関東甲信越ブロック理学療法士学会
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最新号
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学会長基調講演
  • ~2050年の理学療法を考える~
    南本 浩之
    p. 52-
    発行日: 2023/10/14
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    第42回関東甲信越ブロック理学療法士学会のテーマは,「理学療法の普遍と創造,そして革新へ~2050年の 理学療法を考える~」とした.今学会のテーマとした理由について,背景とともに私見を述べさせていただく.  近年,理学療法の学問領域の専門分化や学会の社団法人化,職域の拡大など,理学療法の専門性の分化・ 深化が急速に進んでいる.しかし,それらすべてに共通した「理学療法」の普遍性を見失ってはいけないと考え ている.その理学療法の普遍性を基盤として,社会に貢献できる可能性を秘めた新しいアイデアを創造し, それを実現させる革新に繋げることが重要と思う.また,今後医療が進歩する中,理学療法の活躍の場が多様 化すると予測される.さらに,今後人口減少は進み,2050年以降,理学療法の大きな対象になっていた高齢 者も減少する.これらにより,理学療法は大きな変革に迫られる時代が来ることになる.2050年まであと約 30年.私たちが今から準備して出来ること,今後取り組むべきことについて,今までの50年で培った知識や 技術だけでなく,理学療法士の諸活動も含めて,それらを基盤(普遍)とし,この先の理学療法を盤石な体制 (創造・革新)へと導く30年にしていくことを目指す必要がある.  今学会において多くの方々が,特別講演,教育講演,シンポジウムなどを通じ,理学療法を盤石な体制へ 進むべき道筋を考え,未来の理学療法を考える足がかりとなることを目指している.数多くの医療現場や研究 領域,大学など教育機関などでご活躍の理学療法士が一堂に会することで,より高いレベルに理学療法を展開 させていくことが出来るよう,学会のオープニングとして話をさせて頂き,思考のヒントになればと考える. 最後に,このように魅力ある企画を実現してくださった準備委員の方々と,本日の運営にあたられる皆様へ心 から感謝申しあげるとともに,ご参加の皆様にとって有意義な学会となることを切に願う.
特別講演
  • 緒方 徹
    p. 53-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    様々な慢性期疾患の余命が延長する昨今,障害を持ちながら生活する中での健康維持・増進は新しい健康 課題の一つとなっている.特に中高齢期に生じる筋力低下や関節変性により,障害の要因となった疾患とは別 に加齢性の運動器障害が生じ,活動が制限されることが立位・座位それぞれの障害においてみられる.こうした 活動量低下は持久力の低下や肥満・虚弱へと進行し,自立していた生活動作が不安定になることもしばしば みられる.中高齢障害者に対する活動量維持に向けた介入には健常高齢者に対する取り組みと共通点と相違点 がある.相違点のひとつに挙げられるのは評価法の難しさである.身体機能の評価には体組成や筋力・持久力 のパフォーマンス評価が想定されるが,麻痺などにより身体機能に差異が大きい障害者において標準的に これらを評価・比較する手法は確立していない.また,運動実施の強度設定や頻度についても経験に頼らざる を得ない面が大きい.低活動者が多いことから積極的な運動実施が望まれるが,一方で急な負荷の増大は筋骨 格系の痛みや皮膚障害を生じやすく注意を要する.そして健常者における運動療法と同様に,障害者において も継続的な運動の実施が介入効果を得るためには欠かせない.運動の継続においては本人の動機付けだけでなく, 継続に必要な環境整備や支援体制についても考える必要がある点が障害者の健康増進の特徴でもある.社会制 度的な位置づけも課題のひとつであり,医療,福祉,そしてレクリエーションスポーツのいずれにも分類しが たいのが中高齢障害者の運動である.地域によって活用できる資源にも差があることから支援する側の知識や 情報整理も求められている.こうした障害者を対象とした運動・スポーツの実施が広まっていくことは障害者 の健康寿命の延伸につながるとともに,競技性のあるパラスポーツの裾野の拡大にもつながることと期待される.
  • ~現状と今後の展望
    辻 哲也
    p. 54-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    我が国では,悪性腫瘍(がん)が“不治の病”であった時代から,“がんと共存”する時代に様相が変わりつつ ある.がん医療の進歩とともに,障害の軽減,運動機能や生活機能の低下予防・改善,健康寿命延伸を目的と したリハビリテーション診療の必要性はさらに増していくであろう.  2006年に制定された「がん対策基本法」では,基本的施策として,がん患者の療養生活の質の維持向上を 行うことが国の責務であることが明確にされた.2016年には「がん対策基本法」が改正され,その第17条に, 「がん患者の療養生活の質の維持向上に関して,がん患者の状況に応じた良質なリハビリテーションの提供が 確保されるようにすること」が明記された.第3期がん対策基本計画(2017年~22年)では,がんリハビリ テーションの普及は重点課題のひとつとなり,2023年から始まった「第4期がん対策基本計画」では重点課題と して引き継がれており,がん政策におけるリハビリテーション診療の重要性は益々増している.  一方,医療行政では,2010年度の診療報酬改定で「がん患者リハビリテーション料」が算定可能となった. 本算定では,疾患(=がん)を横断的にみすえて障害に焦点があてられ,合併症の予防を目的に治療前からリハ ビリテーション治療を行うことが可能となった点で画期的である.がん患者にリハビリテーション治療を実施 している施設は年々着実に増加しているが,その多くは入院中の対応であり,外来では十分でない.「がん患者 リハビリテーション料」の算定対象が入院中に限定されていることがその主な原因であり,外来への算定要件の 拡大が求められている.  人材育成に関しては,2007年度から厚生労働省委託事業がんのリハビリテーション研修ワークショップ CAREERが始まった.2020年度までに,のべ4万名以上が CAREER研修を受講し,がんのリハビリテーション 医療の普及啓発,治療の質の向上,均てん化に貢献している.  学術面では,2009年にがんリハビリテーション研究会が設立された.2015年に日本がんサポーティブケア 学会が設立され,専門部会のひとつとして,がんリハビリテーション部門が活動を行っている.また,日本理 学療法学会連合の分化学会として,2023年に日本がん・リンパ浮腫理学療法学会が設立された.診療ガイドラ インは2013年に初版,2019年には改訂第2版が公開され,現在,第3版の策定作業中である.  このように,がんのリハビリテーション医療は,大きな発展を遂げてきた.がんリハビリテーションの果た しうる役割はますます大きくなるので,基礎・臨床研究を推進し,それに裏付けされた診療ガイドラインを 作成・改定し,そのガイドラインに基づいた臨床研修を実施し,専門スタッフを育成することで医療の質を担保 し,その上で医療を実践する取り組みを加速していく必要がある.  本講演では,がんのリハビリテーション診療の現状を振り返りつつ,今後の展望について考える.
教育講演
  • 藤澤 宏幸
    p. 55-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    日常動作を構成する運動パターンは解剖学的拘束とバランスの拘束のもとに,エネルギーコストを最小化するように形成される.そのため,健常者における日常動作は身体の運動自由度が高いにも関わらず定型性を示すのである.このように,バランスと運動・動作は切り離すことができないため,バランス能力は運動・動作が発現しなければ評価が出来ない.別の言い方をするならば,バランスのみを単独で取り出すことはできないという特徴をもつ.システム理論としてバランスを捉えた場合,いくつかのサブシステムが協調しながら機能していることが想定されている.また,システム理論においては,反射階層理論を包含する形,すなわち神経系による制御機構もサブシステムの一つとして含めることが多い.さらに,バランスは現象としては力学的平衡を意味するのであり,サブシステムの一つとして力を制御する筋骨格系の構造と機能は大きな位置を占めている.そのために,システム理論では力学的にバランスを捉えることが重要視されている.ここで,バランスの評価方法としては,次の三種類に分類できる.一つ目は,バランスに強く拘束される姿勢保持課題または課題動作を設定して,そのパフォーマンスを評価するものである.二つ目は,そのような課題を複数設定して数量化し,本来は順序尺度であるものの,合計点を間隔尺度として扱うもの.三つ目は,バランス能力をシステムとして捉え,サブシステムの検査・測定を統合して評価を行うものである.また,姿勢保持課題においてはCOP制御に関して課題特異的にある特定の運動機能との関係が存在しているのも事実であり,理学療法士としてはその点にも着目して評価に当たることが望まれる.一方,トレーニングとしては,バランス制御の理論や力学的制御の知見にしたがってプログラムが組まれなければならないが,課題特異性を意識した練習方法が実践においてなされているかは疑問が残る.また,それらバランス課題の効果判定については個別には検討されておらず,そこに課題があるともいえるし,これから先の研究成果が期待されるところでもある.本講演では,バランスに関する理論と評価,さらにはトレーニングに関して現状をまとめ,今後の課題について議論したい.
  • ~QOL向上を目指す急性期からのアプローチ~
    岸川 典明
    p. 56-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    急性呼吸不全患者に対する呼吸理学療法は,以下のとおり肺の隅々まで適正な肺胞換気を維持することが目的である.①すべての肺胞の換気を最適な状態に維持する.②すでに低下した肺胞換気を改善し,新たな悪化を防止する.③効率のよい換気運動が最小のエネルギー消費で行うことが出来る.以上のように,患者ができるだけ楽に離床を含めた身体活動が実施できる状態を作ることが目的である.急性病態の時期から理学療法を実施することは,疾病に対する手術や薬剤治療といった同じ医療手段の1つでありながら,併存疾患や障害・環境さらには今後の疾病予防を含め一連の治療の流れによって人生をもサポートできるものと考える.急性病態では,下側肺障害をはじめとする呼吸器合併症が発生しやすい.下側肺障害は患者の一定体位が持続した際,肺の加重部分(通常,仰臥位で臥床していることが多いため,その発症部位は背側肺全体となる)に浸潤性病変として現れる.この病態は,患者の肺に「死腔」と「シャント」が同時に存在することとして理解できる.シャントの治療は酸素化改善へと繋がり障害肺胞の再拡張(吸気促進と排痰効果が期待できる).この治療手技の一つに呼吸介助手技がある.呼吸運動にあわせ胸郭を他動的に介助することにより呼吸筋のエネルギー消費を少なくすることができ,呼吸筋疲労や呼吸筋力が低下した症例に対しても効果がある.さらに体位変換の組み合わせにより,胸郭の拡張部位を変化させ,腹部臓器が及ぼす横隔膜への抵抗をも減少させることが可能で,自発的に呼吸効率を上げられない急性呼吸不全患者に対しては有用である.早期離床が実現出来れば,呼吸器合併症をはじめとする廃用症候群の予防につながることは言うまでもない.離床を進めるにあたっては,換気効率の悪い換気パターンや無気肺が残存したまま上昇する病的肺胞領域の気道抵抗,それを代償する健常肺胞での換気代償が解消されないまま行う,早期リハビリテーションにおける座位や立位歩行練習の実施は,患者にあたえる身体的負担は大きいことから,離床を試みる前から,肺胞換気の改善により酸素化能力を上昇させておくことは大きな意味があると考える.急性期からの理学療法の実施は,患者の病態が改善する機会を得ることが出来る.逆に開始時期が遅れると患者の回復機会を失うことになるだけではなく,廃用症候群などの合併症を併発し,QOL低下を招く結果となる.演者は,NICUにおける新生児たちの呼吸理学療法を実施しているが,早期開始により低酸素状態を招来させないことは,神経系をはじめとする発育に好影響を与えているものと考え,また成人の急性呼吸不全の早期からの取り組みは,その時の病態の改善のみではなく全身状態回復後のQOLを見据えたものでなくてはならないと考えている.最後に「生きがい」につながるリハビリテーションの提言として,一つの試み,今後の展望について紹介したい.
  • 島田 裕之
    p. 57-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    理学療法の対象の多くは高齢者であり,すべての理学療法士が高齢者の持つ特徴や問題を理解して治療に臨む必要がある.高齢者は,加齢に伴う組織の脆弱性から疾病発症のリスクが高く,慢性疾患を併存することが少なくない.また,運動器や脳の機能低下から活動制限を起こしたり,日常生活に支障を来していることもある.理学療法の対象者は,この状態に脳血管疾患等の疾病によって著しい機能低下を起こして,発症後の安静による廃用症候群も加わった患者を対象とする.そのため,主疾患への対応を中心としつつも,加齢や廃用症状からの多彩な問題に同時に対応しなければならない.機能状態に大きく影響する問題として,老年症候群が挙げられる.老年症候群には,加齢に伴う筋力低下,フレイル,認知機能低下,転倒,尿もれ,関節痛などが含まれ,適切な対処がないと症状は悪化する.その 反面,早期からの適切な予防措置によって症状の予防や改善が可能といった特徴を持つ.老年症候群の中でも,フレイルと認知機能低下は要介護発生の主たる原因となり,予防の必要性の高い注目すべき症候である.フレイルは,ストレスに対する予備力の低下を背景に持った状態であり,身体的,精神的,社会的側面が含まれ,その範疇は広範となっている.その中でも身体的フレイルについては多くの知見が集積し,健康寿命の延伸のためにその予防や改善が重要な課題となっている.フレイルを操作的に定義しようとする試みは多数なされ,最も広く用いられているのがFriedらによるフレイルを表現型として示したもので,身体的フレイルを体重減少,疲労,身体活動の低下,歩行速度の低下,筋力低下の要素を含むことと定義されている.また,認知機能が低下した状態をmild cognitive impairment(MCI)と呼び,認知症発症のリスクが高い症候として注目されている.MCIは,認知症の診断基準は満たさず,本人や家族から認知機能の低下の訴えがあるものの日常生活機能に大きな問題はないといった状態を指す.MCIは悪化へ向けた一方向への進行性の経過を辿らず,正常へ回復する割合も大きい.健忘型MCIから正常の認知機能への回復に関するメタ解析によると,全体で25%の者が回復し,病院での調査では14%,地域での調査では31%の者が回復したとされた.  フレイルとMCIの予防で共通しているのは,身体活動の促進によって症状の予防や改善が可能である点であり,高齢者の理学療法を実施する上で留意すべき問題だろう.
