ガンマ線スペクトル分析による放射性核種判定(RIID)は幅広い分野で利用されており,正確な放射性同位元素の同定は様々な分野で重要な課題となっている。ラボラトリ外の現場におけるRIIDにはハンドヘルド機器が一般的に使用されているが,その性能が限定的であることに課題がある。本稿では,現場使用を想定したハンドヘルド機器によるRIIDのための,教師なしニューラルネットワークモデルを用いたスペクトルデコンボリューション手法を提案する。本手法では,測定されたスペクトルとエネルギーゆらぎ行列(energy-broadening matrix)に基いたデコンボリューションのためのニューラルネットワークの最適化が可能であり,大規模な訓練データセットや検出器・測定条件の正確なモデリングを必要としない。CsI(Tl)スペクトロメータを用いた放射性同位元素の測定を想定し,シミュレーションと実測スペクトルの両方で提案手法の性能を調べた。その結果として,教師なしニューラルネットワークモデルは従来のデコンボリューションアルゴリズムと比較してもピーク分解能を大幅に向上させることができ,本手法が低エネルギー分解能スペクトルにおけるRIID性能に寄与することを実証した。
PETquactIE(PET quality control tool of image evaluate)は日本核医学会のPET撮像施設認証に対応した解析ソフトウェアであり,PET撮像施設認証受審前のツールとして有用である。本研究では,18F-FDGとアミロイドイメージング剤を用いた脳PET撮像のためのファントム試験手順書に準拠して撮像されたPET画像を用いて測定精度を検討した。物理学的評価値である%contrast,CV,およびSDΔuROIは学会と同じ解析環境の結果と同程度であり,当該PET施設の条件設定にも利用できると示唆された。
無人ヘリコプターに搭載されたコンプトンカメラシステムの計測精度を向上させるため,これまでの解析で固定されていたシンチレータ座標を,イベントごとに変化する位置と傾きを補正した座標に置き換えました。再構成されたガンマ線画像の精度を評価した結果,地上計測値との相関関係が改善され,この方法の有効性が実証されました。
膨大な数の化学物質の安全性評価が化学物質規制の大きな課題であり,そのリスク評価に既存の生物学的知見を活用するために,有害性発現経路(AOP)の開発が精力的に進められている。近年,AOPを放射線防護分野に活用するための議論が,欧米を中心に展開され始めている。本稿では,AOP開発に関して,化学物質規制科学分野でのAOP開発,そして,放射線防護分野での活用に向けた取り組みに関する経緯と動向を紹介する。
177Luが含まれる放射性薬剤が,核医学治療に用いられている。このため,産業技術総合研究所計量標準総合センターにおいて,177Luの放射能が4πβ–γ同時計数により絶対測定された。113 keVと208 keVのγ線を用いてβ線との同時計数が行われた。本測定により,日本における177Luの放射能標準が確立できた。