抄録
【はじめに,目的】
脳卒中治療ガイドライン2021において, 長下肢装具( 以下,
KAFO)を用いた早期からの立位・歩行練習は強く推奨されている.
重度脳卒中片麻痺患者において,KAFOを用いた歩行練習は有効
であり,本人用の治療用装具の作製が望ましいとされている.一
方で脳卒中発症からKAFO作製までの期間がFIM運動項目の利得
に与える影響については散見される程度である.本研究は,脳卒
中発症からKAFOの作製期間がFIM運動項目の利得に与える影響
について再検証した.
【方法】
対象は,2020年4月1日から2023年3月31日までに当院回復期リ
ハビリテーション病棟(以下,回復期)に入院しKAFOを作製した
脳卒中片麻痺患者15名(平均年齢59.9±10.7歳,脳出血12名,脳
梗塞3名)とした.KAFOの作製時期が脳卒中発症から30日以内
の患者7名(男性5名,女性2名)と30日以降の患者8名(男性3名,
女性5名)の2群間に分け,後方視的にデータ抽出を行い回復期で
の入棟時と退院時のFIM運動項目の利得の比較検討を行った.統
計解析にはEZRを使用し,Mann-WhitneyのU検定で2群間の比
較を行った.有意水準はいずれも5%未満とした.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究ではヘルシンキ宣言に基づいて,個人情報が特定できない
ように十分に配慮した.
【結果】
KAFOの作製時期がFIM運動項目の利得に与える効果の比較検討
において,KAFOの作製時期が発症から30日以内の群は中央値
41.0点(32.5点-52.5点)の改善であり,30日以降の群は中央値
37.5点(21.5点-46.7点)の改善であり,有意差は認められなかっ
た(P>0.05).
【考察】
本研究では,脳卒中発症からKAFOの作製期間がFIM運動項目の
利得に与える効果について有意差は認められなかった.FIM運動
項目の利得が低値であった症例は,注意障害や遂行機能障害,記
憶障害等の高次脳機能障害を合併している傾向があった.また,
高次脳機能障害を合併していない,あるいは改善した症例では
KAFOの作製が30日以内,30日以降に限らずFIM運動項目の利
得は高値である傾向があった.当院ではリハビリテーション科医
師,義肢装具士,理学療法士で週1回装具診察を行っている.今
後は,多職種で総合的な判断を行い,作製を検討する必要がある
と考えられる.