平和研究
Online ISSN : 2436-1054
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依頼論文
  • 石田 淳
    2024 年 62 巻 p. 1-19
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/07/26
    ジャーナル フリー

    特定の主体にとって堅持するべき価値を脅かすものがない状態を「安全」と概念化するならば、「国家の安全」とは区別された「国民の安全」を観念できる。このように区別すれば明らかなように、この「国家の安全」と「国民の安全」とはただならぬ緊張をはらむことも疑いえない。この相克が国家の防衛行動の予見可能性を損ない、ひいては国家や国民の安全を危うくはしないか。本稿は、防衛行動の予見可能性の観点から、国家の安全と国民の安全との調整条件を理論的に考究することを目指す。

    まず第1節において、国民の生命・身体・財産をめぐってその「保護」(「国家安全保障戦略」)と「犠牲の受忍」(判例法理としての「戦争損害受忍論」)という一見して矛盾する言説の競合を概観する。次に第2節において、攻撃を排除するという局面を例外として原則的に武力を行使しないとする日本の専守防衛については、「説得力のある威嚇と説得力のある約束のトレード・オフ」から逃れられないことを指摘する。そのうえで、不合理な戦争を回避するには、専守防衛の対外約束から恣意的に逸脱できない国内制度(具体的には専守防衛を逸脱した武力行使を原因とする国民の生命・身体・財産の犠牲の補償)を整える必要を検討する。そして第3節において残された課題として専守防衛行動の予見可能性の限界を整理する。

  • 秋山 肇
    2024 年 62 巻 p. 21-47
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/07/26
    ジャーナル フリー

    安全保障研究は伝統的に、国家の軍事的な安全保障を中心的に扱ってきた。しかし冷戦終結を境に、安全保障研究の範囲の深化と拡大が見られ、人間の安全保障(human security)のような見解もある。これまでの様々な社会の前提が問い直されている今日、そして今後において、「誰」にとっての「何」が安全保障の課題として重要であろうか。この問いに答える際に重要なのが「人間」と「非人間」という分類である。従来の安全保障研究では一般的に「人間」である脅威に着目してきた。しかし今日において、従来の「人間」と異なり、「非人間」を安全保障の文脈で議論する必要があるであろう。これを踏まえると、環境問題やAIなどの科学技術は、それぞれを個別に検討するだけでなく、「非人間」として位置付けることで、安全保障を検討するための対象の構造的な拡大を明らかにすることができる。上記の問題意識を踏まえ、「現代及び今後において国家安全保障や人間の安全保障への脅威は何であるか」をリサーチクエスチョンとする。その上で、環境問題やAIなどの科学技術が国家安全保障や人間の安全保障への脅威になりうると論じる。本稿では、従来別個に論じられることが多かった国家安全保障と人間の安全保障を同列に論じることで、これらの安全保障の考え方の架橋を目指す。本稿の目的は現代的もしくは今後の課題の特徴を踏まえて安全保障のパラダイムをアップデートすることとする。国家安全保障や人間の安全保障の前提を問い直し、環境問題やAIなどの安全保障への脅威を検討する。

  • 石山 徳子
    2024 年 62 巻 p. 49-74
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/07/26
    ジャーナル フリー

    本稿は、混迷を深めるパレスチナ・イスラエル情勢について、セトラー・コロニアリズム、人種資本主義の歴史の不条理を体験してきた先住民族、アフリカ系アメリカ人から発せられる連帯の動きと、これを受けとめるパレスチナをはじめとするさまざまな人びととの応答と、多方向に越境していくその展開に注目する。特に先住民団体ザ・レッド・ネーション(TRN)、あるいはその参加者によるポッドキャストやティーチインなど、さまざまな媒体を通じた試みを参照しながら、入植者国家による国土安全保障政策が、植民地主義と人種主義を維持するためのプロジェクトであることをあきらかにする。そのプロジェクトは、故郷の土地を守るべく抵抗をつづける先住民族を、犯罪者として非人間化し、抹殺せんとする暴力と、凄惨な抑圧構造を再生産してきた。抑圧に抗う先住民族の生活、運動、研究の現場から生まれた連帯のプロセスは、対話を通じて異なる文脈を学び、多様な空間レベルで交錯する構造的な課題に挑戦するためのエネルギーに満ちている。その取り組みは、ラディカルなフェミニストとして、社会運動に大きな影響を与えつづける研究者、アンジェラ・デイヴィスが提唱する「闘争のインターセクショナリティ」の概念にも通じるものである。

