抄録
【はじめに,目的】
ボツリヌス毒素療法(BTX)は,局所の痙縮に対する治療として広
く使用されている.BTXの効果は投与後1週以内で出現すると言
われているが,実際に動作がどのように変化したかの報告はまだ
少ない.今回,慣性式モーションキャプチャシステムを使用し,
BTX前後の痙縮を伴う歩行を経時的に評価したため報告する.
【症例紹介,評価,リーズニング】
症例は,中枢神経系悪性リンパ腫の26歳男性.BTX施行前の動
作能力は,屋外独歩自立で理学療法士として一部業務のサポート
を受けながら就労は可能であるが,左下肢優位の痙縮による跛行
があった.左下肢筋力はMMT 5であるが,modified Ashworth
scale(mAS)は左下肢で膝関節屈伸・足関節背屈は2,その他は
1であり,歩容は左立脚初期に膝屈曲位で踵接地せず,推進力を
代償するために右立脚中期から足底屈位となることから,左側の
腓腹筋と膝周囲筋の痙縮による歩行障害と考えられた.
【倫理的配慮,説明と同意】
本例には目的,得られた情報の利用について十分な説明を受け,
同意を得た.
【介入内容と結果】
介入内容は,BTX type Aで総用量120単位(各37.5単位×2:左
腹筋筋外側頭,25単位:左腓腹筋内側頭,20単位:左内側ハム
ストリング)を脳神経内科医師より注射した後,同筋のセルフスト
レッチを30秒間,3回を日中は2時間毎に実施した.
評価方法は,慣性式モーションキャプチャシステムe-skin MEVA
(Xenoma)を使用し10m歩行テストを快適速度で記録した.歩行
解析パラメータは,歩行周期における膝・足関節の最大角,側方
方向への骨盤中心,その平均値を算出した.また,安静時の痙縮
評価としてmASを実施し,これらの評価を投与前,1週後,2週後,
3週後でそれぞれ評価した.
結果は,BT X前,1週後,2週後,3週後において,m ASは,
膝伸展・足背屈共に2→2→1+→1+で,10 m歩行テストは,
9.32/19→7.91/16→6.81/16→6.87/16(秒/歩)あった.歩行解
析パラメータは,最大足背屈角(°):(左)15.6→13.7→23.3→18.3,
(右)- 4.7→ - 8 .7→ 0.3→8 .9,最大膝伸展角:(左)0. 2→ -
2.8→-1.7→4.7,(右)6.0→8.5→5.3→6.7,骨盤中心(cm)は
7.92→2.68→2.52→1.42と右側から正中位へ移動した.
【考察】
mASではBTX 2週後より変化を認めたが,歩行テストでは1w後
から変化があり,BTXの効果判定には動作評価が検知しやすかっ
た.また,歩行解析の結果から,BTX施行側のみならず,反対側
や骨盤の偏位にも着目する必要があると考える.