日本古生物学會報告・紀事
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20. 千葉縣館山北條町高井産沖積世貝化石
鈴木 好一市村 賢一
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1936 年 1936 巻 4 号 p. 80-95_2

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抄録

昭和9年市村が採集同定せる標本を, 更に鈴木が調査の上此處に報告する事とした。
總種數64, 内双殻類28, 掘足類1, 腹足類35種。化石の保存状態は甚だ良好。
既に昭和2年に, 野村七平氏が同一場所より16種の貝化石を報告して居られるが, 其全部が筆者等の標本中にも見出された。又全64種中9種は野村氏が關東地方全體の沖積層から報告して居られないものである。
本貝化石群は主として日本要素と黒潮要素とより成り, 典型的な親潮要素は1つも含まれてゐない。全體として, 房州より紀州に至る海岸の貝類相に酷似する。從つて本貝層堆積地の水温は現在の館山灣のそれと略々同じか, 幾分之より温かゝつた程度で, 紀州沿岸の水温より高温であつたとは思はれぬ。
又本貝化石群は近接せる國府村藏數の沖積世貝化石群に最もよく類似し, 所謂安房珊瑚層のそれとも可成り似てゐる。しかし館野村國府の「暖海堆積物」(佐伯四郎) や太平洋側諸地點 (下藤原, 長岡, 瀬戸, 千倉, 千歳等) に於ける沖積層の貝化石群とは相當異る。これは堆積地 (棲息地) 環境の小差に基くのであらう。
市村の調査によれば, 高井, 藏敷, 瀬戸, 千倉等の沖積層は略々同時期のものであるが, 國府の「暖海堆積物」は之等より幾分古い。更に上記兩層は明瞭な不 (非) 整合を以て安房珊瑚層の上に載る。
最後に興味ある種類6種に就て記載並びに説明を加へておいた。尚Scala lyra YOKOYAMA, 1927 (not SOWERBY, 1847) に對しEpitonium yokoyamaiなる新種名を提出した。

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