投稿論文(特集)
  • 松本 いく子
    2024 年 62 巻 p. 75-104
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/07/26
    ジャーナル フリー

    マーシャル諸島共和国は1986年に独立を果たすまで1世紀の間、ドイツ・日本・米国の支配下に置かれ、太平洋戦争と冷戦の過酷な被害がもたらされた。ドイツは1914年に日本軍により追放され、マーシャル諸島は国際連盟委任統治領として1921年に日本に委ねられた。戦後は国際連合信託統治領として米国に託された。1946年から1958年に67回繰り返された核実験や1959年に始まったミサイル実験などの軍事活動は、先進国の安全保障の名のもとに国連組織に正当化された構造的、直接的、文化的暴力と捉えられる。本稿は、軍事活動の影響に苦しむロンゲラップとクワジェリンの被害住民が積極的に参加した、太平洋島嶼民による太平洋非核独立運動に、太平洋教会協議会(PCC)や世界教会協議会(WCC)が継続的に関与したことに着目する。本稿の目的は、キリスト教系地域・グローバル組織PCCやWCCが、国際社会に声を持たない被害住民という弱者の側に立ち、太平洋非核独立運動という地域の政治運動と協働した過程と、地域や欧米の市民社会との連帯と支援を動員した役割を検討することにある。この役割を「公共宗教」という宗教社会学の概念に沿って考察することで、国家や権力、核兵器開発を正当化する古い宗教とは異なる、市民社会に根ざした公共宗教という新たな様態として捉える。PCCとWCCが、軍事活動被害者の運動に精神的支柱と組織的支柱を提供したことを明らかにし、トランスナショナルな公共宗教の可能性を提示する。

  • 影山 優華
    2024 年 62 巻 p. 105-132
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/07/26
    ジャーナル フリー

    フェミニスト平和教育研究者、ベティ・リアドン(Betty A. Reardon)は、平和教育とフェミニズムの観点から平和安全保障に先駆的に取り組んだ。本稿は、リアドンの教育実践、安全保障の再定義、制度変革のための直接行動に着目し、学習や変革を重視するフェミニスト平和研究に基づく安全保障論とその実践を明らかにする。

    フェミニスト平和研究は、軍事的国家安全保障が階層的関係や「他者」を生み出し、ジェンダー抑圧や戦争を永続化する抑圧的システムであると指摘する。そして軍事主義とジェンダー権力関係の不可分性を論じる。フェミニストの安全保障は「人々、コミュニティ、生命を維持する地球全体のウェルビーイング」の実現を原則とし、「他者」を作らず、危害を加えない関係の構築を重視する。その理論的基盤にはリアドンの「有機的平和(organic peace)」概念があり、生命の尊厳やウェルビーイングを尊重し、紛争を成長の源に転換する学習プロセスを意味する。この概念は一つのシステムに共存する生命の価値の平等性と相互性、問題の関連性を捉えるホリスティックな視点に基づく。

    本稿は、米国の平和運動、「真の安全保障を求める女性たち(WGS)」の活動を分析し、文脈や関係性を重視して不平等な構造を運動内部から転換するフェミニストの安全保障実践を提示する。これらフェミニストの理論・実践は、暴力や脅威を生み出さない平和のシステムを不断に学習し構築していく「有機的な安全保障」と言える。

特別寄稿
  • 川崎 哲
    2024 年 62 巻 p. 133-151
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/07/26
    ジャーナル フリー

    日本政府は、2022年12月に閣議決定した国家安全保障戦略など安全保障3文書をもとに「防衛力の抜本的強化」へと突き進んでいる。憲法9条の下での「専守防衛」政策は本質的に転換された。

    戦後約80年が経ち、軍事的「抑止力」を肯定する意識はかなり主流化した。本稿では、そこにみられる軍事力中心主義を批判的に検証し、それから脱却するための視点を探る。

    筆者が共同座長をつとめる「平和構想提言会議」(2022年10月発足)が出してきた提言や関連の声明を踏まえ、まず軍事力増強が戦争のリスクをむしろ高めることを指摘する。そして、東アジアで戦争が起きたらどうなるかを論じ、それを回避するための軍縮と緊張緩和、信頼醸成の必要性を説く。

