生昆虫食を対象とする。植物性資源が非常に少ない厳冬期における水生昆虫食行動の詳細と発達変化の解明および,操作の発達が水生昆虫食の効率に与える影響の評価が目的である。2022・2023年1~3月に撮影した高解像度の映像を解析し,ニホンザル個体の採食間隔(昆虫を口に入れた時間間隔)・昆虫を口に入れる際に用いる方法(「指でつまむ」「手ですくう」「直接口で食べる」「吸い出す」に分類)・採食中の石めくり(石をひっくり返す行動)の達成可否・採食中の後脚の浸水の有無について分析した。その結果,アカンボウの水生昆虫食の特徴として,①採食間隔が有意に長いこと,②昆虫を口に入れる方法は「手ですくう」が少ない一方,「直接口で食べる」が多いこと,③同じ石への試行を繰り返す傾向が強く,石めくりの成功率が低いこと,④採食中の後脚の浸水が少ないことが明らかになった。また,全年齢クラスで「手ですくう」の対象は石から滑り落ちたカワゲラ目・カゲロウ目が,「直接口で食べる」の対象は石表面で営巣するトビケラ目が多い傾向がみられた。以上の結果から,アカンボウは他の年齢クラスより体サイズが小さいため,浸水を避けて体温低下を防ぎつつ,試行錯誤して自身の能力に応じた石の操作を学習して水生昆虫食を行う可能性が示唆された。昆虫種の違いが単位時間当たりの採食回数に影響する可能性が示唆されたため,今後の展望としてはエネルギー摂取量の議論を可能にする各昆虫の栄養分析が挙げられる。
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