抄録
【目的】
大腿骨近位部骨折患者のバランス能力の評価指標として
Berg Balance Scale(BBS)を用いることが多いが、活動度
に応じた得点の特徴は明らかではない。本研究の目的は、大
腿骨近位部骨折患者を対象に、日常生活自立度別のBBS合計
点および下位項目の差、下位項目の構成要素を検討すること
とした。
【方法】
当院でリハビリテーションを施行した大腿骨近位部骨折患
者106名(頸部82名、転子部24名、女性83名、平均80.2±8.2歳)
を対象とし、退院時の寝たきり度とBBSを調査した。日常生
活自立度(寝たきり度)判定基準に基づき、生活自立群(J群)、
準寝たきり群(A群)、寝たきり群(B群およびC群)に分類し、
群間のBBSを比較した。尚、C群は立位保持ができず、評価
に適さない者が多いことから、分析からは除外した。分析は、
BBS合計点および下位項目得点の差の検討にKruskal Wallis
検定(危険率5%)、下位項目の構成要素の検討に因子分析を
行った。本研究は、当大学倫理委員会の承認を受け、ヘルシ
ンキ宣言に則り施行した。
【結果】
BBS合計点は、J群49.7±5.1点(33名)、A群31.5±11.2点(38
名)、B群10.7±6.6点(28名)であり、各群に有意差が見られ
た。下位項目は、坐位保持以外はJ群-A群-B群の群間に有意
差が見られた。因子分析では、2因子が抽出され、第1因子に
は360°回転、リーチ、振り向きなどの10項目(因子寄与率70.6%)
と、第2因子は立ち上がり、着座などの4項目(9.9%)が抽出
された。
【考察】
大腿骨近位部骨折患者における日常生活自立度別のBBSの
得点分布が明らかとなった。下位項目をみると、第1因子は
立位保持を前提とし、静止保持や重心移動を伴い患肢支持性
を必要とする動作であった。第2因子は日常行う基本動作で
あり、下肢の粗大筋力を表す項目と解釈された。得点分布か
ら見ると、第1因子はJ群とA群、第2因子はA群とB群に差が
生じやすい項目であり、屋内外の歩行自立度を判断する項目
となりうると考えられた。