抄録
【はじめに】
生体肝移植術(Living Donor Liver Transplantation:LDLT)
患者において,全身骨格筋量減少が術後生命予後に影響すること
が知られているが,LDLT周術期の筋肉量の変化や臨床経過に及ぼ
す影響,若年女性に対するリハビリテーション介入時の注意点な
ど不明な点が多い.今回,出産後6か月でLDLTに至ったサルコペ
ニア合併若年女性に対し周術期理学療法介入を経験したため,報告
する.
【症例紹介】
本症例は第一子出産後より胆管炎を繰り返し胆道閉鎖症と診断さ
れた20歳台女性である.肝障害重症度MELD score7点,ChildPugh分類Aの代償性肝硬変と診断され,出産後6ヶ月にLDLT施行
された.
【経過】
術前身体機能評価は,徒手筋力テスト(MMT)は上下肢5,握力は
右16.5kg,左16.8kg, 膝伸展筋力(Micro Fet使用)は右2.0
kgf/kg,左2.0kgf/kg,6分間歩行試験(6MWD)は490m,骨格
筋指数(SMI)は5.6kg/m2,位相角は4.9°であった(Inbody®S10
使用).術前から身体機能評価及び呼吸・排痰方法指導,運動指導
を行い,術後は安静度指示に合わせ術翌日よりICUにて理学療法
介入開始.術後7日目に初回離床を開始,点滴架台利用し歩行可能
であった.術後9日目に横行結腸穿孔発症,人工肛門造設術施行
され再度ICU入室.理学療法介入継続し術後14日目に再度点滴架
台歩行が可能となる.術後22日目に歩行とADL自立し,術後42
日目に自宅退院した.退院時,MMT上下肢5,握力は右13.8kg,
左12.0kg,膝伸展筋力は右1.0kgf/kg,左1.1kgf/kg,6MWD
は362m,SMIは5.0kg/m2,位相角は4.7°であった.
【考察】
本症例は術前同様のADL獲得に至り自宅退院したが,周術期には
適切な離床サポートを,また,移植前よりも身体機能が低下して
いたことから退院後の運動指導やADLに関する動作指導など本症
例の生活を想定した理学療法が必要であった.術前より理学療法
介入しサルコペニアの有無を含め身体機能評価を行ったこと,なら
びに退院後の生活を想定した指導など理学療法介入の意義は大き
かったと思われる.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象患者に症例報告の趣旨を
説明し,書面上にて同意を得た.