  • -理学療法士の関わりと今後に向けての課題-
    小林 寛和
    p. 58-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    スポーツは変化を続けている.近年の東京オリ・パラ大会,FIFA ワールドカップ,野球 WBC などの世界大会や,海外リーグなどでの日本選手のめざましい活躍は,競技力向上のひとつの証といえる.一方で,アーバンスポーツの躍進やeスポーツの浸透,健康スポーツへの取り組み拡大などは,スポーツの裾野の広がりを示している.このような変化は,世界的潮流を踏まえつつ2000年以降に展開されてきた施策や2011年のスポーツ基本法を指針として,導かれてきたように思う.他にも,社会的背景と連動して,部活動のあり方の見直し,勝利至上主義からの脱却,ダイバーシティーやジェンダーへの視点の強調,プレーヤーセンタードの指導法,選手や指導者の国際化など,スポーツの本質に関わる部分で適応が進みつつある話題も数多い.スポーツへの理学療法士の関わりは,主に医療における外傷後・術後のリハビリテーションや再発予防において,その役割を担ってきた.この数年間で,その関わりはスポーツ活動を実践する場におけるリコンディショニング,コンディショニングさらには競技パフォーマンス向上にまで及んでおり,これらの対応事例で成果を見聞きすることも増えている.「スポーツ」からの理学療法士への期待は,より一層高まっていくことが考えられ,対象者が安全に効率よくスポーツに取り組むために,身体機能を向上させる役割を,的確に担えるようにすることを意識しておきたい. スポーツの実施目的や対象などの細分化が進む中で,理学療法士の関わり,役割と任務はさらに拡がっていくであろう.我々が提供していく理学療法の根幹をより確かなものとするために,スポーツという基盤を大切にしつつ,必要となる(求められる)知識や技能を整理していくこと,その根拠を明確にしていくこと,そして医師やアスレティックトレーナーなど関連職種との協働を強化していくことなど,進めるべき取り組みは多い.この機会に,我が国におけるスポーツへの理学療法士の関わりの現状に触れて,今後に向けた取り組みの課題と対応についても考えていきたい.
  • 淺井 仁
    p. 59-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    理学療法士は対象者の身体の動きを分析する際,筋機能あるいは関節の動き等の運動学的な視点で捉えて いることが多い印象を受ける.しかしながら,感覚運動統合という言葉があるように「運動」と「感覚」は車の 両輪のような関係にあり,動きにおける感覚情報の役割は非常に重要なものであると考えられる.本講演は, 身体の動きを分析する際に感覚情報の機能的役割を考える一助となるために,人の基本的な姿勢である立位 姿勢および座位姿勢の知覚において体性感覚情報がどのような機能的役割を持つかということを概説する.  最初に「感覚」と「知覚」との違いを明確にし,「位置知覚」について説明する.そして,位置知覚にどのような 感覚情報が関与するかということの考え方の変遷を紹介する.次に予測的姿勢制御を説明し,予測的姿勢制御 が動作開始前の身体位置が知覚を基になされていることから,位置知覚の機能的な意味を説明する.前後方向 における立位位置の知覚については,その概要および立位位置の違いによる知覚能の違いとその背景を説明 する.そして,前傾時および後傾時にどのような感覚情報を手掛かりにしているかということについて足底を 部位ごとに冷却した先行研究の結果を紹介しながら説明する.座位姿勢の位置知覚は,立位と同様に前後方向 の位置知覚について足底を接地しない条件での位置知覚能を紹介する.さらに,これらの姿勢における位置 知覚能を通して,「参照枠」について言及し,理学療法と参照枠との関係を概説する.  最後に,片麻痺患者さんを対象にした座位での位置知覚の結果をもとに,位置の知覚における「sensory weighting」(感覚情報の重みづけ)について言及する.
  • 中山 孝
    p. 60-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    筋骨格系理学療法領域は,運動器理学療法やスポーツ理学療法と深く関連性を持ち,骨・関節・筋,さらに脊髄神経・末梢神経も包含する幅広い学問領域である.理学療法教育機関では初年次の解剖学に始まり,運動学,検査・評価学へと進め,その過程でこれら運動器に対する理学療法治療体系に必要な臨床推論の概念を学修する.今や理学療法が幅広い領域に渡ってその専門性を発揮し,世界の人々に,或いは日本の国民に理学療法が提供されていることは大変喜ばしいことであることは間違いない.しかし一方で,古来より光・水・熱・電気などの物理的手段に加え,ヒトの手(徒手)を用いて人々への治療を提供してきたPhysicianの流れを汲む「理学療法士」のなし得る知識・技術の一体系としての徒手的理学療法が,全国に250を超える理学療法教育機関において,どれくらい教授され,卒後にその成果を対象者に還元できているかは疑問である.筋骨格系疾患の評価・診断においては,画像診断機器の開発や徒手的な評価の精度(感度や特異度等の指標による信憑性)が次第に明確になるにつれ,正確な診断,病態把握が発展・進歩している現実とは裏腹に,その恩恵を受けるべき患者への理学療法サービスにおいては,3~4年の養成教育機関での知識・技術だけでは全く不十分であると言わざるを得ない状況である.正確な病態解明が伸展する医学的検査・診断の進歩とは逆行し,理学療法士による評価判定における問診やコミュニケーション,知識・技術,推論能力の修得の機会提供は保障されていないばかりではなく,教育課程の中に反映されていない.特に慢性的な痛みにとどまらず,生物心理社会的問題を含めた対象者の全人間的治療への複合的アプローチの提供を目標とすることが教育の使命ならば,現状の問題点を明らかにし,最善策を考える機会も設けることは重要である.講演では,筋骨格系徒手理学療法教育について,卒後の臨床治療へ本学で行っている教育カリキュラムを例示し,望ましい教育の在り方を考える契機とする.また,卒後の専門領域教育,学会・研究会などの位置づけや組織統合についても,本領域の将来を見据えた観点から,再考する機会が与えられることを期待する.
シンポジウム1:理学療法の普遍-あらためて確かなものにしたい理学療法技術-
  • 善田 督史
    p. 61-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    間質性肺疾患(Interstitial lung disease:以下ILD)は,肺組織の間質を中心に炎症や線維化を主病変とする疾患群であり,病因は原因不明や環境因子,膠原病など多岐に渡る.慢性閉塞性肺疾患に比べて,ILDでは労作時低酸素や労作時呼吸困難,動悸がより強く,疾患進行が早いことが特徴である.呼吸リハビリテーション(以下呼吸リハ)は,ILD患者の評価と介入において重要な役割を果たす.2018年に日本呼吸ケア・リハビリテーション学会,日本呼吸器学会,日本呼吸理学療法学会で作成された3学会合同ステートメントや2021年のCochrane reviewで示されている,呼吸リハにおいて最も重要な評価の一つとして,6分間歩行試験(6MWT)が挙げられる.6MWTは運動器具や高度なトレーニングも必要なく,ILD患者に対して最も頻繁に使用される運動能力評価である.特発性肺線維症(以下IPF)の診断にも6MWTが用いられ,呼吸機能検査や血液ガス検査などの安静時評価のみに限らず労作時評価の必要性は高く,理学療法士が実施する評価は重要な役割を担っている.さらに,6MWTにおける低酸素血症の有無や歩行距離,6MWT中のMedical Research Council dyspnea scaleなどの理学療法評価が,予後因子に重要であると報告されている.ILD患者に対する介入は運動療法を中心としたものが主であり,自主トレーニングや物理療法も組み合わせて行われることがある.呼吸リハの効果についてエビデンスが蓄積されてきており,ILD患者の持久力や呼吸困難,生活の質(Quality of life)を改善することが報告されている.最も進行が早いとされるIPFであったとしても呼吸リハの効果は得られるが,重症群や低酸素血症が強い患者では効果が乏しいと報告されている.我々は,ILD患者に対し神経筋電気刺激療法(以下NMES)を呼吸リハに組み合わせることで,中等症から重症の患者に対しても持久力に加えてQOLの改善が図れたことを報告している.本講演では,ILD患者の評価において特に有用な6MWTと,NMESという一つの介入方法について,我々の研究結果を既存のエビデンスと比較しながら述べていく.
  • -Extension thrust patternを中心に-
    栗田 慎也
    p. 62-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    装具は固定・変形の予防・強制・免荷などの目的で使用され,整形外科疾患や脳血管疾患だけでなく,足病変や神経難病などさまざまな疾患に用いられています.本シンポジウムでは,登壇するきっかけ(第10回日本支援工学理学療法学会学術大会にて大会長賞:実践部門の受賞)となった脳卒中片麻痺者の下肢装具や脳卒中治療ガイドラインや臨床現場での実態調査を引用し,下肢装具に関する知識と技術の重要性について説明します.脳卒中治療ガイドライン2009から2019には,急性期リハビリテーションや歩行障害に対するリハビリテーションや痙縮に対するリハビリテーションの各項で装具の使用に関する項目が記載されています.しかし,脳卒中片麻痺の下肢装具に関しては,養成校だけでの学習が不十分であるとの報告があります.そのため,臨床現場での知識と技術の習得が必須とされています.下肢装具には,評価・選定・使用・フォローアップという多岐にわたる知識と技術が必要です.また,急性期から生活期にわたる様々な段階での制度を理解することも重要です.しかし,下肢装具の処方は医師によって行われ,作製は義肢装具士が担当しているため,装具に関する意見が十分に反映されていないとの指摘(半田,2018)があります.私自身はリハビリテーション科医師や義肢装具士とのディスカッションが行えることが比較的多く,下肢装具の検討には他職種での検討や理学療法士としての意見を発してきたと思います.ただし,意見を伝えるためには,理学療法評価だけでなく,下肢装具の種類や適応,作製に関わる制度などを理解し,退院後の生活など多くのことを考えなくてはなり ません.そのため,装具分野の普遍的な知識習得には,まずは最低限の知識を習得し,他職種とのディスカッションを通じてさらなる知識を得る必要があります.そして,習得した知識や技術をただの経験ではなく,正確な情報として後輩にも継承することが重要です.今回,生活期脳卒中片麻痺患者のExtension thrust patternに対する下肢装具の再考と多職種でのディスカッションにて選択・使用した多軸膝遊動式膝継手装具の即時的および長期的効果について報告し,下肢装具の普遍的な知識習得の一助になれるよう務めさせていただきます.
  • 服部 寛
    p. 63-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    野球競技における投球動作は,肘関節への強い外反ストレスを生じさせ,肘関節内側の安定化機構である内側側副靭帯と前腕屈曲回内筋群には伸張ストレス,外側の腕橈関節には圧縮ストレス,後方の腕尺関節には適合不良が生じ,オーバーワークもしくは著しい身体機能の低下によって内側型・外側型・後方型のいわゆる野球肘を引き起こすことが知られている.海外での報告では,骨端線が閉鎖してくる年代である15-19歳および20-24歳で肘関節内側支持機構である内側側副靭帯再建術の件数が年々増加傾向であることが報告されており(Mahure 2016),内側型野球肘は理学療法士が臨床でよく出会うスポーツ疾患のうちの1つであると考える.障害予防として,日本では全国各地で野球肘検診が行われており,学童期からケガに対する選手の教育を行い,早期発見・早期治療により重症化や手術移行を予防する,いわゆる2次予防の取り組みが行われている.加えて,投球動作の動作解析や身体機能との関連性の調査,障害予防プログラムの考案,投球制限の推奨などが進められており野球肘の予防は大きなテーマとなっている.オーバーワークの予防を目的とした推奨される投球数に関しては,日本臨床スポーツ医学会による「青少年の野球障害に対する提言」やメジャーリーグの公式ホームページで公開されている「Pitch Smart」にて年代別に上限となる投球数が提唱されているが,明確な根拠は見当たらない.我々の研究チームでは,およそ8年前から反復的な投球により生じる肘関節内側組織への負荷に着目し,高校野球選手を対象に反復した投球中に超音波画像診断装置を用いて肘関節内側組織を評価し,反復投球中における肘関節内側組織の経時的変化の検証を進めてきた.その結果,投球60球にて肘関節外反動揺性の有意な増加(Hattori 2018)や投球100球にて静的安定化機構の内側側副靭帯の緩み(Hattori 2021),そして動的安定化機構の前腕屈曲回内筋群の機能低下(服部,第8回日本スポーツ理学療法学会学術大会)などが徐々に明らかになってきている.本シンポジウムでは,反復した投球動作が肘関節内側に与える影響に関するこれまでの研究をまとめて提示するとともに,我々の研究チームのこれまでの研究で得られた知見や,今後の野球肘の障害予防に向けた基礎研究について紹介し,議論を進めていきたい.
シンポジウム2:理学療法の創造,革新-未来に貢献する理学療法-
  • 竹中 菜々
    p. 64-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    iPS 細胞の医療応用を目指した研究は,近年目覚ましく進展している.様々な疾患や損傷を対象とした多くの研究の中には,すでに基礎研究の段階を突破して,患者を対象とした臨床研究の段階に進んでいるものも少なくないが,それらの研究は,大きく二つの戦略に区分される.一つは,患者由来iPS細胞を利用した「病態解明及び創薬」を目的とした研究であり,もう一つは,健常者由来iPS細胞か,もしくは遺伝子編集等の技術により変異を修復させた患者由来iPS細胞を移植することで,損傷や疾患により欠損したり機能不全に陥っている組織の回復を目指す「再生医療」の研究である.本講演では,これら二つのうち,再生医療研究にフォーカスして最新の研究成果をご紹介する.再生医療研究とひとくくりにした中にも,浮遊させた細胞を対象となる組織に局所的に注入する方法や,経血管的に全身に投与する方法,細胞をシート状にして組織に貼り付ける方法,または,生体外で臓器そのものを作製して生体内に移植する方法等,様々な方法が確立され,それぞれの研究が着実に進行している.またその一方で,再生医療単独での治療効果には限界があるということも認識されはじめ,再生医療に理学療法介入を併用した際の治療効果促進作用についても,まだ数は少ないながらもいくつかの研究グループから報告されている.我々の研究グループでは,種々の難治性筋疾患をターゲットとし,再生医療を含む,様々な新規治療法の開発を目指した基礎研究を進めている.中でもデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)を対象とした再生医療については,iPS細胞に由来する筋幹細胞を患者の筋組織に移植 し,筋組織中にジストロフィンのタンパク質を補うことで病態を改善し根治させることを目指し,モデル動物を用いた研究が進行している.しかしながら,組織学解析ではジストロフィンの発現回復が確認されても,運動機能を健常レベルにまで回復させることは非常に難しく,細胞移植単独の治療では未だに達成できていない.そこで,細胞移植による治療効果の最大化を目指し,等尺性収縮トレーニングや自発走行トレーニング等,様々なトレーニング介入を併用することを検討し,その有効性を証明することにも成功している.本講演をお聞きいただくことで,「iPS細胞を用いた再生医療が現実として臨床に応用される時が,もう目の前まで来ている」ということ,そして,「iPS細胞を用いた治療による効果を最大化するためには理学療法介入が必須である」ということを実感していただけるような機会となればと考えている.
