抄録
社会学において、コミュニケーション能力は、「伝達不可能なもの」「不可視なもの」と想定されている。だが、現代日本社会ではコミュニケーション能力の向上を促す学びの場や組織が多様に存在している。本稿では、『出版指標年報』の「書籍の出版傾向」で紹介されている「売れてる」「話題になった」会話ハウトゥ本を分析資料として、コミュニケーションの自己向上を促す言説が如何に存在するのかを考察した。またコミュニケーション能力が力説される2000 年代以降の日本社会において、如何に助言が変容しているのかを明らかにした。会話ハウトゥ本の中でも会話を取る上で基本的な能力にして最も重要な能力として紹介されている情報やメッセージの受信の仕方(聞き方・質問の仕方)をめぐる技術に焦点を当てている。
考察の結果、「相手に対して『共感・理解』していることを示しつつ、相手の会話のボールをキャッチする」「相手が投げ返しやすい。話題が広がりやすい質問のボールを投げる」というコミュニケーションの仕方が時代を通して助言されていた。ただし、2000 年代になると「私はあなたの話に興味・関心がある」「相手が投げ返しやすい会話のボールを投げる」という目標のための手段がより追求されるようになっている。言うならば、コミュニケーション能力がより視覚可能化していた。