基礎心理学研究
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順向および逆向復唱・再生条件におけるランダム数字列に対する視覚記憶と聴覚記憶の相互作用
濱田 治良
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1987 年 5 巻 2 号 p. 55-61

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抄録

10個のランダム数字を視覚的,聴覚的に組み合わせて1.6秒に1個ずつ継時的に提示しながら傾向あるいは逆向の復唱・再生を課し,それらを1.2秒に1個ずつ周期的に再生させた.その結果,(1)順向あるいは逆向の復唱・再生条件にかかわらず,視覚数字列に対する再生率は聴覚数字列の値よりも高く視覚記憶の優位性が認められた.(2)傾向復唱・再生条件において,同じ数字を視覚的および聴覚的に重複させて提示させてもその平均再生率は視覚数字列の値と等しく,視覚記憶と聴覚記憶を重複させることによる再生率の促進は認められなかった.一方,視覚数字と聴覚数字を5個ずつに折半して提示すると,その平均再生率はそれらを1個ずつ交互に提示する場合に比べて,高かった.この結果は,記銘に際してのチャンクの大きさ,および視覚記憶と聴覚記憶の切替えの頻度に起因するのであろう.最終系列位置に聴覚数字が位置づく数字列では著しい新近効果が現われたが,初頭系列位置での再生率の低下が生じ,その平均再生率は視覚数字が最終系列位置に位置づく条件と同じであった.(3)逆向復唱・再生条件での系列位置曲線には二重性が現われ,それらの成分は短期記憶と長期記憶の段階性を示唆した.これらの実験結果に基づき,人間の記憶情報の処理過程における視覚記憶と聴覚記憶の差異とその相互作用,および短期記憶と長期記憶の段階性を論じた.

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© 1987 日本基礎心理学会
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