  • 森 公彦
    p. 65-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    片麻痺歩行に対するロボットリハビリテーションが普及している一方で,歩行回復に麻痺肢の関与を高める方略は十分に理解されていない.麻痺肢推進力は,立脚後期のTrailing Limb Angleや足関節底屈モーメントの寄与により,歩行速度や歩行持久力に影響を及ぼし,生活行動範囲を決定づける要因となる.外骨格ロボットでありながら末端効果器に作用する足関節底背屈アシスト歩行トレーニングでは,推進力の左右対称性向上を含めた麻痺肢の寄与を高めることが知られている(Bae J et al. 2018).このような研究で使用されるモーター駆動式のロボットでは,バックドライバビリティの低下すなわち足関節の速い関節運動で発生できる底屈トルクが減少し,摩擦力により足関節運動がぎこちなくなりやすい.これらの問題に対処するために,第一の課題として,我々が国際電気通信基礎技術研究所(ATR)と共同で開発した短下肢装具脱着式ロボットは,空気圧人工筋によって十分な底屈トルクが発揮可能であり,高いバックドライバビリティを実現した.また,足底部の圧センサー情報は,歩行の位相と同期した制御により速度変化にも対処でき,荷重フィードバックを付与できる.これらによる集中的なアシスト歩行練習が,麻痺肢の運動学的,運動力学的変化をもたらした.しかしながら,アシスト設定は対象者ごとに調整されるため,第二の課題として,片麻痺歩行において注目するべき生体力学的特徴に基づいた効果的なアシスト設定を検証してきた.さらに熟練した理学療法士が,どのような歩行特徴がある患者にロボットを適用し,アシスト設定を決めるのかという知識は標準化されておらず,ロボットリハビリテーションの汎用化を目指した実践プログラムを作成することが第三の課題となった.そこで,臨床教育ワークショップを計画・実施し,ワークショップ後のリハ専門職の自己効力感の変化を分析した.さらに,プログラムを受けた理学療法士が片麻痺患者を対象としてロボット歩行トレーニングを実践し,麻痺肢推進力や患者の歩行に対する内観の変化を分析した.片麻痺歩行トレーニングの技術と知識のパッケージとして,新たなロボットを活用したリハビリテーションが,未来の高度医療を実現する理学療法士育成に貢献することが期待される.本研究の一部は,AMED委託研究(JP22he2202017)および一般財団法人加多乃会の支援を得て実施した.
  • 植田 拓也
    p. 66-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    介護予防・フレイル予防は,行政が提供者で住民が受給者のハイリスクアプローチから,住民が主役で行政は支援者の通いの場を主戦略としたポピュレーションアプローチに大きく変化した.介護予防マニュアル(第4版:令和4年3月)によれば,介護予防の目的は,個人レベルでは,身体機能や栄養状態の改善による,生活機能(活動や社会参加)の向上と生きがいや自己実現により,生活の質(Quality of Life;以下,QOL)の向上を目指すことである.また,社会レベルの目的は,要介護になっても生きがいを持って生活できる地域づくりである.つまり,個人のQOLの向上に加え,フレイルや要支援・要介護,認知症になっても,望めば参加し続けられ,QOLの向上を期待できる社会や地域づくりが,介護予防の主戦略である通いの場推進の真の目的といえる.介護予防における専門職の役割も,個別支援と地域づくりに分けられる.個別支援で求められるのは,「やりたい」を引き出し,「できる」を増やす支援である.これは,自立支援の視点を踏まえた支援といえる.具体的には,アセスメント結果から,本人に実現可能な目標の選択肢を示し,選択してもらうというプロセスが重要となる.なお,ここで使う「自立」は,自己選択の自立である.しかし,患者や利用者の生活機能や意欲が向上しても,再度参加できる地域でなければ社会参加にはつながりにくい.そのため,地域づくりに求められるのは,「やりたい」を実現できる地域,「やりたい」を口に出せる地域の実現である.通いの場の主役は,住民であり,自治体職員や専門職は支援者である.通いの場における支援者の役割は,住民の動機付け,つまり「やる」を引き出す支援である.具体的には,通いの場の立ち上げや継続を選択肢として示し,住民に選択してもらうというプロセスが重要となる.本人(住民)に選択肢を示し,選択権を本人(住民)に付与する点で個別支援と通いの場支援の役割は共通する.急性期,回復期での心身機能の向上は重要なアウトカムであるが,在宅復帰後の生活の充実こそが最終的なアウトカムである.在宅復帰後の患者や利用者のQOLの維持・向上に向けて,個別支援に加え地域づくりに理学 療法士等のリハビリテーション専門職が関わる意義は大きい.本発表では,誰もが参画できる社会への変革に向けた理学療法士の役割と展望について論じたい.
市民公開講座
  • ~東京2020パラリンピックと パリ2024パラリンピックに向けて
    陶山 哲夫, 鳥居 昭久, 近野 智子, 菊地 みほ, 井川 大樹, 滝澤 幸孝
    p. 67-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    障がい者スポーツの発展は1943年英国のStoke Mandeville Hospitalの医師Ludwig Guttmann博士 によりリハビリテーションの一環として行われ,1952年オランダで国際ストークマンデビル大会として初めて 国際大会と認知された.1960年ローマで第1回パラリンピック大会,1964年第2回東京パラリンピック競技 大会が開催され,1980年知的障害と視覚障害の参加が認められ,また冬季パラリンピックが開催され,以後 現在まで益々興隆の一途を辿っている.  近年,日本障がい者スポーツ協会(後にパラスポーツ協会)の Vision として選手の競技力の強化と地域に おけるスポーツへの貢献により「共生社会の促進」を強調しており,更に五輪・パラリンピック競技大会開催後の レガシーについて種々論じられている.東京2020パラリンピックのレガシーは政治,経済,都市計画, スポーツ強化など多方面に渡る検討が必要であるが,今後障がい者が地域において身近でスポーツを行える ようにするには,「受け手,支え手」などの地域行政を含め,地域における福祉的観点からの制度の確立と地域 社会の支援が必須である.
一般演題
  • 吉川 大志, 國友 公太, 松本 侑樹, 菅田 伊左夫
    p. S-001-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 脳卒中者における歩行変動性は歩行制御や安定性の指標であり, その中の歩行周期時間変動性は転倒の予測因子と報告されている. 歩行周期時間変動性は歩行自立度にも影響するため,自立度に応 じた参照値を示すことで歩行自立度の進捗確認や自立判定に役立 つ可能性がある.本研究の目的は歩行自立度に応じた歩行周期時 間変動性の参照値とともに,歩行自立を判別するためのCut off 値を示すことである. 【方法】 対象は回復期リハビリテーション病棟に入院中の脳卒中患者84名 (男性53名,女性31名,65.8±13.0歳)である.歩行パラメータ はウォークWay MW-1000(アニマ社製)を用いて,合計10歩行 周期分の歩行周期時間を収集し,変動係数(CV)を算出した.歩行 自立度はFunctional Ambulation Categories (FAC)で評価 した.まず,FAC 2-5それぞれで歩行周期時間CVの参照値を 算出し,Kruskal-Wallis検定で比較した.次に,従属変数を歩行 自立当否,独立変数は歩行周期時間CV,歩行速度,Fugl-Meyer Assessment(FMA)下肢,FMA バランスとしたロジスティック 回帰分析を行った.最後に,歩行自立を判別する歩行周期時間CV のCut off値はROC曲線を作成し,Youden指標から抽出した. 有意水準は5%とした. 【結果】 歩行周期時間CVの参照値は,FAC 2:7.35%,FAC 3:4.31%, FAC 4:3.45%,FAC 5:2.86%であり,FAC 4と5以外に有意 差を認めた.ロジスティック回帰分析の結果,歩行周期時間CVと FMAバランスが歩行自立当否に関連する有意な因子として選択され, Hosmer-Lemeshow検定はp=0.853であった.歩行周期時間CV のCut off値は4.66%であり,感度:97.3%,特異度:66.0%, AUC:0.898であった. 【考察】 歩行自立度が上がると歩行周期時間CVは低下し,自立歩行を判別 するための歩行周期時間CVのCut off値は4.66%と推定された. AUCは中程度の判別能を有し,回帰モデルの適合度は良好である と考えられた. 【倫理的配慮, 説明と同意】 研究参加者には口頭および文書で説明し,書面にて参加同意を得た. また,本研究は汐田総合病院倫理委員会の承認を得て実施している (承認番号:R-ushioda-2021-3).
  • -自覚症状と血液データによる運動負荷量の検討-
    木山 厚, 平野 健大, 茂木 茜, 川島 一稀, 池田 龍司, 中山 恭秀
    p. S-002-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 本症例は画像検査上,脳脊髄に異常所見がなく,自己免疫疾患や 悪性腫瘍など関連しうる病態が否定されたものの,脊髄炎に類似 する症状が亜急性に増悪した症例である.その病態からNormalappearing Imaging-associated, Neuroimmunologically Justified, Autoimmune encephalomyelitis(NINJA)が疑わ れた.この特異的な病態に対する運動負荷量の工夫と骨格筋量の 変化および症状改善の経過について報告する. 【症例紹介】 50歳台男性,病前ADL自立.X-3MにCOVID-19発症,X-1M より異常感覚,X日に脊髄炎の診断にて入院した.治療は免疫抑 制療法,血漿交換療法と並行して理学療法が行われた. 【経過】 X+3日より理学療法を開始した.骨格筋量は,X+3日に31.4kg, X+40日に28.9kg,X+70日に27.8kg,X+100日に29.7kg, X+180日に34.0kgと変化し,歩行能力は,X+3日に監視,X+40 日に介助,X+70日に監視,X+100日に自立した.最も症状が 増悪したX+40日の所見は,L1以下の運動麻痺,L3以下の温痛覚 障害,両下腿三頭筋の痙縮(MAS:右2左1+)を認め,歩行は, 短下肢装具と平行棒を使用して行った. 【介入と結果】 運動負荷量は,初期介入時Borgスケール11を上限とし,X+60 日以降にBorgスケール13,X+100日以降,運動負荷の制限を撤 廃した.運動負荷の変化に伴いCRP値,CK値をモニタリングした が,病態に影響しうる異常値は確認されなかった.運動麻痺,温 痛覚障害,痙縮はX+180日でほぼ消失した. 【考察】 本病態に対する運動療法は,確立された報告がない.そこで,多発 性硬化症に類似する症状であることを考慮し過用症候群を予防する 目的でBorgスケールにて運動負荷量を調整し,血液データの推移 を確認しながら進めた.この結果,本症例は運動負荷に伴う症状 の増悪がなく,発症180日で症状の改善に至った.本症例への一 連の運動療法における負荷量の設定は,安全に治療を行う一助に なったと考える. 【倫理的配慮,説明と同意】 症例報告を学会発表することについて,説明・同意文書に基づき説明 し,症例本人に同意を得た.
  • 川端 空, 小曽根 海知, 峯岸 雄基, 岡 優一郎, 寺田 秀伸, 高須 千晴, 小島 拓真, 加納 拓馬, 金村 尚彦, 村田 健児
    p. S-003-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 慢性足関節不安定症(以下,CAI)では足部感覚運動機能が低下する ため,足関節捻挫再発の原因とされている.CAIに対する効果的 な運動療法は存在せず,足関節捻挫の再発予防における次のステップ としてCAIの発症予防への着手が必要である.しかし,CAI発症 メカニズムは未だ不明であり,発症予防への取り組みを困難にさ せているのが現状である.そこで,本研究では足部感覚運動機能 を司る足部靭帯内の機械受容器に着目し,機械受容器の変性と足 部感覚運動機能との関連からCAI発症メカニズムを明らかとする ことを目的とした. 【方法】 4週齢Wistar系雄性ラット30匹を踵腓靭帯の切断による足部不安 定を有する群(以下,Ankle Joint Instability; AJI群)と偽手術群 (SHAM群)に無作為に分けた(各n=15).梯子や平均台を渡る間 の足部スリップ様式・数から足部感覚運動機能を評価する行動試験 を術後より2週に1回計4回実施した.無処置の前距腓靭帯を対象 とした組織学的解析より,機械受容器の変性を示す数量変化を調査 した(術後4, 6, 8週で各群n=5). 【結果】 足部スリップ数はAJI群で基準値に比較して術後6週以降に有意に 増加した(ρ=0.045).前距腓靭帯内機械受容器の数は術後8週に おいて,AJI群に比較してSHAM群で有意に減少した(ρ<0.001). さらに,足部スリップ数は機械受容器数と負に相関した(ρ<0.001). 【考察】 足部スリップ数の経時的な増加は,過去のCAIモデルにおいても 観察される結果であり,足部感覚運動機能の低下を示すとともに CAIの発症を示唆する.また,靭帯内機械受容器数と関節位置覚 との間に正の相関関係が分かっており,本研究で得られた機械受容 器数の減少に伴う足部スリップ数増加(CAIの発症)は,機械受容器 数の減少による足部関節位置覚の低下に起因する可能性がある. 【結論】 CAIは,足関節捻挫後に生じる足部不安定性が導く足部靭帯内機 械受容器の変性により発症する可能性がある. 【倫理的配慮,説明と同意】 埼玉県立大学実験動物倫理委員会の承認を得た後,動物実験基本 計画書ならび実施計画書に従い実施した (承認番号: 2021-1). 実験動物に対し外科的介入への疼痛軽減措置を実施し,実験に用 いる動物数は最小限にとどめた。
  • 須長 拓真
    p. S-004-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 本症例は麻痺側の下腿三頭筋の筋緊張亢進により,起立動作時に 後方へバランスを崩していたため2人介助が必要であった脳梗塞右 片麻痺患者である.振動刺激療法を行い筋緊張の抑制を試みたと ころ,立ち上がりの前方への重心移動の即時的な改善を認め,介助 量の軽減が可能であったため以下に報告する. 【方法】 症例は80歳台の男性であり,左中大脳動脈領域の脳梗塞にて当院 に入院した.足関節の他動背屈角度は0°,感覚は健側に対し麻痺 側が2/10,Modified Ashworth Scale(MAS)は2,足クロー ヌスは陽性,BRSは上下肢共にⅠであった.立ち上がりは体幹前傾 が不十分であり,離殿相において後方へバランスが崩れるため, 2人介助が必要であった.麻痺側下腿三頭筋の筋緊張抑制を目的と してハンディーマッサージャーを使用した振動刺激療法を実施した. 端座位の状態で右足関節底背屈中間位としアキレス腱部分に対して 1分間76Hzの振動刺激を与え,その即時効果を検証した. 【結果】 足関節の他動背屈角度は10°,感覚は6/10,MASは1,足クロー ヌスは陰性であり,振動刺激の実施により足関節他動背屈可動域, 感覚機能検査,MAS,クローヌスの項目で改善を認めた.起立動 作中の後方への姿勢崩れが少なくなり1人軽介助で可能となった. 【考察】 振動刺激によってMASが改善し,それに伴い足関節背屈可動域も 改善を認めた.足関節背屈可動域は起立動作における重心の前方 移動に影響を与える因子であることから起立動作時の後方へのバラ ンス崩れが軽減し,立ち上がり動作の改善を認めたと考えられる. 一方,感覚機能検査においても改善を認めた.振動刺激による運動 錯覚が固有感覚機能を惹起したことも,立ち上がり動作の改善に 寄与したと推察される.よって振動刺激療法は筋緊張・感覚の両方 に好影響を与えることから,臨床において有用なツールとなると 考えられる. 【倫理的配慮,説明と同意】 発表にあたり,所属施設の倫理審査委員会の承認を得た.本人・家族 に症例報告の内容・主旨および個人情報保護の方法について説明を 行い書面にて同意を得た.
