抄録
【目的】
胸髄不全損傷により両下肢の不全麻痺や感覚障害を呈した患者に
早期から起立練習,歩行練習を行った.その結果,筋力低下や感覚
障害,基本動作能力の改善,歩行時における筋電計(トランクソ
リューション株式会社製,以下TS-MYO)の波形の変化が認められた
ため報告する.
【方法】
今回の患者(70代,女性)は胸髄不全損傷と診断され,脊椎固定術
を施行した.術後に左下肢優位に麻痺症状を呈し,Th7から下位の
感覚障害や左右下肢の筋力低下が出現した.その患者に対し離床
早期からティルトテーブル,長下肢装具(以下KAFO)を使用した
起立,立位練習,KAFOを使用した歩行練習を行った. 起立練習,
歩行練習の際にはTS-MYOを使用して左側の大殿筋,大腿四頭筋
の筋活動を計測した. 筋力低下,感覚障害の評価にはASIA,ADL
評価にはFIM を用いた.
【結果】
初回評価ではASIA の触覚スコアが96点,運動スコアが70点で
あった.最終評価では触覚スコアが111点,運動スコアが77点と
改善がみられた.初回評価では基本動作重介助レベル,FIM は54
点であった.最終評価では基本動作が見守りまたは軽介助レベル,
FIMは87点と大きく改善がみられた.また,歩行練習では大殿筋,
大腿四頭筋の立脚期での筋収縮をタイミング良く得られたことが
TS-MYO を使用して確認できた.
【考察】
住田らによると脊髄損傷患者に対する急性期からの早期リハビリ
テーションは機能障害に対するADL 発揮効果をより高く改善する
ことが示唆されている. 起立練習,歩行練習を離床早期から積極
的に行った事で歩行時の殿筋,大腿四頭筋が賦活され,歩行練習
時に筋収縮をタイミングよく促すことができた.その結果,ADL
能力の改善に影響したのではないかと考える.
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に沿って,個人情報に配慮し,患者情報を診療記録
から抽出した.症例本人に対し,本学会にて症例報告を行うこと
について同意を得た.