RADIOISOTOPES
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総説
低速反陽子が拓く反物質の原子物理学
鳥居 寛之
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ジャーナル オープンアクセス

2010 年 59 巻 1 号 p. 37-48

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抄録

反物質に関する物理学の最先端について,CERNの反陽子減速器施設において「低速反陽子を用いた原子分光ならびに原子衝突」を掲げる筆者らASACUSA国際共同実験グループの研究を中心に概観する。
反陽子ヘリウム原子は粒子・反粒子間のCPT対称性をテストする格好の素材である。このエキゾチック原子の精密分光により,これまでに反陽子の質量を十億分の1のオーダーの精度で決定することができるようになった。
また,筆者らは反陽子を減速・冷却し,超高真空中の電磁トラップに捕捉して電子ボルト以下のエネルギーまで下げる技術を開発した。更にこれを250eV程度の超低速ビームとして引き出すことに成功し,このビームは,イオン化過程や反陽子原子の生成過程の研究に応用することができる。
反水素はATRAPおよびATHENA(現ALPHA)実験グループによって,入れ子構造のペニングトラップで低温での合成に成功している。この中性反原子を磁場勾配でトラップし,将来的に1S-2S準位間のレーザー分光を目論む研究が進行中である。一方でASACUSAはカスプトラップを用いて反水素原子を生成し,スピン偏極した反水素の超微細準位間をマイクロ波分光することを目指している。

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