  • 小見 大和, 小糸 郁也, 山本 蒼海, 吉田 千尋, 春山 幸志郎
    p. S-005-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 視覚情報は障害物回避動作において重要であり,視野制限は安全 な歩行動作に影響を及ぼす可能性がある.本研究では歩きスマホ 中の視野制限が障害物跨ぎ動作に与える影響について明らかにする ことを目的とした. 【方法】 対象は健常若年者20名(平均年齢21.7±0.5歳,女性14名・男性 6名)とした.通常歩行,スマホ注視歩行,スマホ注視歩行のうち 2秒に1回スマホから目線を外した歩行の3つの歩行条件において, 高さの異なる2種類の障害物(3cm,15cm)に対する10m以上の 直線歩行路上で障害物跨ぎ動作を無作為に各3試行実施した.3次 元動作解析装置を用いて床面-つま先間の距離,ストライド長, 歩行速度を測定し,条件間で比較した.加えて,歩きスマホの習慣 度別に慣れ群と不慣れ群に分類し,習慣度による測定値の比較を 行った. 【結果】 歩きスマホを行った2つの条件下では,通常歩行と比較してスト ライド長と歩行速度が障害物の高さに関わらず有意に低下し (p<0.05),3cm高の障害物に対する跨ぎ動作時のみ,床面-つま 先間の距離が有意に増加した(p<0.05).また,歩きスマホの慣 れ群では不慣れ群と比較し,通常歩行も含めた3条件全てにおいて ストライド長,歩行速度が有意に低下した(p<0.05). 【考察】 歩きスマホ条件下においてストライド長と歩行速度の低下がみら れた要因としては,障害物に対する視覚情報の減少や注意分配の 減少が考えられた.さらに,高さの低い障害物では,物体認識する ことがより困難となり,床面-つま先間の距離を増大させて回避 している可能性がある.習慣的に歩きスマホを行っている者は, 歩行時の障害物回避に対する予備的な戦略として通常歩行時に おいてもストライド長と歩行速度が低下することが考えられた. 【結論】 歩きスマホによる視野制限は,障害物の視覚的認識を困難にさせ 歩行動作に影響を与えることが示唆された. 【倫理的配慮,説明と同意】 本研究は,順天堂大学保健医療学部倫理委員会の許可を受けて いる.ヘルシンキ宣言に則り,研究対象者へ口頭と書面によるイン フォームド・コンセントを行い,書面による研究同意を得たうえで 実施した.
  • 池田 龍司, 茂木 茜, 川島 一稀, 平野 健大, 木山 厚, 中山 恭秀
    p. S-006-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 本症例はアキレス腱断裂を契機にアルカプトン尿症と診断された 症例である.アルカプトン尿症は腱断裂や関節炎などを合併する 疾患であり,この疾患を併存する症例のアキレス腱断裂後の運動 療法の報告は少ない.今回,装具療法の併用により,再断裂などの 症状増悪はなく,ADL能力の向上に至ったため,その経過を報告 する. 【症例紹介】 症例はアルカプトン尿症と診断された80代の女性である.X-12月 に転倒し,左脛骨内果骨折と左アキレス腱断裂を受傷し,観血的 整復固定術とアキレス腱縫合術が施行された.X-6月に右アキレス 腱付着部断裂の診断に対して,保存加療された.X-4月には左右 のアキレス腱断裂の原因がアルカプトン尿症であると診断された. その後,左アキレス腱周囲の創傷治癒不全に対して,X-1月にデブ リードマン,X月Y日に動脈皮弁術を施行された. 【経過】 X月Y+13日の右足関節背屈可動域は35°と過可動性を認め,左は -10°と底屈拘縮を認めた.立位での荷重練習はY+16日から開始 し,エコーにて右アキレス腱の断裂がないことを確認できたY+26 日から歩行練習を開始した.歩行によるアキレス腱の再断裂を防止 することを目的に装具療法を併用した.歩行練習開始時,右は 背屈制御,左は底屈位固定と踵に補高した金属支柱付き短下肢装 具を装着した.Y+29日より,右はプラスチック短下肢装具,左は踵 の補高のみとした.Y+49日からは,湯の児式短下肢装具を右下肢 のみに装着した.Y+55日には杖歩行と階段昇降は自立し,エコー では左右アキレス腱に問題所見は認めなかった. 【考察】 本症例を通して,アルカプトン尿症によるアキレス腱断裂後の症例 に対して,再断裂予防とADLの向上を図るためには運動療法と, 装具療法の併用が有効であると考えた.また,再断裂なく,ADLの 向上に至ったが,装具変更時にエコー検査することで理学療法の 安全性をより高めることができるのではないかと考えた. 【倫理的配慮,説明と同意】 本人に紙面上にて倫理的配慮の内容を説明し,同意を得た.
  • 鈴木 啓司, 林 聡史
    p. S-007-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(以下 心リハガイドライン)において,対象患者の高齢化に加え,各種基礎 疾患や併存疾患によりフレイルを有する患者は増加しており標準 的運動ガイドラインを適応できない患者への対策が大きな課題と されている.そこで当院外来心臓リハビリテーション(以下CR)に おけるフレイル患者の特性を明らかにすることを目的として,フレ イルの有無と疾患の関連を調査する. 【方法】 分析にあたり外来CR患者92名を対象とし,算定病名をもとに虚 血性心疾患患者(以下CAD)群45名と慢性心不全患者(以下CHF) 群47名に分類した.2群間の日本フレイル基準によるフレイル度 (ロバスト群,プレフレイル群,フレイル群)の差を明らかにする ためにχ2 検定を行った.加えて効果量(Cramer’sV)を算出した. また,クロス集計表からどの組み合わせが期待値から大きく乖離 しているかを確認するために残差分析を行い,調整済み残差を算出 した.統計学的有意水準は5%とした. 【結果】 解析対象者はCAD群45名(70.3±8.4歳,女性44.4%),CHF群 47名(74.2±12.7歳,女性63.8%)であった.全体に占めるフレ イル度の割合は,ロバスト・プレフレイル・フレイルの順にCAD 群が28.3%・15.2%・5.4%,CHF 群が10.9%・16.3%・23.9% であった.χ2 検定の結果,CAD群・CHF群の2群とフレイル度と の間には有意差が認められ,中等度の連関性が見られた(χ2値= 17.81,df=2,P<0.01,V=0.44).残差分析の結果,CAD群で はロバスト群(P<0.01)が有意に多く,CHF群ではフレイル群 (P<0.01)が有意に多かった.プレフレイル群はCAD群・CHF群 で差はなかった. 【考察】 外来CRにおいてCHF患者のフレイル罹患率が高いことが示唆 された. 【結論】 心リハガイドラインに記載のある標準プログラムを用いた外来CR では,フレイルを有する患者への適応ができないことも少なくない. CHF例ではフレイルを有する割合が多く,患者の状態に応じた個別 の理学療法プログラム実施や医療介護連携を含めたシームレスな 運動継続のための方策が重要である. 【倫理的配慮,説明と同意】 患者に対し十分説明し,対象になることについて同意を得た.
  • 小山田 知弘, 小林 将生, 四元 憲太郎, 瓦林 毅, 臼田 滋
    p. S-008-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 皮質脊髄路の健全性を拡散テンソル画像によるFractional Anisotropy(FA)にて定量的に評価が可能であるが,麻痺側下 肢筋力との関連性は十分に検討されていない.本研究の目的は回 復期脳卒中患者において,退院時の下肢筋力の非対称性,退院 時までの麻痺側下肢筋力の変化量と皮質脊髄路の健全性との関 連性を検討することである. 【方法】 回復期初発脳卒中患者18名を対象とし,回復期病棟入棟時,退院 時にHand Held Dynamometer(HHD)にて両側股関節屈曲・ 伸展,膝関節伸展,足関節背屈筋力を測定した.退院時の筋力の 非対称性(麻痺側/非麻痺側),麻痺側下肢筋力の変化量(退院時入棟時)を算出した.入棟時に拡散テンソル画像を撮像し,中脳大 脳脚FAを算出し,損傷側/非損傷側にてFA比(rFA)を算出した. 統計解析は退院時の筋力の非対称性,麻痺側下肢筋力の変化量と 中脳大脳脚 rFAとのSpearmanの順位相関係数を算出し,有意 水準は0.05とした. 【結果】 対象者の筋力の非対称性は股関節屈曲0.89±0.3・伸展0.87±0.2, 膝関節伸展0.77±0.3,足関節背屈0.69±0.3,麻痺側下肢筋力 の変化量(N/kg)は股関節屈曲0.72±0.5・伸展0.76±1.3,膝関 節伸展0.45±0.8,足関節背屈0.75±0.7であった.中脳大脳脚 rFAは0.9±0.1であった.rFAと非対称性はρ=0.48~0.74と有 意な相関を認めたが,変化量はρ=-0.07~ -0.278で,有意な相関 を認めなかった. 【考察】 皮質脊髄路の健全性と麻痺側下肢筋力の変化量には有意な相関 は認められず,他の因子を含め検討していく必要があると考えら れる. 【結論】 皮質脊髄路の健全性は退院時の下肢筋力の非対称性との関連を 認めたが,麻痺側下肢筋力の変化量との相関が認められなかった. 【倫理的配慮,説明と同意】 本研究は老年病研究所附属病院の倫理審査委員会で承認を受け, 対象者に説明し,書面にて同意を得た.
  • 髙橋 優, 濱崎 圭祐, 梅原 弘基, 阿部 愛, 黒川 純
    p. S-009-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 膝前十字靭帯(ACL)再建術後患者の主観的パフォーマンスとの 関連因子としてSingle Leg Hop(SLH)健患比の評価が代表的で ある.しかし,SLH健患比は健側値の低下により過大評価となる 可能性が報告されていることから,跳躍距離を身長で正規化した 値(身長比)を用いた報告が散見されている.本研究の目的はACL 再建術後の主観的パフォーマンスとSLHについて,SLHの算出方 法に着目して検討を行うことである. 【方法】 対象は2020年4月から2022年3月までに当院にてハムストリング 腱を用いた初回ACL再建術を施行し,術後12カ月時評価でスポー ツ復帰していたTegner Activity Scale 4以上の患者44例(男性 9例,女性35例,平均年齢17.1±2.8歳)とし,術後12カ月時の 主観的パフォーマンスが90%以上の20例を良好群,90%未満の 24例を不良群に分類した.検討項目は SLH 距離(患側),SLH 健患比,SLH身長比(患側)とした.統計解析は,良好群,不良群 におけるSLH 距離,SLH健患比,SLH 身長比について,2標本 t検定およびMann-Whitney U検定を用いて検討した.統計処理 はRコマンダー4.2.2を使用し,有意水準は5%とした. 【結果】 SLH距離は良好群126.3㎝・不良群122.7㎝,SLH健患比は良好 群95.9%・不良群93.9%,SLH身長比は良好群78.0%・不良群 75.7%であり,両群間で有意差を認めなかった. 【考察】 本研究ではSLHについて3つの算出方法に着目して検討したが, いずれにおいても有意差を認めなかった.主観的パフォーマンス には筋力やより複雑なパフォーマンステストも含めて検討する必要 性があると考える. 【倫理的配慮,説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に沿って,個人情報保護に配慮し実施した.
  • 野村 晃裕, 中村 高仁, 山崎 弘嗣
    p. S-010-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 ヒトの3次元での多関節運動を分析するパラメータとして,運動中 に刻一刻と変化する瞬時回転軸の位置と傾きがあり,近年,スク リューアクシス法による算出法が提案されている.本研究の目的は, 使用する標点マーカ位置の選択法が瞬時回転軸の位置,傾きの精度 (変動)に与える影響を単軸模型を用いて検証し,生体分析における 基礎資料とすること. 【方法】 2つの立方体模型(剛体A,B)を1軸蝶番で固定し合計9つ(蝶番に 1,剛体A,Bに4つずつ)の赤外線反射マーカを貼付した.剛体A をBに対し軸周り(x軸)に90°回転させた.運動中のマーカ位置を VICON(100Hz)を用い測定した.回転中の2時点のマーカ位置 情報からその区間の瞬時回転軸1つがスクリューアクシス法で計算 できる.ここでは回転中の2時点をブートストラップ法にて計100 回分ランダムに選び,瞬時回転軸の位置,傾きの95%信頼区間を 計算した. 【結果】 瞬時回転軸の位置の平均値まわりの分布でx座標が -0.17-0.17 mm,y座標が-0.54-0.54mm,z座標が-0.65-0.65mmで あった.傾きを表す単位ベクトルx成分は1.00,y成分0.0-0.01, z成分0.01であった. 【考察】 瞬時回転軸の傾きのyz成分の変動は1%以下であり安定していた. 位置は信頼区間の差がx座標0.34mm,y座標1.08mm,z座標 1.31mmでいずれも1.5mm以下の精度で計算でき,計測における 信頼性は高く,生体分析の基礎資料にも活用可能だと考える.また, 瞬時回転軸の位置の信頼区間に影響を与えた因子に,実験で用 いた蝶番の遊び(0.3mm)と,マーカのノイズ(0.15~0.44mm) による影響が考えられる. 【結論】 単軸模型の運動において,瞬時回転軸の正確な計測が可能であった. 今後,ヒトを対象に瞬時回転軸を測定し運動分析の高度化に繋げて いくことが重要である. 【倫理的配慮,説明と同意】 埼玉県立大学倫理委員会の承認を得た(承認番号:22511).
