抄録
【はじめに,目的】
今回,腰部脊柱管狭窄症術後に下肢の筋力低下,疼痛が残存し,
起立動作獲得に難渋した症例を経験した.起立動作の重心移動に
着目し介入した結果,下肢の筋力低下は残存するものの,起立動
作の自立獲得が図れたため報告する.
【症例紹介,評価,リーズニング】
70歳代,男性.X-1年,両下肢の疼痛・痺れがあり,腰部脊柱管
狭窄症の診断となる.X年Y月,疼痛増悪により歩行困難となり,
第4/5腰椎椎弓切除術を施行し,術後より理学療法開始した.
初期評価時,疼痛は,安静時に両側腓腹部・大腿後面にあり,起
立動作の離殿時に増強した(NRS:8).関節可動域(R/L°)は,股
関節屈曲100/100,伸展-20/-20,足関節背屈0/0,筋力(R/L)
は,腸腰筋3/3,大腿四頭筋3/3,前脛骨筋2/3,腓腹筋3/3,
大殿筋2/2,長母趾伸筋2/4であった.起立動作は,第1相(屈曲
相)で,足関節背屈制限により足部の支持基底面が前方化していた.
また,胸椎後弯・骨盤後傾により後方重心であり,股関節屈曲角
度と体幹前傾速度が低下していた.さらに,第2相(殿部離床相)
では,下腿前傾の不足と大殿筋・大腿四頭筋の筋力低下から離殿
後に後方へ転倒するため,前方への重心移動に介助を必要とした.
また,離殿直後に両側腓腹部・大腿後面の疼痛が増強した.第3
相(伸展相)は,前方の支持物を使用しプッシュアップで代償してい
た.
以上より,当症例の起立動作の問題点は,下肢筋力低下以外に第
1 ~ 2相における足関節背屈制限と骨盤前傾・股関節屈曲角度の
低下による前方への重心移動低下であると考えた.
【倫理的配慮,説明と同意】
本報告は,当院の研究倫理審査委員会にて承認を受け,対象者へ
説明し同意を得た.
【介入内容と結果】
介入は,足関節背屈可動域練習,座位での骨盤前傾・股関節屈
曲による重心移動練習,起立動作練習を高座位から段階的に実
施した.最終評価時,関節可動域(R/L°)は,足関節背屈可動域
10/10,筋力(R/L)は,大腿四頭筋4/4と改善した.起立動作
は,介入開始後25日目にT字杖使用下で自立し,疼痛も軽減した
(NRS:2).
【考察】
野澤らは,起立動作において重要なのは臀部離床時でなく,体幹
屈曲を骨盤前傾から行い,下肢の筋活動に繋げていくことの重要
性を報告している.今回,下肢の筋力低下は残存するものの,骨
盤前傾・股関節屈曲による重心移動練習により第1相に改善が見ら
れ,疼痛が軽減し,起立動作が自立可能となったと考える.