1992 年 1992 巻 168 号 p. 1311-1328
本論では北海道北西部小平地域の白亜系コニアシアン階から産したInoceramusの1新種について記載し, あわせて個体群の立場からいくつかの形質について測定学的検討を試みる。また, 本種をかいしてI. (Inceramus)とI. (Platyceramus)との系統的関係を考察する。ここに新種として提唱するInoceramus (Platyceramus) troegeri Nodaは輪郭や表面装飾の変異が大きく, その極端なものでは日本のチュロニアン階上部のI. (I.) teshioensis Nagao and Matsumotoに似た特徴を示す個体もあるが, 他方, 日本のコニアシアン階上部からサントニアン階にかけて産するI. (P.) mantelli de Merceyに近い特徴を示す個体もある。しかし, 両型はいろいろな程度の中間型で繋がれ, 個体群の立場からは同一種に属すると考えざるを得ない。このことはI. (Platyceramus)のいくつかの種がチュロニアン-コニアシアンの境界期か, または, それに近いコニアシアンの早い時期にI. (I.) teshioensisから分化したことを示唆している。したがって, 本種は後に続くI. (Platyceramus)の主流, 傍系をふくめていろいろな種の, 共通のあるいは究極の先祖と考えられる。