  • 沢田 達也
    p. O-001-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 脳卒中治療ガイドライン2021において,下垂足を呈する脳卒中患 者に対して,歩行機能を改善させるために機能的電気刺激(FES) を行うことは妥当(推奨度B,エビデンス高)だが,継続使用して もFESの装着が不要になるほどの歩行機能改善が得られることは 確認されていない.本症例にてOG Wellness社製IVESパワー アシストモードを前脛骨筋に使用した結果,IVESや下肢装具なし で歩行自立を獲得したので報告する. 【症例】 年齢50歳台,女性,疾患名は右被殻出血(血腫量:9ml,保存 療法),発症後第24病日で急性期病院から回復期病院へ入院.障 害名は左片麻痺,歩行障害.発症前のADLは全て自立.理学療 法評価と介入結果は以下の通り.< IVES 開始時(第38病日) →1ヶ月間使用後>BRS下肢はV→V,SIAS下肢運動は4/3/3 →4/4/4.MASは下腿三頭筋1+→0.深部感覚は軽度鈍麻→鈍 麻なし.ROM下肢は著明な制限なし.MMTは麻痺側下肢3(前脛 骨筋3)→4(前脛骨筋4),非麻痺側4→5.10m歩行は11.2秒・ 21歩→9.3秒・19歩.TUGは14.4秒→10.4秒.BBSは50点→ 54点.FIM歩行は4→7.歩行の特徴は,IC:踵接地→踵接地,LR ~MSt:身体重心の過度な下降→過度な下降の軽減,TSt:下肢 は軽度屈曲位→伸展位,Swing:フットクリアランス低下→改善を 認めた.主な理学療法は,IVESパワーアシストモードでの歩行練習 と自重を利用した下肢筋力増強練習など.IVES使用頻度は30分/ 回,5日/週,1ヶ月間. 【考察】 FESや下肢装具なしでの歩行の自立獲得の要因の一つに,前脛骨 筋にIVESを使用することで,①歩行の立脚初期に前脛骨筋の遠心 性収縮で倒立振子運動の破綻の軽減と立脚後期の下肢伸展運動の 改善,②その後の遊脚振子運動の形成と下垂足の改善,③拮抗筋 の下腿三頭筋に対し相反抑制による筋緊張亢進の改善が寄与した と考える. 【結論】 下垂足を呈する脳卒中軽度片麻痺者に対するIVESの使用は,歩行 能力の改善に寄与する可能性があると考える. 【倫理的配慮,説明と同意】 本症例報告は患者に報告の趣旨について十分説明し,同意を得た.
  • 小川 秀幸, 三井 直人, 厚川 和哉, 小島 志保, 常名 勇気, 笠井 健治, 水田 宗達
    p. O-002-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】 転倒は骨折など直接的な運動阻害要因となるだけでなく,転倒 恐怖感など間接的にも活動性低下の原因となる.パーキンソン病 (以下,PD)の転倒原因は,無動や固縮,姿勢反射障害などの運動 症状だけでなく,認知機能低下など非運動症状も関連することが 報告されている.本研究は,PDにおける転倒の要因を運動症状や 非運動症状も含めて多面的に検討することを目的とした. 【方法】 対象は令和3年4月から令和4年3月まで当院神経難病センターに 入院したPD患者69名とした.調査項目(入院時)は,過去6ヶ月 間の転倒の有無,PDの重症度(MDS-UPDRS PartⅢ),バランス 能力(Brief-BESTest),認知機能(Moca-J) ,転倒恐怖感の有無 とした.統計解析は,転倒の有無を従属変数とし,それ以外の項目 を独立変数に多重ロジスティック回帰分析を実施した.変数の選択 は尤度比検定による変数増加法を用いた.サブ解析として下位項目 と転倒との関連を群間比較した.有意水準は5%とした. 【結果】 転倒群45名,非転倒群24名であった.PD患者の転倒に関連する 要因として抽出されたのは,バランス能力(オッズ比=0.87,95% CI:0.78-0.97,p<0.01),判別的中率は67.3%であった.ま た,転倒とBrief-BESTest下位項目で有意差を認めたのは,Ⅳ.反 応的姿勢制御(p=0.02)と,Ⅵ.歩行安定性(p<0.01)であった. 【考察】 PDの転倒に関連する要因を多面的に検討した結果,Brief-BESTest が抽出された.特に,側方安定性やTUGに着目することで転倒防止 につながる可能性が示唆された.一方,非運動症状である認知機能 低下は多変量解析では抽出されなかった.今回実施した認知課題 だけでは転倒を予測することは難しく,運動課題と認知課題を同 時に評価するような二重課題での評価が重要だと考える. 【倫理的配慮,説明と同意】 本研究は,当院倫理審査委員会の承認(承認番号:R5-03)を得て 実施した.また,後方視的研究のため,オプトアウト方式で研究 情報をホームページ上で公表し情報提供の拒否や問い合わせを 受け付けた.
  • -脊髄損傷評価の改善に応じた電動車椅子の選定-
    島袋 尚紀, 愛知 諒, 別役 訓子, 清水 健, 近藤 怜子
    p. O-003-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 頚髄損傷者にとって車椅子(以下,W/C)は日常生活の移動を代替 する福祉用具であり,とりわけ高位頚髄損傷者は上肢の残存領域 が限られるため,電動W/Cで移動する症例を散見する.しかしなが ら,電動W/Cの選定を進める上での評価は,現状では医療専門職 などの経験則に依存する側面が多い.そこで今回,高齢の高位頚髄 不全損傷患者に対して,各脊髄損傷評価の改善に応じて電動W/C を段階的に選定することで,簡易型電動W/Cでの移動が自立に至っ たため報告する. 【方法】 対象は転倒により第4頚髄損傷を受傷した70代前半の女性.受傷 (X日)後は急性期病院で加療,X+44日で当院へ転院.脊髄損傷評 価はISNCSCIの運動スコアとISAFSCIの自律神経機能,体幹機 能評価はTASSを用いた.入院時評価はNLIがC4,AISはC,左側 (操作側)上肢運動スコアは6/25点,5分程度の座位で起立性低血 圧症状が出現(ISAFSCI:3/6点),端座位保持は不可(TASS:0/44 点)であった. 【結果】 X+101日,左手指機能の改善(C8:Grade1から2)にあわせて操 作レバーを十字ノブ,車種を電動リクライニングティルトW/Cへ 変更し,棟内移動が自立. X+146日,起立性低血圧症状の改善と 左手関節機能の改善(C6:Grade1から2)にあわせて簡易型電動 W/Cへ変更し,棟内移動が自立.退院時評価は,左側上肢運動 スコアが11点,座位時の起立性低血圧症状は改善(ISAFSCI:6点), 端座位保持は監視レベル(TASS:16点)となった. 【考察】 第4頚髄損傷者に対して身体状況の変化に応じた介入を行い,簡易 型電動W/Cでの移動自立を報告している(McCLAY,1983).本 症例も,各脊髄損傷評価の改善に応じた介入を行うことで,簡易型 電動W/Cでの移動が自立に至ったと考えられる. 【結論】 高位頚髄損傷者の電動W/C選定に関しては,医療専門職や施設間 によって異なるのが現状である.そのため,各脊髄損傷評価をもと に電動W/Cや操作関連部品等を客観的に検討していく必要がある と考えられる. 【倫理的配慮,説明と同意】 本発表は倫理審査委員会の審査において承認を受け,総長の許可 を得て実施している(承認番号2023-041).
  • 松本 侑樹, 吉川 大志
    p. O-004-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 正常圧水頭症(以下,NPH)患者の歩行障害はADLに支障をきた し,歩行能力を改善することは重要である.今回,既往の腰部脊 柱管狭窄症(以下,LCS)により腰痛を呈し運動療法が制限された NPH患者を経験した.本症例に対し,免荷式歩行器と自転車エル ゴメーターを使用したことで腰痛の増悪を防止した介入が可能と なり,歩行能力の改善が得られたため報告する. 【症例紹介】 60歳台女性.X-47日にくも膜下出血,X-28日に脳血管攣縮に よる左脳梗塞を発症した.X日にNPHが発見され,X+9日に脳室 腹腔短絡術を実施した.X+17日に回復期リハビリテーション病棟 へ入棟した. 【評価】 Manual Muscle Testing(以下,MMT)両下肢3であり筋力低下 を認めた.Brunnstrom Recovery Stage(以下,BRS)は右上肢 Ⅴ・手指Ⅴ・下肢Ⅵであり軽度の麻痺がみられた.Functional Balance Scale(以下,FBS)は40/56点とバランス能力は低下 し,歩行時にはNumerical Rating Scale(以下,NRS)6/10の 腰痛を生じ運動療法に制限がみられた.歩行速度は0.58m/sで あり,6 Minute Walk Test(以下,6MWT)は285mであった. 【介入】 免荷により腰痛の増悪防止が可能でありX+22日から免荷式歩行 器を使用し,歩行練習を実施した.歩行速度の向上を認めX+38 日に免荷式歩行器の使用を終了した.X+40日より自転車エルゴ メーターを使用し,歩行耐久性の向上を認めた.X+57日から屋外 歩行練習を開始した. 【結果】 MMT両下肢4-5まで向上し,BRSに変化はみられなかった.FBS は56/56点と向上し,歩行時の腰痛はNRS 2/10まで軽減した. 歩行速度は1.26m/sと向上し,6MWTは430mまで延長した. 【考察】 本症例は,LCSによる腰痛を生じ運動療法が困難であったが,免荷 式歩行器と自転車エルゴメーターを使用したことで腰痛の増悪防止 が可能であった.また,免荷式歩行器と自転車エルゴメーターの 使用が筋力とバランス能力の向上に寄与し,歩行能力が改善した と考えられる. 【倫理的配慮,説明と同意】 本症例には報告の趣旨や個人情報の保護等に関して説明し同意を得た.
  • 木村 和貴, 廣澤 全紀, 嶋田 浩平, 佐藤 美希
    p. O-005-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 回復期病棟においてシューホーンブレース(以下,SHB)もしくは 金属支柱付き短下肢装具(以下,金属AFO)を作成した脳卒中片麻 痺患者を対象に,短下肢装具の選定に対する身体機能と担当理学 療法士の臨床的思考との関連を明らかにすること. 【方法】 回復期病棟にて実用歩行での使用を目的に短下肢装具(SHBもし くは金属AFO)を作成した脳卒中片麻痺患者及び担当理学療法士 を対象とした.脳卒中片麻痺患者を対象に身体機能を評価した. 担当理学療法士を対象に,装具作製の判断に重視した評価項目 (20評価項目から6項目を選択)についてアンケート調査を実施した. 身体機能について2群間で対応のないt検定とウィルコクソンの順位 和検定にて差の検定を実施した.アンケート調査について2群間で 割合の比較としてクロス集計表を用いたカイ二乗検定を実施した. 有意水準は5%とした. 【結果】 対象となった脳卒中片麻痺患者は52名(SHB36名,金属AFO16 名)であった.身体機能は金属AFOを選定した対象者において有 意に鈍麻していた.また,BMIと非麻痺片脚立位時間は金属AFO を選定した対象者において有意に高値を示した.アンケートでは BMI,感覚の項目で金属AFOを選定した担当理学療法士の回答率 に有意差が認められた. 【考察】 BMI,感覚は身体機能評価,アンケートともに有意な差を認めた. BMIが高値の患者では装具の耐久性が金属AFOで高いことが重視 され,感覚が鈍麻している患者では重量,矯正力の点から,感覚 入力や感覚障害による拘縮リスクを防ぐ目的で金属AFOが選定さ れる可能性が示唆された.身体機能は非麻痺側片脚立位時間に有意 な差を認めた.アンケート上で有意差は得られなかったが,予後予測, 活動量の項目においてSHBよりも金属AFOでの回答率が高値で あった.立位バランス能力から退院後の活動量が高くなると予想 される場合,装具の耐久性,筋緊張亢進のリスク管理を重視して 金属AFOが選定される可能性が高いと考えられる. 【倫理的配慮,説明と同意】 本研究は東京都リハビリテーション病院倫理員会の承認を得て実施 した.ヘルシンキ宣言に基づき,全ての対象者に書面と口頭にて 説明を行い,書面にて同意を得た.
