抄録
【はじめに,目的】
重度感覚障害に対しての足底部の硬度/材質識別課題が,感覚機
能や歩行への影響を明らかにすること.
【症例紹介,評価,リーズニング】
60歳代の男性.左視床出血発症後,第16病日に当院回復期リ
ハビリテーション病棟に入院.入院時評価(第16 ~ 19病日)で
は下肢Brunstrom Recovery Stage(BRS)Ⅵ,Functional
Balance Scale(FBS)51点であり,病棟内はフリーハンド歩行で
自立していた.10点法での感覚機能評価は,触覚は下腿:3点,他
部位:0点,下腿:0 ~ 3点,痛覚は大腿:0 ~ 1点,足底:0点,足
背:2点,下腿:0 ~ 3点で右上下肢の感覚は重度鈍麻であった.タ
オルと芝生マットを使用した材質の異なる物品の識別課題は5回中
3回正答,閉眼立位での一側下肢最大荷重率(荷重kg/体重kg)は
右0.87,左0.93であった.歩行は開眼と比較して閉眼条件では右
股関節内転位で踵接地するため右側へのふらつきと転倒リスクを
有した.感覚障害に起因して主に歩行時に転倒リスクがあり,退
院後の生活を見据えて感覚障害およびバランス障害への介入を検
討した.
【倫理的配慮,説明と同意】
当院の臨床研究倫理審査委員会の承認を得た.
【介入内容と結果】
第19病日からの10日間,1日40分×2回の理学療法を週7日実施し
た.介入内容は,表在感覚の促通を目的に硬度や材質の異なる物
品を識別する表在感覚促通練習,荷重感覚の促通を目的に体重計
で指定したメモリに合わせてもらう荷重感覚練習,足底感覚の促
通を目的に日常生活で使用する物品を足底で当ててもらう足底感
覚練習を実施した.これらは,視覚で確認を利用しながら難易度を
調整した.介入後(第29病日)の評価では,触覚は足底:0~3点,
足背・下腿:1点,大腿:1~3点,痛覚は足底:0~1点,足背:1点,
下腿:1~3点,大腿:1~2点であり,物品の識別課題では誤りがな
くなった.閉眼立位での一側下肢最大荷重率は左右ともに0.93と
なった.FBSは56点になり,閉眼条件での歩行では右股関節内転
接地は軽減し,ふらつきに対する介助は不要となった. 靴を履いた
ままベッドにあがる行為も軽減した.
【考察】
難易度を調整しながら感覚促通練習を実施したことで,表在感覚
が改善したと考える.表在感覚が改善したことで,閉眼歩行での
右股関節内転接地が改善し,歩行中のふらつき軽減につながった
と考える.