2025 年 64 巻 p. 1-38
本稿は、ジェンダーを中心に既存の平和学に対して批判的な眼差を向ける。女性や多様な性・ジェンダーを取り上げるのみならず、不平等な二項対立に基づくアプローチやジェンダー化された方法論にとって代わるものの必要性を訴え、私が思い描く平和やそれに伴う平和学のビジョンについて述べる。より多様で豊かな創造性を引き出すために、そのビジョンを色鉛筆で描くという比喩を用いるとともに、各節の冒頭にねこのポーポキと友だちのうさぎによる対話で構成される「絵物語」(art story)を入れ、読者に思考的分析以外の自らの感情や気持ちを引き出す。複数のテーマから成り立つ本論の前半では、オードリー・ロードに倣って「主人の家」(本稿の文脈でいうと軍事主義や軍事基地)はレイシズムなどが潜む「主人の道具」(二元論的なアプローチや多様な性・ジェンダーを認識しない、場合によっては不可視化する学問)では解体ができないとし、既存の平和学を問う。後半では表現方法という道具に目を向けて、フェミニスト方法論からヒントを得ながら物語やナラティブ、対話について論じる。本稿を通じて、すべての性・ジェンダーの真の平等を前提とする、誰もが安心できる「みんなのおうち」の構築が必要だが、既存の色彩や線、色鉛筆そのものだけで描こうとしている平和と平和学の関係性を十分に表すことはできず、現在の「主人の家」の解体や新しい「おうち」の構築に向けて、ジェンダーに積極的に目を向けることは欠かせないと結論付ける。