  • ~孫と散歩の獲得に向けて~
    古田 大起
    p. O-006-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 タマラック型短下肢装具(以下タマラック)のスナップストップを 段階的に変更して足関節の底屈角度を拡大することで前脛骨筋の 遠心性収縮が可能となり初期接地と麻痺側遊脚期の歩行能力が 向上した.その結果,歩行自立の獲得が可能となった症例を経験 したため報告する. 【症例紹介】 60歳台女性.右脳梗塞.病前のADL,歩行は自立.IADLは家事 全般自立していた.HOPEは「孫と散歩に行きたい」. 【理学療法評価】 (発症後86病日目)Br.s:Ⅲ. FBS:20点.10m歩行:21.7秒28歩. TUG:17.4秒 T-cane使用(発症後131病日目)Br.s:Ⅳ. FBS: 40点.10m歩行:17.7秒24歩.TUG:16.29秒 T-cane使用 【経過】 発症後86病日目,備品のタマラック(初期背屈角度5°)を使用して 歩行訓練を開始.102病日目大腿四頭筋の筋力の向上,前脛骨筋 の遠心性収縮が生じ,麻痺側初期接地時の足関節底屈を減速させ 下腿が前傾し前方への重心移動が良好となった.そのため,スナッ プストップ9㎜,初期底屈角度3°のタマラックを作成,屋内の歩行 監視の獲得が可能となった.116病日目,前脛骨筋の遠心性収縮 がより向上し麻痺側初期接地から荷重応答期にかけてヒールロッ カー機能の向上を認め,スナップストップ7㎜,初期底屈角度6°へ 変更.131病日目,麻痺側下肢の機能向上に伴い前遊脚期の拡大, 遊脚期のクリアランスの向上を認めた.さらに歩行速度,立位バラ ンス能力の向上を認めスナップストップ5.5㎜,初期底屈角度9°へ 変更し屋内の歩行自立の獲得が可能となった. 【結果・考察】 大畑氏らは装具により難易度を調整された課題を繰り返し,課題が 達成されたら段階的に自由度を調整,新たな適正課題を繰り返す ことによりゴール達成に至ると述べている.本症例はスナップス トップを段階的に変更し,足関節の底屈角度を拡大することで初期 接地時の前脛骨筋の遠心性収縮が得られ,歩行能力の向上,歩幅 の拡大が可能になったと考える. 【倫理的配慮,説明と同意】 発表にあたり,患者の個人情報とプライバシーの保護に配慮し, 本人・家族に十分な説明を行ったうえで同意を得ている.
  • 市川 和樹
    p. O-007-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 Hybrid Assistive Limb®(以下:HAL)を使用して歩行を行うこと は歩行の改善に有効であるとの報告は多い.しかし,HAL単関節 タイプと下肢タイプを同時期に併用介入した症例は少ない.今回, 四点杖と短下肢装具での歩行が最大介助であった片麻痺患者が HAL単関節タイプと下肢タイプの同時期併用介入により実用歩行 を獲得したため報告する. 【方法】 通常理学療法介入期(以下:A 期)と HAL 介入期(以下:B 期)と 再度A期を2週間ずつとし,B期にHAL単関節タイプ(膝)と下肢 タイプを1日1回,各7回ずつ使用した.評価として,10m歩行, Timed Up and Go test(以下:TUG),Functional Balance Scale(以下:FBS)上田式12段階片麻痺機能検査(以下:Br-stage) をA期開始時,B期開始時,B期終了時,A期終了時に測定した. 【結果】 測定した順に,10m歩行は,不可→0.22→0.48→0.59(m/s). TUGは,不可→35.14→20.69→18.34/秒.FBSは,28→35→ 43→48/点.Br-stageは,Ⅳ-2→Ⅳ-2→Ⅴ-1→Ⅴ-1となった. 各評価とも改善を示し,10m歩行,TUGではB期終了時に大き な改善を示した.その他の評価はB期終了時での大きな改善は無 かった. 【考察】 今回,B期に10m歩行とTUGの速度の向上が確認できた.HAL 単関節タイプで精密な設定での膝関節の屈曲伸展を反復したこと で歩行時の膝の使い方を学習した.HAL下肢タイプにて速度を 上げた歩行と歩幅の拡大による歩行を反復したことで歩行距離が 延長し,2動作前型歩行を学習した.結果として,HALを同時期 に併用介入したことにより,本症例はT字杖での実用歩行が可能 になったと考える.しかし,B期終了時に随意性の向上に大きな 差は無かったため,今後はHALと麻痺の改善を目的とした促通 治療の関連性について検証していきたい. 【倫理的配慮,説明と同意】 本研究の対象者には,ヘルシンキ宣言に基づき,研究の目的,方法, 研究への参加の拒否や途中辞退の権利について十分に説明し,同意 を得た.
  • 山口 泰輝, 飯野 和徳, 宮﨑 仁, 金森 毅繫
    p. O-008-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(以下EGPA)はステロイド治療 による合併症として下肢近位筋に優位な筋力低下を呈するステロ イドミオパチーがある.これには運動過負荷が関与し,リハビリ 介入に注意が必要と報告されている.また,至適運動強度以上の 運動では遅発性筋痛の発生,血中好中球の変動に影響するとの報 告もある.今回EGPAを発症し歩行,ADL能力が低下した症例に 対し,ステロイド治療による合併症発生に注意し筋力,血液デー タをモニタリングしながら理学療法を行った症例を報告する. 【症例紹介】 80代女性.診断名:EGPA.現病歴:数年前より喘鳴が出現.足 関節や手指に痺れを自覚し当院受診.EGPAと診断,X月Y日に 加療目的で入院.入院前生活:短距離T字杖歩行介助,長距離は 車椅子.ADLは介助. 【初回評価(1~2病日)】 L/D:WBC 15420,CRP 0.26.MMT(右/左):股関節屈曲膝 関節伸展4/4,足関節背屈3/3,底屈2/2,足趾屈曲伸展1/1. 歩行:短距離T字杖接触介助.IADL:料理,家事,洗濯困難.FIM: 運動46点. 【プログラム】 WBC,CRPが正常値範囲内か,下肢近位筋がMMT3以下になって いないかモニタリングしながら運動負荷を主観的運動強度(以下 Borg Scale)11~13に調整し理学療法を実施. 【経過】 3~5病日ステロイドパルス療法Ⅰ.6病日から退院日まで経口ステ ロイド内服.14~16病日ステロイドパルス療法Ⅱ.34~38病日 ガンマグロブリン大量静注療法.51病日自宅退院. 【最終評価(49~50病日)】 L/D:WBC 6760,CRP 0.06.MMT(右/左):股関節屈曲,膝 関節伸展5/5,足関節背屈4/3,底屈3/3,足趾屈曲2/2,伸展 1/1.歩行:T 字杖歩行自立.IADL:料理,家事,洗濯自立. FIM:運動85点. 【考察】 本症例は入院期間中,下肢筋力低下は生じず,筋力向上,歩行・ ADL能力が改善した.この事から,EGPA患者に対し理学療法を 実施する上で,ステロイドミオパチーの発生を防ぐ為に,下肢近 位筋の筋力と血液データをモニタリングしながら運動負荷を調整 することは有用と考える. 【倫理的配慮,説明と同意】 本発表に際し,ヘルシンキ宣言に沿い症例より同意を得た.
  • 細井 雄一郎, 紙本 貴之, 酒井 克也, 山田 将成, 川上 途行
    p. O-009-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 本研究は脳卒中患者に対するトレッドミル歩行練習介入効果に影響 を及ぼす身体機能・歩行能力の特性を検証することとした. 【方法】 回復期病棟の脳卒中患者42名を対象とし,10分間のトレッドミル 歩行練習を5日間実施した.評価項目は介入前のBrunnstrom Recovery Stage(BRS)下肢,Stroke Impairment Assessment Set (SIAS)各項目,Berg Balance Scale(BBS),Functional Ambulation Categories(FAC),快適・最大歩行速度とし,最大歩行速度と快適 歩行速度の差から歩行予備能を算出した.更にRGB-D camera(Intel 社製)を用いて歩行時の時間因子対称性である遊脚期時間比,運動 学的因子対称性である膝関節の正規化相互相関係数を算出した. 介入後, 再度快適歩行速度を計測し介入前後の快適歩行速度の変化 量(⊿CGS)を算出した.統計解析は,⊿CGSと介入前の各項目 との相関分析を実施した.更に⊿CGSを用いて先行研究に基づく トレッドミル歩行練習のResponderの可否を従属変数,各項目を 独立変数とした決定木分析を実施した. 【結果】 ⊿CGSと相関を認めた項目は,BRS(ρ=0.33,p<0.05),SIAS 感覚項目(ρ=0.38, p<0.01),BBS(ρ=0.33, p<0.05),FAC (ρ=0.43,p<0.01),快適歩行速度(ρ=0.36,p<0.01),最大 歩行速度(ρ=0.44,p<0.01),歩行予備能(ρ=0.52,p<0.01)で あった.決定木分析の結果,第1層では最大歩行速度,第2層では 歩行自立度と歩行予備能が抽出された. 【考察】 脳卒中患者に対するトレッドミル歩行練習の即時効果に影響を及 ぼす介入前の身体機能・歩行能力の特性として,歩行速度や自立 度,歩行予備能が影響している可能性が示唆された. 【倫理的配慮,説明と同意】 本研究は,鵜飼リハビリテーション病院倫理委員会の承認を得て 実施した(承認番号:04-0005号).又,ヘルシンキ宣言に基づき, 対象者には本研究の目的について説明し,同意を得た後に実施した.
  • 佐藤 友香, 鈴木 隼人, 圖師 将也, 廣瀬 恵, 郡山 峻一, 若林 秀隆
    p. O-010-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 膠芽腫はWHOがグレード4とする悪性疾患であり,2年生存率 は30%以下と予後不良である.今回,右頭頂葉膠芽腫摘出術後 より重度の錐体路障害,高次脳機能障害を呈した患者を担当した. 患者とその家族は自宅退院を強く希望しており,予後や症状の増 悪を考慮し自立歩行は困難と考え,車椅子での自宅退院を目標と した.よって自宅内での車椅子ADL獲得のため座位姿勢の修正に 着目し介入した. 【症例経過】 70代女性,術前に麻痺はなくADLは自立していた.術後,Brs左 上肢Ⅱ-手指Ⅰ-下肢Ⅲ,表在覚正常,軽度左上下肢深部覚障害, 左半側空間無視,注意障害,身体失認を認め,Barthel Index(以 降,BI)は40点であった.座位姿勢では主に体幹低緊張,深部覚 障害,身体失認によって重心位置が右側に偏位していた.よって, 座位姿勢の修正を目的に坐骨での支持,左側への認識促進,重心 移動練習や骨盤帯前後傾を中心に行った. 【結果】 術後49日目の最終評価ではBrs左上肢Ⅱ-手指Ⅰ-下肢Ⅳ,低緊張, 半側空間無視,身体失認が軽減した.それに伴い座位時に重心位 置を正中位へ自己修正可能となった.また座位姿勢の安定により 車椅子乗車時間が延長し,BI 70点と介助量が軽減した.その後, 住宅環境調整に時間を有するため術後52日目に回復期リハビリ テーション病院へ転院となった. 【考察】 本症例は右頭頂葉領域の摘出により機能障害の残存が想定された が,自宅退院を希望されたことや住宅調整で車椅子による自宅退院 可能な環境であったことから車椅子ADLの獲得を目指し介入した. 治療場面において視覚や表在覚による感覚フィードバックを用い て運動学習を促したことや,深部覚,左側の身体,空間認知が向 上し,かつ骨盤前傾筋の筋活動の促進により座位姿勢が改善し ADLの向上に至った.しかし,転帰としては転院の運びとなった. 早期から介護者と連携を取り,退院後の生活イメージを共有する ことが重要であったと考える. 【倫理的配慮,説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき,患者本人に対し,「症例報告の目的・公開 方法・協力と取り消しの自由・人権擁護と個人情報の保護について」 を書面にて説明した.その後,本人より書面にて発表を行う同意を 得た.
  • 猪狩 寛城
    p. O-011-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で主となる肺炎等の呼吸 器症状の他に,様々な後遺症が発症する事があるとされており, その1つとして頭痛や眼科症状が生じると報告されている.しかし, 頭痛や眼科症状に対する治療法は,対症療法により自然治癒を待つ ような治療法が一般的となっている.今回,COVID-19後の疼痛 に対して徒手療法を実施したところ,良好な結果を得られた症例を 経験したので報告する. 【症例紹介】 40代男性,178cm,70kg,BMI:22.1.ワクチン5回接種済. 感染前の頭痛・眼科症状無.職業:理学療法士.1/10:COVID-19 罹患,無症状で経過.1/20:車を運転中に突然眼球痛と頭痛出現. 経過観察するが症状収まらず.1/21:眼科受診.1/24:脳神経外科 受診,CT撮影 【評価】 主訴:頭痛,眼球痛,嘔気.疼痛:安静時痛+,食事や睡眠が困難 となる強さ.疼痛が増強する姿勢や動作無.NSAIDs有効,薬効 が切れると疼痛再燃.眼科的な異常所見無.脳神経外科的な異常 所見無. 【介入内容と結果】 C1-2,C2-3に対してセルフモビライゼーション実施.実施日から 疼痛が軽減,NSAIDsを内服せずに生活が可能となった.3日後には 長距離運転が可能となり,症状改善を得た. 【考察】 上部頸椎へ徒手療法を行うと頭痛が改善するとされている.この 考えに沿って介入した事で良好な結果が得られたと考えられた. COVID-19療養期間中は隔離と安静が強制され,臥床時間が増え る事による同一姿勢時間の延長が原因で,頸椎の機能不全が生じた 可能性も考えられたが,姿勢や動きによる疼痛の変化がなかった ので可能性は低いと考えられる. 【結論】 COVID-19後遺症で生じている症状に対しても徒手療法が有効で ある可能性が示唆された. 【倫理的配慮,説明と同意】 本症例報告はヘルシンキ宣言に沿ったものであり,本人に発表の 趣旨について説明し,同意を得た.
  • 小川 幸恵, 保地 真紀子, 中山 裕子
    p. O-012-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 我々はこれまで,大腿骨近位部骨折術後の歩行能力と骨粗鬆症の 関係について,骨密度低下は,退院時に歩行を獲得できない割合 が高いことを報告した.しかし退院後の歩行能力との関連は不明 である.本研究は大腿骨近位部骨折術後6ヶ月の歩行能力と骨粗 鬆症との関連について明らかにすることを目的とした. 【方法】 対象は大腿骨近位部骨折症例(2018.4~20.3)のうち,退院後初 外来時にDXA法にて大腿骨骨密度を計測した132名(男性19名, 女性113名,83.2±6.7歳)とした.骨密度(若年成人平均値 YAM) により2群に分類,年齢の影響を排除すために補正を実施,YAM 70%以上の高値群34名(男性11名,女性23名,83.2±5.4歳)と 70%未満の低値群98名(男性8名,女性90名,83.3±7.1歳)と した.術前車椅子の症例は除外した.調査項目は,退院時,術後 6ヶ月の歩行能力,およびその推移を両群間で比較した.統計学的 検討は,χ2 検定を用い有意水準は5%とした. 【結果】 歩行能力は退院時,高値群;歩行25名74%(フリーハンド0名0%, 杖12名35%,歩行器自立7名21%,歩行器介助6名18%)車椅子 9名26%,低値群;歩行54名54%(0名0%,30名31%,8名8%, 15名15%)車椅子45名46%であり歩行か車椅子かに有意差を認 めた.術後6ヶ月は,高値群;歩行26名76%(フリーハンド9名 26%,杖13名38%,歩行器自立2名6%,歩行器介助2名6%) 車 椅子8名24%,低値群;歩行67名68%(17名17%,24名 25%,9名9%,17名17%)車椅子31名32% であり差を認め なかった.また退院時と比較し,高値群;改善18名52%,維持 8名24%,低下0名0%,車椅子のまま変化なし8名24%,低値 群;37名38%,29名29%,1名1%,31名32% であり有意差は 見られなかった. 【結論】 急性期の歩行能力の回復には骨粗鬆症に関連する身体機能低下の 影響が大きく,退院時の歩行の可否に関連がみられた.一方で, 退院後歩行能力は緩やかに回復し,術後6ヶ月では,低値群は車椅 子の割合が減少,歩行可能例が増加し,歩行の可否と骨粗鬆症は 明らかな関連は認めなかった. 【倫理的配慮,説明と同意】 本研究は当院の倫理規定に則り書面にて同意を得て行った.
