抄録
【はじめに,目的】
腰部脊柱管狭窄症(LSS)の周術期の理学療法において痛み・しび
れは重要な帰結指標である.その痛みやしびれが退院後の予後と
も関連するかどうかについては不明である.そこで,本研究の目的
を,腰部脊柱管狭窄症患者における術後2週時の痛み・しびれが
術後1年時の健康関連QOL(HRQOL)および身体活動量(PA)と関
連するかどうか,関連しないとすればどんな指標が関連するかに
ついて明らかにすることとした.
【方法】
LSSに対する手術を受けた65歳以上の人のうち,少なくとも術後
21日まで入院していた人,術後1年時のHRQOLおよびPAの調査・
測定ができた人を対象とした.術後1年までにLSSあるいは別の疾
患の治療を新たに受けた人は除外した.術後2週時に①腰痛,下
肢痛・しびれのそれぞれの強度(NRS),②主観的な歩行とセルフ
ケアの自立度ならびに不安の程度,③痛みの破局化(PCS),④軽
度なPA(LPA)と中等度以上のPA(MVPA)を調査・測定した.術
後1年時には,HRQOL(SF-12)とMVPAを調査・測定した.PA
の測定には活動量計(HJA-750C)を用いた.術後1年時のSF-12
の下位項目およびMVPAと単相関関係にあった術後2週時の調査
項目と年齢・性別を独立変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)
を行った.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に従った.本研究の実施に先立ち,研究
実施施設の倫理審査委員会の承認を得た.また,研究対象者に
は研究の概要を書面および口頭にて十分に説明し,研究参加の同
意を記名にて得た.
【結果】
48人(73.0±4.7歳,男性25人[52.1%])が研究対象となった.
SF-12の下位項目およびMVPAのいずれとも腰痛,下肢痛・しび
れのNRSは有意な関連を示さなかった.SF-12の下位項目と有意
な関連を示した指標は,セルフケア(身体機能,日常役割機能(身
体),体の痛み,社会生活機能,日常役割機能(精神)),不安(活
力,社会生活機能,メンタルヘルス),PCS(日常役割機能(身体),
体の痛み,全体的健康感,日常役割機能(精神))の3つであった.
MVPAと有意な関連を示した指標はLPAと年齢であった.
【考察】
痛み・しびれの程度は周術期における重要な帰結指標ではあるも
のの,退院後の生活を見越した術後理学療法を計画するための指
標にはならないことが示唆された.セルフケアの自立度や心理状
態,痛みの破局化,院内での活動性の観点から多面的に心身を
評価する必要性があるだろう.