日本古生物学會報告・紀事 新編
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808. Mercenaria mercenaria の殻の成長線の微細構造
小池 裕子
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1986 年 1986 巻 141 号 p. 289-295

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抄録

嫌気的呼吸説によると, 貝殻成長線の周期的形成は, 閉殻時の嫌気的呼吸下では貝殻表面の脱灰がおこり, あとに残された有機物が成長線として見えると説明されている。しかしながら貝殻の外層の薄片をブノールフェノールで染色すると, 成長線部分は染まらず, いわゆる成長線は富有機物層ではないという疑問をもった。Mercenaria mercenaria (Linne)を用い, 貝殻中の炭酸カルシウムを完全に除去し, 有機物層の微細構造をみると, プリズムをつつむ"interprismatic membrane"と, それと直交する"organic membrane of the growth increment"の二種類の有機物層が認められた。同一個体の標本を用いて完全脱灰標本の電顕像とエッチング像を比較すると, この二種類の有機物層は, いわゆる成長線部分とは対応せず, ブノールフェノール染色法の濃染層および有機物除去脱灰法の凹みによく対応した。一方成長線部分は, 完全脱灰標本ではinterprismatic membraneの薄く粗になった部分に対応し, organic membrane of the growth incrementはその成長線部分の直前に多く出現する傾向を示した。

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