  • ―着座動作に着目して―
    宇田川 香奈, 白根 雄一朗, 片桐 浩二, 山口 和久, 常田 剛
    p. O-013-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 股関節固定術後,隣接関節障害や日常生活動作(以降,ADL)の 制限を認めた場合,全人工股関節置換術(以降,THA)や全人工膝 関節置換術(以降,TKA)が行われることがある.先行文献では, 同側複数関節に対し短期的に手術を施行した症例のADLに着目した 報告は少ない.今回,短期的にTHAと両側TKAを施行され,除痛 と着座動作の改善を認めた症例を経験したので報告する. 【方法】 症例は69歳女性.結核性関節炎により21歳で右股関節固定術 施行.今回は腰部・左膝関節の疼痛,立位保持・排泄時着座動作困 難を主訴に当院受診し,右THA施行.術後3日目より理学療法を 開始し,右THA術後(以降,術後)39日目に右TKA施行,術後83 日目に左TKA施行し,術後104日目に回復期リハビリテーション 病院へ転院した.理学療法介入として関節可動域練習・筋力強化 練習・座面の高さを調整した起立着座動作練習などを実施した.主 な評価項目として,股関節屈曲可動域,膝関節屈曲可動域,疼痛 (NRS),着座動作を用いた. 【結果】 右股関節屈曲角度は術後3日目70°,術後103日目90°,膝関節屈 曲可動域(右/左)は術後38日目(120°/130°),術後103日目 (95°/110°),腰部の疼痛は術後5日目NRS0,右膝関節の疼痛 は術後38日目NRS6,術後103日目NRS2~3,左膝関節の疼痛 は術後82日目NRS3,術後103日目NRS1~2であった.術後3 日目の着座動作は,右股関節軽度屈曲・膝関節伸展位にて体幹左回 旋しながら左股関節・膝関節を屈曲していたが,術後103日目は両 股関節・膝関節の屈曲運動を同時に行えるようになった. 【考察】 複数関節に対する手術間隔が長期化すると,隣接関節への負担が 増加し疼痛増強や機能障害,それに伴うADL低下が危惧される. 今回,短期間の手術により,複数の隣接関節への除痛と機能改善が 可能となり,両下肢の協調的な運動を用いた着座動作獲得に至った と考えた. 【倫理的配慮,説明と同意】 本研究は患者に研究内容について十分説明し,対象となることに ついて同意を得た.
  • 相場 直樹
    p. O-014-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 昨今,骨折リエゾンサービスの概念が注目されており,当院でも 昨年度から二次性骨折予防のため活動を開始した.先行研究では FIMと転倒の関係性についての報告は充実しており特にFIM認知 項目と転倒には関連ありとするものが多い.一方,FIMと再骨折 に関する報告は少ない.そこで,当地域で使用している地域連携 パスに記載されている退院時FIM得点に,二次性骨折者と単回骨 折者で差があるのかを明確にすることで再骨折予防指導の一助と なりえるものかを検討した. 【方法】 2015年4月から2020年3月に当院へ入院し地域連携パスを使用 した患者201例のうち,入院中に新規疾患発症や死亡といったバリ アンス11例を除いた190例を対象に調査した.当院へ返送された 地域連携パスから,退院時FIM合計・認知項目合計等を算出した 後,退院後3年以内に再骨折した例(二次骨折群)とそうでない例 (単回骨折群)に分類した.統計解析には二群間比較をBrunnerMunzel検定で行い,p<0.05を統計学的有意差ありとして判定した. 統計解析ソフトはエクセル統計2015(varsion4.04)を用いた. 【結果】 統計解析の結果,退院時FIM 合計点の平均順位は二次骨折群 107.750に対し単回骨折群94.103(p値0.2153),認知項目合計 点は二次骨折群110.375に対し単回骨折群93.750(p値0.1560) であった.その他の検討項目においていずれも統計学的有意差なし となった. 【考察】 先行研究では転倒とFIMには関連ありとするものが多いが,本研 究結果より,二次骨折群と単回骨折群の退院時FIMに統計学的 有意差なしとの結果が得られた.このことから,退院後3年以内の 再骨折に関しては二次骨折を起こす者を退院時FIMで特徴つけ る事は出来なかったため,再骨折予防のための指導はFIM得点に 関わらず実施すべきであると考える. 【倫理的配慮,説明と同意】 太田記念病院倫理委員会の承認を得た(承認番号OR23022)
  • 保地 真紀子, 中山 裕子, 小川 幸恵
    p. O-015-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 われわれは大腿骨近位部骨折術後,介助歩行で退院した症例に ついて半年後の歩行状況を調査し,歩行可能であった群は,不可 であった群と比較し,退院時の歩行速度に差を認めた他,杖歩行 訓練まで至っていたこと,訓練時以外も歩行していた例が多かった ことを報告した.本研究では,さらに歩行自立に至った症例に ついて要因を検討する. 【方法】 2017.9~2020.6に当院を退院した大腿骨近位部骨折術後症例 の内,受傷前歩行自立であった169名を対象とし,介助歩行で退院 後,半年の時点で歩行が可能であった29名について歩行自立度を 調査し,年齢,認知機能,入院期間,院内歩行開始日,10m歩行 時間,転機先,家族構成について比較検討した.統計学的検討は t検定,χ2 検定を用い,有意水準は5%とした. 【結果】 対象者29名の内,歩行自立に至った症例(以下:自立群)は13名 (男性2名,女性11名,83.8±6.0歳),介助であった症例(以下: 介助群)は16名(男性0名,女性16名,87.0±4.7歳)であり,年齢 に差は認めなかった.院内歩行開始日は,自立群は術後25.5± 11.2日,介助群40.9±21.5日であり,自立群が有意に早かった. 自立群の転機先は自宅11名,施設2名,自宅退院例の家族構成は, 配偶者あり7名,なし4名,若年世帯あり9名,なし2名,介助群は 自宅12名,施設4名,配偶者あり1名,なし11名,若年世帯あり 12名,なし0名であり,配偶者の有無について差を認めた.また, 自立群のMMSEは 19.8±3.4点,入院期間71.2±23.1日,10m 歩行17.6±4.6秒,介助群では17.5±6.2点,78.3±22.9日,18.5 ±5.0秒であり,いずれも差を認めなかった. 【結論】 歩行自立可否には,院内歩行開始日,配偶者の有無が関連していた. 早期から訓練時以外でも歩行を実施したことに加え,配偶者のいる 環境下では介助歩行が継続して行えていたことが推測され,入院中, 退院後の累積歩行時間の増加が歩行予後に関与した可能性がある. また早期からの歩行を可能とした何らかの身体機能の差も考えられ, 今後検証が必要と思われた. 【倫理的配慮,説明と同意】 本研究は当院倫理規定に則り,対象者には書面にて同意を得た.
  • 妹尾 佑輝
    p. O-016-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 今回,視床出血により左下肢の感覚鈍麻,運動失調が著明,歩行 困難であった症例に対して,歩行補助具としてロフストランド杖 を使用することで動作学習が図れ,独歩自立に至った症例を担当 した.その経過について以下に報告する. 【事例紹介】 70歳台男性,診断名は視床出血.発症から約1か月後に,当リハ ビリ病院へ入院.既往歴は特になし.病前はADL全て自立,移動 は屋内外共に独歩で自立していた. 【理学療法評価】 BRS左下肢Ⅴ,GMT右下肢3左下肢2-3体幹2-3,表在・深部感覚 ともに左下肢重度鈍麻,基本動作はすべて最小介助,歩行は実施 困難.FBSは5/56点,SARAは21.5/40であった. 【経過】 5病日目よりT-caneで歩行評価.杖に対して過荷重であり,体幹 屈曲位著明.また左下肢接地位置の不安定さ,左上肢の筋緊張亢 進も認められた.12病日目,体幹機能の安定性を図ることで左下 肢の協調性の改善が認めるのではないかと考え,T-caneよりも支 持性に優れているロフストランド杖で評価を実施.結果として, 体幹屈曲位の改善が認められ,それによって右下肢の支持性も 向上,続く左下肢の振り出しの安定性向上に繋がった.また,左下肢 の接地が安定したことで,前方への重心移動も改善が認められた. 15病日目,ADLでロフストランド杖歩行介助にて開始.57病日目, ロフストランド杖歩行自立.その後,T-caneへ変更し,90病日目 にT-cane歩行自立へ至った. 【考察】 秋月らは,歩行補助具により自由度を操作することで課題に含ま れる情報量を操作することは可能であり,最適な課題難易度に調整 することで運動学習を促進することが出来るとしている.本症例 では,ロフストランド杖を歩行補助具として使用することで歩行 において適切な難易度調整が可能となり,動作学習が図れた結果 として歩行能力の改善が見られたと考える. 【倫理的配慮,説明と同意】 発表にあたり,患者の個人情報とプライバシーの保護に配慮し, 本人・家族に十分な説明を行ったうえで同意を得ている.
  • 深田 亮, 古矢 丈雄, 桑田 麻由子, 髙瀬 慶太, 但木 亮介, 石井 駿, 赤坂 朋代, 村田 淳, 大鳥 精司
    p. O-017-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 タンデム歩行は小脳性疾患や末梢神経疾患の早期歩行障害に対する 鋭敏な検査である.そこで,今回我々は初期頚髄症を対象にタン デム歩行が早期歩行障害を抽出する評価法として有用であるか検 討した. 【方法】 対象は2022年2月から2023年5月までに当院で保存的に外来経 過観察を行っている初期頚髄症 60例(平均年齢67.1±11.3歳, 男性32例,女性28例)である.取り込み基準は,International Standards for Neurological Classification of SCIで標準化 された表在感覚と下肢筋力の評価が正常で,かつ画像検査で脊髄 に圧迫がある者とした.タンデム歩行は10歩を超えることが困難 であった場合を陽性と定義した.また,タンデム歩行に加齢の影響 が少ない60歳台までの31例を対象に,タンデム歩行の可否により 陰性群(13例)と陽性群(18例)に分類し,身体機能を比較検討 した.身体機能はGrip and release test,足クローヌス,振動覚 (上前腸骨棘,膝蓋骨,内果,母趾),母趾位置覚,足底の2点識別覚, 10m最大歩行速度を評価した.統計学的検討はJMP Ver15.5を 使用し,各評価項目の両群間の差を対応のないt検定とカイ二乗検 定を用い,有意水準は5%未満とした. 【結果】 タンデム歩行障害の有病率は41例(68%)であった.次に60歳台 までを対象としたタンデム歩行可否による陰性群と陽性群の比較 では,内果と膝蓋骨の振動覚が陽性群で有意に低値であった (P<0.05).その他の身体機能は両群間に有意な差を認めなかった. 【考察】 初期頚髄症はタンデム歩行障害の有病率が高いことが明らかに なった.また,タンデム歩行障害が出現している場合,内果と膝蓋 骨の振動覚が障害されていることも示唆された. 【結論】 タンデム歩行障害は,軽度の歩行障害の検出に役立ち,進行性歩行 障害の前兆となる可能性がある. 【倫理的配慮,説明と同意】 本研究は,千葉大学大学院医学研究院倫理審査委員会(承認番号 10158)の承認を得ている.また,University hospital Medical Information Networkへ登録している.
  • 髙井 浩之
    p. O-018-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 今回,歩行パフォーマンスが低下した慢性期脳卒中片麻痺患者の 一症例に,ボツリヌス毒素注射後,2週間の短期入院および集中 リハビリテーションを実施し,麻痺側下肢機能の改善と歩行再建 が果たせたため,経過を報告する. 【症例】 左被殻出血を発症した40代男性.他院で6ヵ月のリハビリテーション (以下リハ)を実施し,リハ継続目的で当院を受診した.ボツリヌス 毒素療法の適応と判断され腓腹筋に50単位,ヒラメ筋,後脛骨筋, 前脛骨筋に25単位ずつ,計125単位を投与した.その後,2週間の 短期入院および集中リハビリテーションを実施した. 【経過】 歩行は短下肢装具のみで自立をしていたが,麻痺側の体幹と下肢 機能は破綻しており異常歩行パターンに伴い,効率の悪い歩行を 呈していた.入院リハでは歩行の安定性とスピードの改善を希望 され,リハは4単位/日,毎日リハを実施した.理学療法の内容 は,麻痺側下肢を強制使用させた起立練習で麻痺側下肢の支持性 の改善を図ると共に,長下肢装具による装具療法で荷重刺激入力, 倒立振り子学習に主眼を置き実施した.2週間のリハで,ミュータス による麻痺側下肢伸展筋力が62.7から71.2,快適歩行スピードは 13秒から10秒に改善し,小走りも可能となった.またHONDA歩行 アシストやGait Judge System®などの計測機器においても健常 歩行に近似する値が得られた.一方で Fugl-Meyer Assessment 下肢項目や筋緊張に変化は認めなかった. 【考察】 積極的な麻痺側の使用や筋力強化は不均等な動作を改善させると 報告されている.慢性期患者でも,残存する機能を積極的に賦活 することで麻痺側であっても機能改善が図ることが可能であった. また装具療法による立脚期の再教育はtrailing limb angleの拡大 に寄与し,推進力改善に繋がったことが示唆された. 【倫理的配慮,説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき,ご本人に発表の趣旨を十分に説明して 同意を得た.
