平和研究
Online ISSN : 2436-1054
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2 フェミニスト平和研究を原点とする平和安全保障: ベティ・リアドンの「有機的平和(organic peace)」と「真の安全保障を求める女性たち(Women for Genuine Security)」による実践
影山 優華
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2024 年 62 巻 p. 105-132

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抄録

フェミニスト平和教育研究者、ベティ・リアドン(Betty A. Reardon)は、平和教育とフェミニズムの観点から平和安全保障に先駆的に取り組んだ。本稿は、リアドンの教育実践、安全保障の再定義、制度変革のための直接行動に着目し、学習や変革を重視するフェミニスト平和研究に基づく安全保障論とその実践を明らかにする。

フェミニスト平和研究は、軍事的国家安全保障が階層的関係や「他者」を生み出し、ジェンダー抑圧や戦争を永続化する抑圧的システムであると指摘する。そして軍事主義とジェンダー権力関係の不可分性を論じる。フェミニストの安全保障は「人々、コミュニティ、生命を維持する地球全体のウェルビーイング」の実現を原則とし、「他者」を作らず、危害を加えない関係の構築を重視する。その理論的基盤にはリアドンの「有機的平和(organic peace)」概念があり、生命の尊厳やウェルビーイングを尊重し、紛争を成長の源に転換する学習プロセスを意味する。この概念は一つのシステムに共存する生命の価値の平等性と相互性、問題の関連性を捉えるホリスティックな視点に基づく。

本稿は、米国の平和運動、「真の安全保障を求める女性たち(WGS)」の活動を分析し、文脈や関係性を重視して不平等な構造を運動内部から転換するフェミニストの安全保障実践を提示する。これらフェミニストの理論・実践は、暴力や脅威を生み出さない平和のシステムを不断に学習し構築していく「有機的な安全保障」と言える。

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