    軍事力そのものへの根本的批判として、(1) 軍拡競争と安全保障のジレンマ、(2) 軍拡の機会費用、(3) 抑止と威嚇の関係、(4) 人権と民主主義、(5) 軍事力が問題を何ら解決しないといった論点を挙げる。

    そこからの脱却には、第一に防衛・安保政策の決定プロセスの民主化、第二に東アジアの信頼醸成のための対話、第三に平和的生存権や紛争の平和的解決といった原則の復権が必要である。

    世界を「西側」対「それ以外」の二項対立でとらえ、日本が米国との「同盟強化」一辺倒で進むのは危険である。アジア近隣諸国や非同盟諸国との連携を強め、市民社会が参加する多元的な安全保障を追求すべきである。

  • 笹本 潤
    2024 年 62 巻 p. 153-159
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/07/26
    ジャーナル フリー

    本稿は平和構想提言が提案している地域安全保障構想について軍事同盟の危険性を指摘する。

    現在の地域の軍事的緊張の高まりの原因について、日本のメディアではほとんど報道されないが、ユン大統領就任以来多くの米韓軍事演習が行われて、これに対して北朝鮮がミサイルや人工衛星の発射実験をしているという、相互に影響関係の把握が重要である。台湾問題でも、中国の武力侵攻の可能性が強調されるが、ペロシ下院議長訪問や米国の台湾への武器売却などの中国に対する挑発により、台湾をめぐる米中の緊張は激化しているのも事実だ。もちろん日本の敵基地攻撃能力への強化も緊張激化の一端を担っている。

    米国の軍事同盟は、中国・北朝鮮・ロシアを敵国と想定しており、相互不信を生じさせている原因となっている。西欧、ロシアのOSCEについても、ウクライナ戦争において中立性が疑われ紛争抑止のために機能しなかった。アジアの場合、日本、韓国だけでなく、フィリピン、タイも米国と軍事同盟を結んでいる。AUKUSやQUADのネットワークは南シナ海にも緊張を創り出している。ASEANのインド太平洋構想(AOIP) においても、軍事同盟に対して実効性のある政策を実行していけるかが課題である。

    地域安全保障構想においては、非同盟・多国間主義を中心的コンセプトにし、軍事同盟とは一線を画する、BRICSや非同盟諸国運動との連携も必要である。地域の安全保障への市民社会の関与については、市民間の国際的なネットワークの構築、安全保障の理念として平和権という人権アプローチも強調した。

  • 麻生 多聞
    2024 年 62 巻 p. 161-166
    発行日: 2024/07/31
    公開日: 2024/07/26
    ジャーナル フリー

    部会4は、従来認められないとされてきた「反撃能力」(敵基地攻撃力)を憲法9条下での自衛力に含めるという重大な憲法解釈変更を含む2022年安保3文書改定を問題視し、かような軍拡姿勢へのオルタナティブとして「平和構想提言会議」による「平和構想提言」(2023年)の可能性を探究するものであった。青井未帆会員による「平和について憲法論にできること-安保3文書改定を経て」報告は、市民主体の平和構想をめぐり、論理の問題としてのみならず、いかにして安全保障という現実的な文脈への対応力を示すことができるかという視座の重要性を指摘するものであった。川崎哲会員「「抑止論神話」からの脱却」報告は、「軍事力のもつ弱点や危険性」をめぐる認識に基づき、「軍事力中心ではない形で戦争を防止し国際安全保障を向上させる道筋」の具体的内容として、朝鮮半島の平和・非核化、日中関係の安定化、核兵器の禁止と廃絶、信頼醸成と紛争予防のための市民外交等を挙げる。いずれも重要な内容だが、実際に侵攻を受けた場面を想定した「対応力」を持つものとは言えない。そこで筆者は非武装市民による抵抗に基づく非軍事的安全保障論としての市民的防衛論と「平和構想提言」の接続可能性をめぐる問題提起を行うとともに、ロシアの侵攻を受けるウクライナのKIISによる世論調査が市民的防衛の視点を多分に含むことにふれ、これに対するウクライナ市民の回答を参照した。

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