公共政策研究
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特集論文
公共サービス提供における10年後の社会的課題
藤井 誡一郎
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2023 年 23 巻 p. 25-36

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抄録

新自由主義に基づいた行政改革により,公共サービスの提供主体の中に「孤立」と「分断」が常態化するようになった。それらは①直営と委託の分断,②不測の事態時の自治体の孤立,③正規職員と非正規職員の分断,④技能労務職の中での年配者と若手の分断,⑤役所組織内におけるサービス提供部門の孤立と分断,である。そこには,㋐公共サービスの質の劣化,㋑不測の事態に柔軟に対応できない体制,㋒非正規職員の処遇の改善㋓組織内の閉鎖性といった課題が生じている。

これらの課題が時の経過とともに解決されるとは考えられにくく, 10年後は現状のままか,さらに深刻化した状態になっていると推察される。とりわけ㋐と㋒については特に深刻な社会的課題になっていると考えられる。㋐については安定的な業務委託先としては機能しにくくなる状況が見込まれる。㋒については,今後も増加する行政需要や新たな需要に対応していくための非正規職員の採用が見込まれるため,さらに手の施しようがない壊滅的な状態に陥る可能性がある。

行政改革による公共サービス提供主体の脆弱化に対し,今後は「行政改革で失った資産をいかに取り戻していくか」が大きな社会的な課題になるであろう。公共政策学では多元的な主体によるガバナンスのもとでのガバメントの役割について,学際的な分野からの議論を展開していく必要がある。

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© 2023 日本公共政策学会
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