ニュートリノは素粒子標準模型を構成するフェルミオンの一種である。電荷を持たないニュートリノは,粒子と反粒子を転換することのできるマヨラナ粒子である可能性がある。ニュートリノのマヨラナ性を検証するためには,ニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊探索と呼ばれる極稀な現象を観測する必要がある。我々は,CaF2シンチレータを用いたCANDLES実験によって,48Caの二重ベータ崩壊を探索している。本稿では,その背景となる物理や,筆者が中心となって行った実験装置の高感度化をメインに解説を行う。
核医学診断は,適切な診断用核種を導入した放射性薬剤を用いる画像診断法であり,様々な疾患の経時的な診断や病態発現の機構解明が可能となる。また,治療用核種を導入した放射性薬剤は,全身の病巣に対して強い細胞殺傷効果を有するため,新しいがん医療として期待される。本稿では,がんや脳疾患領域における核医学診断や核医学治療のための放射性薬剤開発に関して,著者らの研究を含めた最近の研究動向について概説する。
日本アイソトープ協会理工・ライフサイエンス部会RI利用推進専門委員会は,利用者の意識調査及び今後のRI製造者との橋渡しに向けた基礎調査を目的とし,2021年度にRI利用者アンケート調査を実施し,164名から回答を得た。本資料では,各専門分野における使用核種や量,また今後使用したい核種などの調査結果をまとめ,今後のRI利用推進に向けた考察を述べた。
貴重な土壌試料をガンマ線測定による天然放射性核種定量後も有効に使うために,PTFEシールによるU-8容器簡易密封法を検討した。本法により標準物質中の天然放射性核種を適切に定量できた。量研機構の1970年代のアーカイブ土壌試料222試料に適用し,40K, 232Th系列,238U系列に加え,土壌が現地の自然環境に長期間曝されていたことの判定のために137Cs濃度データを取得した。定量した天然放射性核種濃度から理論的に計算できる空間線量率の結果は,実測値とよく一致した。
ウラン系列核種間の放射非平衡系を利用したU/Th年代測定は,地質学や古気候復元研究などにおいて,10–105年といった時間スケールに対して使用可能な,高精度な数値年代を提供する年代測定法である。本稿では,炭酸塩試料(サンゴ骨格・鍾乳石)を用いた年代測定に関して,これまでのウラン系列核種年代測定の原理,測定法の変遷および最近の研究例を紹介する。