平和研究
Online ISSN : 2436-1054
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1 国家の安全と国民の生命・身体・財産の安全
石田 淳
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2024 年 62 巻 p. 1-19

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抄録

特定の主体にとって堅持するべき価値を脅かすものがない状態を「安全」と概念化するならば、「国家の安全」とは区別された「国民の安全」を観念できる。このように区別すれば明らかなように、この「国家の安全」と「国民の安全」とはただならぬ緊張をはらむことも疑いえない。この相克が国家の防衛行動の予見可能性を損ない、ひいては国家や国民の安全を危うくはしないか。本稿は、防衛行動の予見可能性の観点から、国家の安全と国民の安全との調整条件を理論的に考究することを目指す。

まず第1節において、国民の生命・身体・財産をめぐってその「保護」(「国家安全保障戦略」)と「犠牲の受忍」(判例法理としての「戦争損害受忍論」)という一見して矛盾する言説の競合を概観する。次に第2節において、攻撃を排除するという局面を例外として原則的に武力を行使しないとする日本の専守防衛については、「説得力のある威嚇と説得力のある約束のトレード・オフ」から逃れられないことを指摘する。そのうえで、不合理な戦争を回避するには、専守防衛の対外約束から恣意的に逸脱できない国内制度(具体的には専守防衛を逸脱した武力行使を原因とする国民の生命・身体・財産の犠牲の補償)を整える必要を検討する。そして第3節において残された課題として専守防衛行動の予見可能性の限界を整理する。

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