抄録
【はじめに,目的】
橋正中動脈(PPA)の分枝粥腫型梗塞(BAD)の麻痺所見では軽度
のものが多く,予後良好とされている.また,パーキンソン病(PD)
の移動能力を低下させる要因として,脳卒中の合併が報告されて
いる.しかし,脳卒中を合併したPD患者に関する報告は少ない.
今回,PPAのBADを合併したPD患者の目標設定に難渋した1症例
を報告する.
【症例紹介,評価,リーズニング】
80代男性.既往歴にPD(Hoeh &YahrⅢ.生活機能障害度Ⅱ度)
あり.要介護1,訪問介護,デイサービスなどを利用し,家庭内
ADL修正自立.X月Y日夕食の準備をしようとしたところ左下肢に
脱力感あり転倒.画像所見にて右橋底部のBADの診断にて入院.
本人のHOPEは自宅退院.
初期評価にて意識清明,Brunnstrom Recovery stage(BRS)
上肢Ⅱ, 手指Ⅲ, 下肢Ⅲ. 感覚障害はなし.Modified NIH
Stroke Scale(NIHSS)10点.Trunk Control Test(TCT)0点.
modifid Ashworth Scale(mAS)2~3.基本動作は重~全介助
レベル.Barthel Index(BI)0点.
本症例はNIHSS:10点と脳卒中では軽~中等症だが,PDに伴う
筋強剛や筋力低下,動作緩慢により,TCT:0点,基本動作では
重~全介助レベルとなっており,ADLの自立には困難を伴うと予
測した.発症3週後家族面談実施.軽微な麻痺の改善はみられ,
TCTは24点となったが,基本動作の介助量は重介助レベルと変化
なく,施設を探す方針となった.
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,対象者には十分に説明した上で,自由
意思による同意を得た.
【介入内容と結果】
移乗動作の介助量軽減を目標に,起立・立位保持練習から開始.
13病日,本人の要望もあり,長下肢装具を用いた立位・歩行練習
開始.状態に応じ,徐々にカットダウンしていき,装具非着用で
の歩行練習まで実施.51病日,BRS上肢Ⅳ,手指Ⅵ,下肢Ⅳ.
TCT:61点.mAS:1+~ 2.基本動作は軽介助レベルまで介助
量軽減し, BIでは55点まで上昇.訓練レベルでは体幹前傾,小刻
み歩行ではあるが,軽介助にて補助具なし20m,手すり把持にて
40mの歩行獲得. 介護老人保健施設へと退院となった.
【考察】
発症後3週の時点で麻痺の改善に比して,基本動作の介助量軽減
が認められず,施設退院方向となった.しかし,介入に伴い,発
症から約2か月で手すり把持にて40m歩行可能となった.介護老
人保健施設へと退院したが,本人のHOPEや回復過程を統合する
と回復期転院も検討の余地があったと考える.