  • 住廣 拓也, 中川 慎也, 小串 健志
    p. O-019-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 古関らは,脳卒中片麻痺患者に対してhybrid assistive limb(以下 HAL)使用による動作支援の効果として,特定の異常歩行パターン において関節の動きを改善し,歩容改善に繋がる可能性があると 報告している.今回,異常歩行パターンを呈した回復期脳卒中片 麻痺患者に対して課題難易度を調節したことで歩容改善に繋がり, 歩行自立度が向上した症例について報告する. 【症例紹介】 60歳台前半男性.右利き.右半身に脱力を認め,頭部MRIにて左 視床梗塞の診断で急性期病院に入院となる.第22病日,当院回復 期病棟に入院した.入院時はStroke Impairment Assessment Set(以下SIAS)運動項目下肢3-3-2,感覚項目下肢2-2,Modified Ashworth Scale(以下MAS)膝関節屈曲筋1+,足関節底屈筋1+, FAC2,4点杖歩行は軽介助.麻痺側遊脚期分回し,立脚期では膝 折れを認め,訓練レベルは長下肢装具であった.HAL開始時,麻痺 側膝屈曲の生体電位信号が強くサイバニック随意制御(以下CVC) モードでは制御が難しく膝折れを呈していた. 【方法】 通常訓練に加えHALを使用して歩行訓練を実施した.使用機器は HAL自立支援用下肢タイプである.HALの設定は両股関節CVC モード,両膝関節はサイバニック自律制御モードから開始し,経過 の中でCVCモードに移行した.介入頻度は1回40分/回,5回/週 であった. 【結果】 第92病日,SIAS運動項目下肢4-4-3,感覚項目下肢3-3,MAS 膝関節屈曲筋1,足関節底屈筋1,FAC5,杖歩行では金属支柱付き AFO使用し,分回し,膝折れの改善を認めた. 【考察】 装具療法では歩行難易度の調節が難しい症例に対してHALのモード 設定・調整を行うことで主動作筋と拮抗筋のバランス調整,複合的 な関節運動の難易度調節が可能となり,神経可塑性の促進,段階 的に装具を使用しての歩容改善,歩行自立度向上に繋がったと考 える. 【倫理的配慮,説明と同意】 本報告は当院倫理委員会の承認を得た(承認番号:23-001)
  • 川島 一稀, 平野 健大, 中村 智恵子, 中山 恭秀
    p. O-020-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 特発性脊髄硬膜外血腫(以下:SSEH)を発症した症例に対し,理学 療法を施行する機会を得た.今回,画像所見による病態把握に基づ いて介入した結果,自立歩行を獲得したため,以下に詳細を報告 する. 【方法】 本症例は70代女性で,X月Y日にC5レベルのSSEHを発症,同日 椎弓切除術を施行した.Y+2日から理学療法を開始した.Y+10 日の評価では,移動は車いすレベルであった.感覚は右L5,S1 領域の表在感覚中等度鈍麻,左L1~S1領域の深部感覚重度鈍麻 を認めた.ASIA motor scoreは85点であり,左L2~S1に該当 する主要筋群で減点を認めた.左Romberg試験陽性,SARA11 点と左下肢に脊髄性運動失調を認めた.画像所見から,左側方から 背側にかけて脊髄圧迫を認め,特に左後脊髄小脳路の障害が最も 重度であった.後脊髄小脳路障害により,本症例は視覚や前庭機 能に依存し,運動出力が過剰となることで,動作獲得に時間を要 すると考えた.そのため筋活動による深部感覚入力を考慮した介入 を実施し,早期の視覚や前庭機能の依存軽減,それに伴う失調症 状の改善を図った.介入内容は,椅子座位での自転車エルゴメータ や,過剰な上肢支持の抑制を目的としたLight touch下での動作 課題等を実施した. 【結果】 Y+23日には,右L5,S1領域の表在感覚軽度鈍麻,左L1~S1領域 の深部感覚正常,ASIA motor scoreは95点と神経症状に改善 を認めた.立位・歩行も閉脚立位保持可能,フリーハンド歩行近位 監視レベルまで改善した.しかしSARAは5.5点,Romberg試験 陽性と失調症状に関しては残存した. 【考察】 画像所見を基に考案した,視覚や前庭機能の依存軽減を目的とした 介入が,術後早期の神経症状の改善と,フリーハンド歩行の円滑 な獲得に繋がったと考えた.最終評価では表在感覚障害は右足底 部に残存した.今後は右足底の表在感覚のフィードバックを強化 することで,失調症状と歩行能力が改善する可能性があると考えた. 【倫理的配慮,説明と同意】 本人に紙面上にて倫理的配慮の内容を説明し,同意を得た.
  • 髙木 武蔵, 佐藤 洋平, 中尾 健太郎
    p. O-021-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 臥位における骨突出部の除圧は褥瘡予防のために重要な要素のひ とつであり,褥瘡の最好発部位は仙骨であることから30°程度の 側臥位が褥瘡予防に有効であると報告されている.しかし療養病 棟において,関節可動域制限や異常筋緊張などにより30°側臥位を 保持することが困難な症例が多く存在するため,保持困難となる 具体的な要因を明らかにする必要があると考えた.経験上そうした 症例は著明な頚部側屈可動域制限を有する傾向があることに着目し, 側臥位角度に頚部側屈可動域(以下頚部ROM)が及ぼす影響を明ら かにし,除圧による褥瘡予防に寄与するための知見を得ることを 目的として本研究を実施した. 【方法】 当院に入院中の,自身での側臥位への体位交換が困難な症例8名を 対象とした.測定する変数は頚部ROMおよび著明な抵抗が出る 直前まで他動的に背臥位から右側臥位へ変換した際のベッド面に 対する骨盤の傾斜角度を側臥位角度とし,頚部ROMを拡大させる ための可動域練習の前後でそれぞれ測定を行った.Shapiro-wilk 検定により正規性を確認し,頚部ROMと側臥位角度について Pearsonの相関係数の分析,頚部ROMを説明変数とし側臥位角度 を目的変数とした回帰分析,頚部ROMと側臥位角度の介入前後の 値について対応のあるt検定をそれぞれ実施した. 【結果】 頚部 ROM と側臥位角度の相関係数は介入前 r=0.89, 介入後 r=0.81.頚部ROMと側臥位角度の回帰分析では介入前R2=0.80  F=0.003,介入後R2=0.66 F=0.01.介入前後のt検定では頚部 ROMはp=0.0003,側臥位角度はp=0.002. 【考察】 結果より頚部ROMが側臥位における側臥位角度を変化させる要因 である可能性が明らかになった.頚部ROM増加により,抵抗になり 得る頭部や肩甲帯をベッド面から離す方向への運動が可能になった ことで側臥位角度が増加したと考えられた. 【結論】 頚部ROM制限の改善は側臥位角度増加に寄与すると考えられる. 【倫理的配慮,説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に沿って実施した.患者に内容について 十分に説明し,対象となることに同意を得た.また通常の診療の 範囲内で得られる情報を用い,個人を識別できる情報や要配慮個人 情報は扱っていない.
  • 大久保 竜希, 湖東 聡, 前田 卓哉
    p. O-022-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 人工股関節全置換術(THA)後の合併症の1つに神経麻痺があり, 中でも術後大腿神経麻痺(FNP)は稀な合併症である.術後FNPは 前方または前側方侵入の報告はあるが,後方進入によって併発した 症例に関する報告は見当たらない.今回,THA(後方侵入)後に FNPが生じた症例に対し,杖歩行獲得を目標に行った介入について 報告する. 【症例紹介】 70代女性,身長157cm,体重53kg,BMI21.5(kg/m²),診断名 は右変形性股関節症.手術1年前から右股関節痛が増強し,ADL に制限を認め,THA施行した. 【経過と評価】 術後FNPが出現し,後療法はニーブレイスを装着し全荷重可で あった.術翌日よりPT開始し,術後3日で平行棒内歩行,歩行器 歩行練習を開始した.術後12日ではニーブレイス装着なしでの杖 歩行が可能となり,術後21日で杖歩行自立し,自宅退院となった. 機能面は,術後3日では右股関節ROMは伸展-5°,内転-5°, MMTは右腸腰筋,大殿筋,中殿筋2,大腿四頭筋1レベルであった. 大腿四頭筋は,術後7日でMMT2(lag60°),術後14日でMMT3 レベルに改善した.術後21日の股関節ROMは伸展5°,内転5°, MMTは右股関節周囲筋4,大腿四頭筋4レベルとなった. 歩行は 術後3日に右Tstで膝折れを認め,右大四頭筋筋力運動,骨盤アラ イメント修正のプログラムを追加して介入を実施した. 【考察】 術後3日の右Tstで生じる膝折れの原因は,右大腿四頭筋筋力低下 に加え,術側の骨盤下制位により右下肢屈曲位となる立位姿勢が 原因であると考えられた.また,術後21日で杖歩行自立に至った 背景には,視覚を用いた膝関節伸展運動で内側広筋の筋収縮が良 好であったこと,術後早期から自覚的脚長差に着目し,骨盤アラ イメント修正を図ったことが要因として考えられる. 【結論】 術後FNPが生じた症例に対して,術後早期から下肢屈曲位となる 立位姿勢の修正を図ることが,歩行時の大腿四頭筋に生じる遠心 性負荷を軽減させるために重要である. 【倫理的配慮,説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理配慮のもと,対象者に本研究 の趣旨や方法について説明し,同意を得た上で実施した.
  • 海津 陽一, 岩本 紘樹, 齊藤 翔太, 岩村 泰輝, 田村 俊太郎, 小林 壮太, 武田 廉, 宮田 一弘
    p. O-023-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 退院時に歩行自立の可能性の高い患者を特定するClinical Prediction Mode(l CPM)は退院後の不活動や転倒防止等に役立つが,これまで入院中の椎体圧迫骨折患者(vertebral compression fracture, VCF)を対象としたCPMは開発されていない.本研究の目的はVCF者の歩行自立を判定するCPMを開発,検証することである.【方法】対象は医療機関4施設においてVCF と診断された185名(80.3±8.2歳)とした.カルテから基本情報,退院時の歩行自立有無,認知 機能と身体機能を収集した.Functional Ambulation Categoriesを用いて歩行自立の有無(4-5を自立)を判断した.身体機能はBerg balance scale(BBS),10m 歩行テストを評価した.ロジスティック回帰分析を用いて歩行自立の予測因子を調査した.独立変数は年齢,認知機能低下(HDS-R<21 or MMSE<24)有無,BBS,10m 歩行テストを投入し,この解析で有意だった項目からCPMを開発した.CPMの診断精度としてArea Under the Curve(AUC)を算出し,ブートストラップにより内部検証を行った.またCPMの感度,特異度,陽性尤度比,陰性尤度比,陽性,陰性適中率を算出 した.統計解析にはR を使用した. 【結果】145例(78.4%)が退院時に歩行自立した.歩行自立の予測因子として認知機能,BBS(カットオフ値46点)が有意な項目として抽出され,この2項目からCPM(合計2点,高得点ほど歩行自立確率が高い)が開発された.CPM のAUC は0.918(0.865-0.971),ブートストラップ法による内部検証では,平均AUCは0.917,傾きは0.962であった.モデルパフォーマンス(感度/ 特異度/ 陽性尤度比/ 陰性尤度比/ 陽性適中率/ 陰性適中率)はCPM ≧1:0.94/0.33/1.39/0.19/83.4%/59.1%,CPM=2: 0.12/1/-/0.88/100%/23.8% であった. 【考察】VCF者の歩行自立の関連要因として認知機能,BBSが抽出された.この2項目から開発されたCPMは退院時の歩行自立判定に十分な精度を有し,モデルのオーバーフィッティングは認めなかった.【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,公立藤岡総合病院(番号:270),公立七日市病院(番号:20210100),日高リハビリテーション病院(番号:220402),日高病院(番号:350)の倫理審査委員会で承認された.ヘルシンキ宣言を遵守し,後方視的研究のため個人情報が特定されないよう配慮した.
  • 嘉手苅 唯, 関田 惇也, 岩村 元気, 中島 爽冴, 田中 陸, 山下 博樹
    p. O-024-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/06/08
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 人工膝関節全置換術(以下,TKA)後患者の満足度には,階段動作 が影響することが報告されているが,この階段動作に影響する因子 は明らかではない.本研究は,TKA 患者の降段困難感に関連する 因子を多面的な評価から明らかにすることを目的とした. 【方法】 対象は膝OAと診断され,TKAを施行した女性99名(年齢73.5± 5.7)とした.基本属性は年齢,身長を調査した.TKA 後3ヶ月時 の降段の困難感は,5件法(0点;簡単にできる,1点;やや困難,2点; 中等度に困難,3点;かなり困難,4点;できない)にて聴取した. また,膝関節伸展筋力,膝関節屈曲可動域,降段時痛(NRS),降 段時の恐怖感(NRS),運動恐怖(TSK),身体知覚異常(FreKAQ) を評価した.降段困難感で1点以下の者(容易群)と2点以上の者 (困難群)の2群に群分けし,各評価項目を2群間で比較した.さら に,従属変数を降段困難感,独立変数を各評価項目としてロジス ティック回帰分析を行った.有意水準は5% とした. 【結果】 容易群は49名,困難群は50名であり,全症例1足1段にて降段が 可能であった.容易群は困難群と比較して身長は有意に高く,降段 痛,降段時の恐怖感,TSK,FreKAQ は有意に低かった.ロジス ティック回帰分析では,年齢(odds;8.87),身長(odds;2.60), 降段時痛(odds;1.36),降段時の恐怖感(odds;1.30)が抽出さ れた. 【考察】 1足1段にて降段が可能であるのにも関わらず,主観的な降段困難 感には年齢,身長とは独立して降段痛および恐怖感が関連した. よって,降段痛と恐怖感に対し評価,介入する必要性が示唆された. また,動作時の恐怖感はTSKより定量的な評価が有用であると考え られる. 【結論】 TKA術後3ヶ月後患者の降段困難感には,年齢,身長,疼痛,恐怖 感が独立して関連する. 【倫理的配慮,説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき,目的を十分に説明し同意を得た.
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